第10話 潜入

 さっき逮捕した敵の言葉を頼りに、アジトの近くまでやってきた。

 林道の側に佇むそれは、アジトというより小さな村のようだった。きっとあの村も奪い取って使っているんだろうな。


「ヒスリーと運ちゃんはここまでだ。敵に見つからない場所で待機していてくれ」

「了解」


 ここからはおれとおっさんの2人で潜入する。ちょっと緊張するけど、おっさんがいるから安心だ。

 おっさんの後について行き、静かに敵のアジトの敷地内に足を踏み入れた。


 建ち並んでいる民家に身を隠しながら、少しずつ奥へ進んでいくおれたち。ここでやっと敵の姿を目撃した。


 4人が民家の前で腰を掛け、雑談しながら武器の手入れをしているようだ。


「おっさん、どうする?」

「あいつら自分らが襲われるとは全く思ってないだろうな。本当は後ろからいきなり殴りてぇところだが、万が一盗賊集団じゃなかったら恐ろしい。不意打ちは諦めて、堂々と姿を現そうか」


 あ、そういう感じになるんだ。そういえば道中で敵と出くわした時に言ってたな。決めつけて手を出さないようにって。


「おうお前ら、ちょっといいか」


 宣言通り普通に歩きながら敵の前に姿を現すおっさん。相手は全員驚いて立ち上がり、持っていた武器をそのまま構えた。


「誰だお前ら。この辺じゃ見ねぇ顔だな」

「通りすがりの旅のもんなんだが、この村はそんな物騒なモンを当たり前に持ってんのか?」


 敵達は互いの顔を見合い、声を上げて笑い出した。


「そうだ。こんなふうに道ゆく人間に向けるとよぉ、なぜか知らねえけど金品食料を置いていってくれるんだよなぁ。ついでだからおっさんも財布、置いていこうか」


 おっさんの首元に剣を向ける敵の一人。こんな絵に描いたような悪党がいるんだな。どうやって育ったらこんな風になるんだろう。


「やれやれ、確認するまでもなかったな。エレナ、やるぞ」

「おっす」


 おっさんは突きつけられた剣をかわすべく後ろに跳びながら、同時に右脚で敵の剣を持つ腕を蹴り上げ、剣を落とさせた。


 咄嗟の連携だが、それを見たおれは入れ替わりで前に出てそいつの顔面に一撃、そしてよろけたところに回し蹴りを食らわせた。


「おっさん。今回はおれに全部任せてよ。修行もいいけど、実践経験を早く積みたい」


 おれのわがままに、おっさんはすんなり承諾してくれた。おっさんがいたら正直おれなんかいなくても片付けるのは容易だと思う。

 だから、ここはおれしかいないと思って、本番だけどその予行演習として戦ってみたかった。


「おれが相手だ。全員まとめてかかってこい」


 手招きして挑発すると、敵はこっちに走り寄ってきた。他の3人が持っている武器は、ナイフ×2に、鉄の棒×1。

 おれはさっき蹴り飛ばしたやつが持っていた剣を拾って、後方へ思いっきりぶん投げた。剣が1番危ない武器だからね。


 先頭のやつがナイフを突き出してくると、おれは半身で交わしながら足を引っ掛けてかした。

 もう1人はナイフを振り回してきたので、当たらない距離をキープしながらかわし続けた。


「ちょこまか逃げてんじゃねぇ!!」


 イラついているナイフ野郎は、かなり息が上がっている。

 すると、さっき転かしたもう1人のナイフ野郎が、後ろから走ってくる音が聞こえた。


 おれはその場で高くジャンプし、空中で両脚をを180度開いて正面と後方の両方の敵の顔面に蹴りを入れた。

 そしてカウンターで倒れた後方の敵にすかさずパンチを落とし込んでダウンさせた。


 休む暇なく、今度は鉄の棒を持った男が殴りかかってくる。

 刃物と違って一見危なくなさそうに見えるが、まともに殴られるとあっさり骨が折れてしまうので、油断ならない武器だ。


 縦振りをかわしてジャブを1発入れるも、怯まず次の横振りを繰り出してきた。

 横腹にモロに入ったが、おれはそのまま棒を掴んで左のハイキックをお見舞いした。


「痛ってぇな畜生」


 鉄パイプを奪うことに成功したおれは、まだまだ立ち上がってくる3人をパイプで殴り、この場をおさめることに成功した。


「何モンだおい!!」


 音で気づかれたか? 

 今度は5人、新たな敵が現れた。剣持ちが3人もいるじゃんか。こりゃ勝てねぇな。


「おっさん、ちょっと走るね!」


 と声かけして振り返ると、おっさんはそこにはいなかった。どこにいったんだ? 

 まあいいや、気にせず自分の仕事をしよう。


 おれは5人から逃げるように走り始めた。敵も当然ながら後を追ってきている。


 さすが悪党のアジトなだけあって、武器や防具など、戦闘に使うものがいろんなところに置いてある。

 おれは立て掛けてあった丸い盾を手に取り、狭い路地に入り込んだ。


「その先は行き止まりだぜ、小僧。残念だったなぁせっかく逃げ切れると思ったのに」

「あーあ、どうしよっかなぁ。子供だからあんまり痛い思いさせないでね」

「ハッハ! そりゃ無理な話だ!」


 人ひとりしか通れないこの路地に、安易に踏み込んでくるおバカなチンピラ達。

 そんな長い武器がここで振り回せないってわかんないのかね。


 おれが盾だけを持ってここに来た理由は、1対1の環境を作りたかったのと、敵の武器を封じるためだった。

 先頭のやつは建物が邪魔で剣を自在に振り回せないため、上から下に垂直に振り下ろして攻撃を仕掛けてきた。


 だけどそんな見え見えの軌道は難なく盾で弾いて、敵の顔面に正拳突きを食らわせた。

 鼻血を出して痛がる隙を見逃さず、右のアッパーで1人目を撃破した。


「戦闘中に隙を見せちゃダメだよ」


 続けて2人目が見方を飛び越えながら剣を片手に突撃してきた。

 今の戦いを見ていたからか、縦振りではなく突きで攻めてくるが、大して変わらない。


 正面に盾を構えて剣を防ぐと、敵は衝撃で剣を手放した。


「ほら、上だよ」


 おれは盾を敵の頭に思いっきり振り下ろしたが、両腕でガードされた。

 だけどそんな意識が上にいっている中、股間を蹴り上げて怯んだところで顔面に飛び膝蹴りを食らわせ2人目も倒した。


 さすがに2人もやられて学習したようで、残りの敵はこの細い路地には入ってこなかった。

 おれはダッシュで路地を抜け出すと、右からナイフが飛んできた。


 驚いたけど間一髪、盾で防ぐことができた。


「あっぶな……ガキんちょ相手にとんでもねぇことするよな、ほんと」


 防いだのはいいけど、立ち位置が最悪だな。残りの3人に囲まれてしまった。


「ガキぃ、この辺で降参したほうが身のためだぜ」

「降参? これだけ優勢なのに何で降参する必要があるの?」

「ハッ! 死んでも知らんぞコラァ!!」


 三方から同時に走り寄ってくる敵達。


 剣持ちが1人、残りはナイフと鉄パイプ。複数人を相手にする修行はしてきたから、焦らず冷静に行こう。


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