第18話 ネコジンは、用法容量を正しく守ってお使い下さい

「まあ!なんてことでしょう!」


マルグリーデの声を聞いて、みたらしと雪之丞はギャッと飛び上がり、すっぽんぽんのまま再び抱き合ってしまいました。

無理もありません。

互いに猫時分の頃は、何も着けないままで、鼻先や口や顎や脇腹、時には尻尾やお股ら辺も舐めてあげたりしてた訳ですから、抱き合うなんて屁でもない。

と、思いきや・・・。

どうにも人間脳ってやつは厄介で御座いまして。

裸が兎に角恥ずかしいのです。

しかも、肌と肌がひっついてるのも堪らなくこちょばゆい、顔から火が出ちゃう。むらむら、ドキドキ、ヒリヒリ、そわそわ。

ここぞとばかりに頼りになるのが、冷静沈着のち、ところにより冷酷無比の雪之丞の取り繕いで御座います。

すかさず、マルグリーデにぴしゃりと言い切ったからお見事!


「私たち、決して怪しい者じゃないのよ。長旅の道中、道に迷ってしまって此処に辿り着いたの。私たちが盗賊や山賊に見える?ジプシーなの。仕合わせ探しのジプシー」


ところが人間社会では、雪之丞の言葉はちんぷんかんぷんのとんちんかん。

素っ裸の不法侵入者の開き直りに、マルグリーデもぽかんと、開いた口が塞がらない。

たまらずしゃしゃり出る、これまた全裸のみたらし。


「ごめんなさい。ぼくたち行くところがないんです。大海原で海賊に遭って・・・じゃなくて・・・赤城の山で山賊に遭って、身ぐるみはがされちゃったんです・・・しばらく、今しばらく・・・」


「私からもお願い。無理強いはしないわ。イヤなら直ぐに立ち去るから」


もう2人とも、自分がすっぽんぽんだってことを忘れている始末。

それに、公然わいせつ罪並びに、不法侵入罪で逮捕という概念が無いのですからおめでたい猫人で御座います。

ロシア人のマルグリーデは、日本語が解らない訳ではありませんから、2人の言葉はちゃんと把握しています。


「みたちゃん、ゆきちゃん。心配しなくてもいいわよ。ちゃんとスジは通してあるから。とりあえず、用法容量は正しく守ってこれを着て」


と、お揃いのジャージを差し出してにっこり。

これには2人も驚きながら、とりあえずは見てくれだけでも何とかしなくちゃならないと、トマトやニンジンや、オナスやオクラの刺繍があしらわれたジャージを羽織ります。

遠慮気味に雪之丞。


「どうして・・・?」


うふふと微笑むマルグリーデ。

その表情はおひさまのように温かく、まさに女神様。

すると、突然。


「わあ!!」


と、素っ頓狂な声をあげたみたらしが、姿見の前で顔を覗き込みながらの大興奮。


「み、耳が、耳がちゃんとある。ほら見てよ雪之丞。耳がちゃんとあるんだ。嬉しいよ。ぼく、嬉しい」


顔を真っ赤にして涙目でもって、振り返ったみたらしの耳は、左右奇麗な人間の耳で御座いました。

しかもさる耳。

ちょっとばかし偉そうな、可愛い耳たぶまで血が上ってます。


「みたちゃん、ゆきちゃん、案内するわね」


マルグリーデがそう言いながら、レンガの壁のドクロボタンに手を当てると。

ガラガラガラガラガラ!!

地下へ通じる秘密の扉が、ペルシャ絨毯を呑み込みながら、ぽっかりと口を開いたのでありました。



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