第13話 快楽
倒れたおれの顔面に追い討ちのパンチが飛んできた。1発はくらってしまったが、2発目がくる前に寝そべったまま蹴りで突き飛ばすことで回避した。
そして起き上がって距離を詰める。
「まだまだ動けるよねぇ? もっともっと楽しもうかぁ!」
ダメージを負いすぎて狂ったか? さっきまでとまるで様子が違う。
「狂ってないで歯ぁ食いしばりな」
相手のパンチをかわしながら本気の右ストレートを食らわせた。
───と思ったが、手応えが無い。
こいつ、顔を背けてダメージを晒しやがった。それも、カウンターに対して。どんな関節と反射神経してんだ。人間の動きじゃない。
「──っ!!」
「捕まえたぁ」
重心を落として、ぬるりと背後に回ってきた。そしておれの首に腕を回し、締め付けてくる。
「死んじゃえっ」
楽しそうにおれを殺しにくる変態。腕を引き離そうとするが、相当な力強さで全然外れない。
(やばい……苦しい!)
こういう時、どうするんだっけ。
確かおっさんとの修行で習ったのって……そうだ、思い出した。
おれは相手の腕に両手を掛け、そのまま前かがみになるように相手を背負い投げした。
そして倒れた敵の顔面に思いっきり蹴りを入れ、それだけで終わらずマウントをとって何度も何度も顔を殴った。
やりすぎとも思ったけど、これくらいしてやっと意識を失った敵だった。──しぶとかった。
おれは立ち上がり、終わったことに一安心していると、やつの奇妙な笑い声が聞こえて、背筋が震えた。そして同時に嫌気が差した。
「アァーハッハッハ。気持ちいい……! こんなに気持ちのいいダメージは久々だ!」
ボロボロになりながらも、やつは笑いながら起き上がった。
「マジで何者なんだよお前……」
「何者でもないさ。ただ、人より少し痛みが好きなだけの凡人さ」
……奇妙すぎる。
「人よりって……そもそも痛みが好きな人間なんていないだろ」
1人で快楽を感じている変態は、今まで見せなかった驚異的なスピードで距離を詰めてきた。
驚いたけど反応できない速度じゃない……!
おれはラッシュで返り討ちにしようとするが、敵はガードを一切せずに、笑いながらおれのパンチをかわしている。
……って思ったけど2発に1発はかわせずに当たっているな。ダメージは結構入っているはずだ。
────それなのに全然倒れない!
「それじゃあ交代っ!」
今度は敵がラッシュを返してきた。おれはひたすらガードして耐え抜いた。こうなったら真っ向勝負で倒れるまで殴り続けてやる。
おれは意地になってガードを辞め、互いにノーガードの殴り合いを始めた。
(どっちが先に倒れるか、我慢比べだ……!)
ひたすら打撃音が続く不思議な時間。いい加減殴り合いにも飽きてきたところで、急におっさんから声をかけられた。
「エレナ! 行ったぞ!」
何かと思って振り返ると、おっさんが相手にしていた敵のボス、テンがぶん投げられて飛んできた。
おれは慌ててバックステップで距離を取ると、テンはロエリーと衝突し、倒れ込んだ。
「エレナ、閃光で変態のほう、腹狙え」
「わかった」
咄嗟の連携技だった。瞬時におれの隣にきたおっさんは耳元でそう呟き、おれとおっさんは閃光突きのため、2人して地面を強く蹴った。
そして立ち上がった不死身のロエリーに向かって、おれは右で腹に、おっさんは左で顔面に渾身の閃光突きを同時にめり込ませ、振り抜いた。
「閃光突き!!」
入社試験の時に使ったこの奥義。おっさんに教わったからおっさんも使えて当たり前だ。っていうかむしろ本家。
白目を剥きながら飛んでいったロエリーは、街の建物に激突し、今度こそ意識を失った。
「さて、次はお前の番だ」
おれとおっさんは同じように、にやけ面で敵のボスをの方を見た。
追い込まれて表情に余裕のない敵のボス。舌打ちをしながらナイフを片手に構えている。
ロエリーとの戦いがあったからおっさんの方を全然見ていなかったけど、敵のボスもかなりボロボロだ。
余裕そうなおっさんの様子から見るに、どちらが強いかは一目瞭然だ。
おっさんは前に走り出し、同時に敵のボスも向かってくる。
敵は顔面に向かってナイフを突き出すも、かわしてクロスカウンターのように敵の腹に強烈なパンチを食らわせた。
みぞおちにモロにパンチをくらった敵のボスは、体をくの字に曲げながら一瞬浮いていた。
おっさんはめり込ませた拳を振り抜き、勢いよく地面に叩きつけた。
「やっぱ強ぇや、おっさん」
地面にうずくまっている敵の胸ぐらを掴んでおっさんは尋問を始めた。
「おい、まだ他に仲間はいんのか? 一応、街の中のやつらは全員シメといたが」
おっさんが話しかけても、敵のボスは殴られたダメージでまともに呼吸ができていない。かなり苦しそうだ。
「ったくしょうがねぇなぁ。まぁ、ここでこんなことしても仕方ねぇか。話は牢屋でたっぷり聞かれるだろう。エレナ、こいつの部下も全員集めて縛りつけるぞ。もういねぇとは思うが、一応残党がいないか気を付けるように」
「わかった。おっさんはこいつら見張っててよ。おれが集めてくるから」
「その前にちょっと待て。ヒスリーを呼んでくるから一緒に行け。一人一人担ぐより、加護を使ってもらったほうが楽だし早いだろう」
「あ、確かにそうだね」
近くに待機していたヒスリー社長を呼んで、一緒に街の中を回った。社長の力で次々と敵たちを縛って担いでもらった。
「よし、こいつら連れて帰ったら任務は完了だな。腹減ったし、さっさと帰ろうぜ」
おれたちは再び馬車に乗ってアミノスの街に戻った。
帰り道、疲れた体に運転手さんとの世間話が意外と面白くてちょっぴりいい思い出だったりした。
移動時間があっという間に感じたおれだった。
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