第23話 身の毛もよだつ拷問に泣き叫ぶ事情・恐怖1
3つの信玄餅のきんちゃく袋に、頭から下を押し込まれたねず市、ねず華、ねず坊は、口に粘着テープを貼られたまんま、もごもごと喚いておりました。
暗がりの倉庫、停車中の冷凍車、潮の匂いと魚の香り。
誘拐犯のアジトには打って付けのこの場所は、鮮魚あぶらたにの使われなくなった第2倉庫でありました。
あぶらたにの7つの子、兄ちゃんを筆頭に、ダイアナ、フローレンス、ベティ、ラン、スー、ミキは、大切なねず質を取り囲んで、マンチカンらしからぬ威嚇を続けていました。
世にも恐ろしい拷問のはじまりです。
それぞれのねず質の前には、キンクマの大好物、ひまわりの種で造られた回し車があります。
こしらえたのは、職人肌のフローレンスとミキ。
脱獄を阻止するための防御壁は、LEGOが使用されておりまして、それはまさにアルカトラズを彷彿とさせる出来栄え。
不敵な笑みを浮かべながら、兄ちゃんはねず市に詰め寄りました。
つい先日、店舗兼住居で覗き観たバイオレンス映画の主人公になった気持ちで、兄ちゃんはとってもワクワクしていたのです。
「テメエどう落とし前付けてくれんだ馬鹿野郎。仲間を傷モノにしやがって馬鹿野郎!それとも何か?キンクマは鼠じゃないから判りません、記憶に御座いませんてえのか馬鹿野郎!答えてみてくださいよ、じゃなっかった。答えてみろよチンチラ!馬鹿野郎!チンチラ!!」
もしも擬人になれるのなら、思い切って任侠の世界で生きてみたい。
小心者の兄ちゃんの憧れは、テンシキの司祭、所謂、宣言師なる鼠伝の末裔を見つけた瞬間に膨れ上がったのでありました。
短い尻尾をプルプル震わせながら、兄ちゃんの肉球は、ねず市の粘着テープへ迫ります。
ねず市はチュウとは泣かないで、ひげをピクピク怒り心頭。
そんな事も知らない兄ちゃんは、思い切ってテープをビリビリビリ!!
これにはたまらず、ねず市の何処かの血管がちょん切れてしまいました。
「イテェじゃねえか。おうおうおう!ありゃあ、ひげが一本取れちまったぜい。やいやいやい!どうしてくれんだよ、テメエこの野郎馬鹿野郎!」
「ば、ば、馬鹿野郎!オメエ・・・馬鹿野郎・・・テメエみたいな方々は、立場が理解・・・で、出来ておられないのですね馬鹿野郎!」
予期せぬ反発に、元来臆病ねこの兄ちゃんは涙目で言い返しました。
それでも、江戸っ子キンクマの怒りは治まりません。
「なんだとこの野郎、言ってくれんじゃねえか!きな粉まみれにしやがって、あ!?黒蜜はどうした!どうなんだよ。ないのか!?転売屋かオマエ!」
「て、て、転売屋だと馬鹿野郎!転売屋では御座いません!」
「だったらただのチンピラじゃねえか!?それともチンチラか!?おう、テンシキ組に戦争仕掛けようってのかい!?戦争やろうってのかい!だったら今すぐ撃ってみろ!ホラ、どうした!?撃ってみろよ馬鹿野郎!?」
「撃つものがないんですよ・・・馬鹿野郎・・・」
「ハジキはないのか馬鹿野郎!」
「は、ハジキなんて・・・重たいし大きすぎるじゃないですか・・・ば、ば、ばかあ~やろう・・・」
もうぐちゃぐちゃであります。
ここは助太刀をしなくてはならない訳で。
そこで頼りになるのは、あぶらたにの7の子、頭脳派長女のダイアナで御座います。
実におっとりとした語り口調で、息巻くねず市をたしなめながら尻尾プルプル。
多少の緊張はご愛敬とでも申しましょうか。
「ねえねえ、話が先に進まないからさ、ごっこはそれくらいにしてさ、早く拷問しちゃおうよ。そしたらさ、きっとね、言うことを聞いてくれると思うの。だってさ、だってね、よ~く考えてみてよみんな。もしだよ、お兄ちゃんがとても恐ろしい拷問にかけられたらどうする?助ける?放っておく?じゃあ、民主主義的に挙手でおねがいしま~す。反対だ~れだ?」
言い方はおしとやかでも、内容はたいそう残忍で御座います。
もちろん挙手はありません。
「それじゃあ、賛成だ~れだ?」
と、ダイアナが言うと。
「さんせ~い」
「さんせ~い」
「さんせ~い」
と、かわいい肉球お披露目合戦が始まりました。
これを見た、ねず市は尚も叫びます。
「おうおう!好きにしろい!覚悟は出来てんだ!煮るなり焼くなりし好きにしろってんだ!!!」
みんなの代わりに、4女のランが喋り始めますが、これまた機械的。
「いたしません・・・拷問を受けるのは貴方ではありません・・・恐ろしい拷問を受けるのはあなた以外のねずみ・・・あなたは見てるだけで結構です・・・要求はひとつ・・・はいと言うまで止めません」
冷酷な声が、アジトに響き渡りました。
効果覿面で御座います。
ねず市の威勢はSiriすぼみと相成りました。
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