第11話 武力行使(ソロ)
駆け寄ってくる武器持ち3人たち。囲まれている以上、このままじゃやられるのは目に見えている。まずは抜け出すことが重要だ。
おれは盾を前に構えて、鉄パイプを持った敵の方へ向かって全速力でタックルした。
包囲網を突破したい一心だったが、意外にも敵は鉄パイプで殴ってくるのではなく、タックルするおれを捕まえにくるという賢策に出た。
こいつら、しっかりと連携でおれを仕留めるつもりだ。不意をついたつもりが逆に不意をつかれてしまった。
敵の1人に捕まえられたまま背後からはナイフ持ちと剣持ちが走り寄ってくる足音が聞こえた。
(やばい、やられる──っ!!)
焦るおれの脳裏には、おっさんとの修行の出来事が蘇った。
『──いいか、戦いにおいて大事なのは戦術や情報量だけじゃねぇ。まずは純粋なパワー、スピード。この2つを持ってねぇとそいつの人生はそう長くは無い。頭使ってその場をやりくりするのも悪くねぇが、どうにも行かなくなったきは、クソ
おれは渾身の力を振り絞って、掴んできている敵の腕を引き剥がそうとした。
「は……なせやこらぁ!!」
「てめ……なんつう力──っ!!」
ついテンションが上がって、腕を引き剥がすのを辞めて、敵を担いで他の敵に向かってぶん投げた。
「はぁ、はぁ……こちとら岩ぁ担いで修行してきてんだ。てめぇごとき軽いもんよ」
まだまだ体は小さいけど、力には自信がある。それくらいの修行を積んできたから。
そうしてなんとか包囲網から脱出したけど、武器持ちの3対1対という圧倒的不利な状況は変わらない。まずは1番危険な剣持ちをどうにかしないと。
と、思った矢先に、考える暇も与えてくれず剣持ちが一目散に駆け寄ってきた。
慌てて落としてしまっていた盾を手に取り、防御の構えをとる。
縦振り、横振り、突き。ランダムに、それも笑いながら好き放題剣を振ってくる奴の攻撃は、意外と防ぐのが簡単だった。
───何故なら、大振りだから。
大振りほど剣の軌道が分かりやすいことはない。しかも味方も巻き込まれるから同時には攻めてこない。これならやれる。
「防いでるだけじゃ勝てんぞ坊ちゃん!!」
「なら攻めさせてもらうよ」
おれは口角を上げて静かに笑うと、次の剣撃を弾いてバックステップをとった。
「ちょこまかと──!」
そして持っていた盾を優しく敵の顔に下投げすると同時に、地面を蹴って前に飛び出し、敵の足元にスライディングで潜り込んだ。
敵からしたら一瞬飛んできた盾で視界を塞がれて、弾き返した時には目の前からおれが消えているように錯覚したはずだ。
「足元がお留守だよ」
「なっ!」
気づいた時にはもう遅い。おれはスライディングしながら敵の右足を掴み、立ち上がりながらその足を掬い上げた。
当然のことながら敵は転倒し、おれはとりあえず剣のグリップ部分を狙って思いっきり蹴り飛ばした。
こいつにも1発入れたかったが、仲間が邪魔してきたので、再度距離を取った。
さらに、興味本位で蹴飛ばした剣を拾いにいき、手に取ってみた。
(剣って結構重たいんだな。武器の練習はナイフと棒しかしたことなかったから、変な感覚だ。慣れないことはするもんじゃないね)
おれは敵とは反対方向に剣をぶん投げた。やっぱり素手の方が好きだわ。
さぁ、こっからはテンポよく戦っていこう。
今度は鉄パイプ持ちが駆け寄ってくる。リーチが長いため、剣の次に厄介な武器だ。
おれは地面に落ちている手ごろな石を手に取り、そいつの顔面に向かって投げつけた。
見事に顔に当たり、一瞬目をつぶってひるんだ隙を逃さずおれは間合いを詰めた。
右手で鉄パイプを押さえ、余った左手で何発か短いパンチを打ち込んだ。敵が鉄パイプから手を離したのでそのまま奪って攻撃し、1人を撃破した。
「次はナイフ持ちのアンタね!」
鉄パイプを持ったまま、ナイフ持ちに向かって行くおれ。ナイフの間合いに入らない位置で敵のナイフを持つ手を叩き、落としたところで一方的に鉄パイプで攻撃した。
乱入してきた残りのやつもろとも、おれは鉄パイプによる連続攻撃で倒すことに成功した。
なんとか1人で全員倒すことができて、一安心した。
他に追手もいないので、一旦村を散策することに。おっさんもどこに行ったんだか。
少し歩き回ってみたけど、これ以上の敵はいないようだ。
そんなとき、ふと村の入り口まで戻ってくると、おっさんの姿が目に入った。
「おっさ……ん?」
おっさんの前に、フード付きの黒いマントを着た2人組が立っていた。
「おっさん!」
おれはとりあえずおっさんに駆け寄って合流した。正面から相手を見ると、顔がよく見える。見ただけでわかる。こいつらは敵だ。
「こいつら、誰?」
「さぁな。おれも今出くわしたところだからわからねぇ。ただ、おそらくどっちかがここの頭なんだろうな」
敵は2人ともフードを脱いだ。
長身で白髪の男と、黒髪で根暗そうな男。どちらもさっきまでのチンピラと違って、荒々しさは皆無だった。
「もしかして軍の連中が攻めに来ちゃった? あの支部長にそんな根性があるようには見えなかったんだけどなぁ。脅しが足りなかったかな」
「おめぇがここのボスか?
「そうだよ。そういうあなた達はどちら様? どう見ても素人には見えないんだけど」
「ああ、おれらはロマーニの街で自警団をやってる者だ。せっかく旅行でこの辺まで来たから観光を、と思ってな」
敵のボスは大きく笑った。一瞬、おれの方に視線が向いたのが不気味だった。
「そっかそっか。それはまた派手に遊んで行ったみたいだね。そしたら最後に僕が案内してあげるよ…………死という最高の終着点にね」
会話の途中だったが、一瞬で敵のボスはおっさんとの距離を詰め、ミドルキックを放ってきた。不意をついてきた攻撃だったが、おっさんはしっかりと反応して防御していた。
「テンさん! ここは私がやります」
「いや、ロエリー君の敵う相手じゃなさそうだ。君にはそっちの若い方をお願いしようか」
おっさんとテンとかいう敵のボス。それと、おれの相手はロエリーとかいう黒髪の側近になりそうだ。
「エレナ、そっちは任せるぞ。さっきの戦いで怪我してねぇか?」
「なんとか無傷でやってきたよ。体も温まっていいウォーミングアップだったよ」
「へっ、言うじゃねぇか。ならこっから本番だ。気合い入れて行くぞ!」
「おう!」
盗賊集団、"横"との最終決戦が始まった。
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