第16話 邂逅
惑星アルゴンに到着してから、私達はかなりの距離を歩いた。何でそんなことをしたのかは私にも分かる。尾行がいないかを確かめるためである。
ロイは私の情報は出回っていないといった。もしそうであるならば、第十六王女である私のことに気がつくのは、本土出身で帝国信者の者か、皇室マニアのどちらかだろう。
ようやくロイも問題ないことが確認出来たのか、一つの立派な建物の前に入った。そこは外部と商談するための通信施設であり、この施設を使えば音声だけでなく映像も双方でやり取りすることができた。この場所で通信を行う相手は、十中八九私のお母様だろう。
相手が遠く離れた場所にいたとしても、すぐ隣にいるかのように話しが出来る星間通信は大変便利なのだが、送受信するためにはそれなりの設備が必要であり、現在でも小型化に向けた研究が盛んに行われていた。
ロイは数ある部屋の中でも、もっと機密性が確保されている部屋を使用した。機械に何やら打ち込むと、相手を呼び出す音が長く鳴り響いた。
待つことしばし、ようやく相手がこちらの呼びかけに答えたようである。その画面に映っていたのは、二ヶ月前ほどに話したっきりになっていたお母様だった。
「ユイ! 無事だったのね。よかったわ。連絡がなかったから心配していたのよ」
「お母様! 私はこの通り無事ですわ」
「申し訳ありません。こちらに問題が発生したため、対象の安全確保のために、暗号通信を控えさせてもらいました」
ロイの返答にお母様の顔は引き締まった表情になった。
「詳しいお話を聞かせてもらってもいいかしら?」
「あまり時間をかけるわけにはいきませんので、掻い摘まんでお話させていただきます」
ロイの話しを聞いて「やはり」とお母様は呟いた。どうやらお母様にも心当りがあったようである。
「この件に関して知っている人はほとんどいないはずです。それでもこちらの内情が流出したと言うのであれば、考えたくはなかったのですが、私の側に内通者がいるみたいですね」
「おそらくそうでしょう。残念ながらこちらからでは調べることができません。そちらで対応してもらってもよろしいでしょうか?」
「もちろんよ。任せてちょうだい。あなたは任務を全うすることだけに全力を注いでちょうだい。指示はこちらから改めてするわ」
「了解しました」
私はほとんど話すことは出来なかったが、お母様に私の元気な姿は見せることが出来たと思う。国に帰ればいつでも会うことが出来るのだ。話ならそこでたくさんすることができる。今は我慢だ。
ロイは必要な情報を交換し終わると、そそくさとこの場所を後にした。
今の通信でこちらの居場所はバレたことだろう。そして、私が安全に帝国領内に戻ってきていることも相手方に知られたはずだ。ここはもう安全ではない。それは私にでも分かる。
「ロイ、これからどうするの?」
「すぐに船に戻って、この惑星から離脱する」
「分かったわ」
この惑星にいてはいつか発見されるかも知れない。しかし、広大な宇宙に個人の船で出てしまえばそうそう捕まることはないだろう。オーバードライブ航行を使えるロイの船ならなおさらだ。船で宇宙空間を移動している方がはるかに安全だ。
急いで船に戻ると、すぐに離陸を開始した。出港許可はすでにとっていたようであり、傭兵専用の格納庫から飛び立つ船は少なかったので、すぐに宇宙空間へと飛び立つことができた。
「無事に外に出られて良かったわ。それにしても、いつもより手続きが早かったわね」
「それは王族からの緊急発進だと言って離陸したからだな」
「それって、相手側にも伝わるんじゃないの?」
「だろうな。ほら見ろ、後ろから慌てて追いかけて来ている船がいるぞ。全部で五隻か。随分と舐められているようだな」
ロイが獰猛な顔つきになった。追っ手の人達はロイがどれだけ強いのかをきっと知らないのだろう。私は心の中で合唱しながら、急いで宇宙服を着るために自室に急いだ。
****
一方その頃。惑星アルゴンの一室において。
「頭、緊急通信です。ターゲットがこの惑星にいるというたれ込みが来ました!」
「その情報、信頼できるのか?」
「それがまだ通信を傍受出来たばかりのようで、詳しい情報は全く分からないのです」
部屋は一気に騒がしくなった。男達はこの機を逃すまいと情報収集を始めた。追加情報はさらに入ってくる。
「どうやらここに留まる気はないみたいで、すぐに外へと出るみたいです」
「なに? 外に逃げられると厄介だ。お前達、先に外に出て待ち伏せしろ。後で俺達も合流する」
その言葉に数名の男が慌てて部屋の外へと出て行った。
彼等はこの惑星の外からやって来た傭兵団であった。金で雇われた彼等は、多額の追加報酬をもらうため、躍起になっていた。その額は、彼らがゆうに三年は過ごすことが出来るほどの金額であった。
このような雇われ傭兵団は、ここ惑星アルゴン以外にも存在している。いくつもの惑星や宇宙ステーションに分散しているためそれぞれの勢力は弱いものの、広大な範囲をカバーすることができた。
彼らのただ一つ致命的であったのは、ロイの強さを知らなかったことである。
「本部へ通達、怪しい船が一隻、飛び出して来ました!」
「そいつを追いかけろ。俺達もすぐに合流する!」
部屋は再び慌ただしくなった。彼らは結局のところ惑星内でターゲットを発見することはできなかった。流れてきたたれ込みも曖昧な情報ばかりで、ターゲットがどこにいるのかも、傍受用の回線コードも、その内容も、何一つ分からなかった。彼らのリーダーは忌々しげにその状況を見ていたのだが、最後なってようやくターゲットを発見することができた。
仲間からの通信を受けた男達は急いで外へと出て行った。
惑星アルゴンの外ではあらかじめ待機していた宇宙船が所属不明の船を追いかけていた。
「なんて速さだ。とてもじゃないが追いつけねえ。ただの民間船じゃないぞ。軍隊の型落ちなのかもな。これは気をつけた方がいいな」
「ああ、思わぬ火力を持っているかも知れない。おい、みろ! あの船、スペースデブリの中に突っ込んでいくぞ。正気か?」
見ると、船の残骸が漂う惑星アルゴンにおける宇宙のゴミ置き場にその船は入って行った。彼らは躊躇した。そんなところに飛び込んで無事で切り抜ける自信がなかったからだ。その時、通信が入る。
「何やってる! 早く追いかけろ。逃げられたらどうする!」
その言葉に止まっていた時が動き出した。慌てて先を行く船を追いかけたが、このわずかな時間が不利な状況を作り出してしまったことを、彼らはまだ知らなかった。
彼らはあっという間に船を見失ってしまった。
右も左も船や衛星の残骸ばかり。シールドに当るスペースデブリは確実に彼らの船のエネルギーを削っていった。船体を大きく包む形になっている彼等の船のシールドは、無駄にスペースデブリと接触し、バチバチと鮮やかな閃光を放っていた。
その光は隠れている相手側に、自分達がどこにいるのかを知らせているのと同じであった。
彼らもそれに気がついている。自分たちも同じように閃光を探しているのだが、どこをどう見ても全く分からなかった。
「くそう、どうなってやがる!」
船内に苛立ちが募る。同乗している者も必死に探すが、近くをいく味方機以外の反応はなかった。慎重に先を進むと、突如、上下左右からスペースデブリが彼らに押し寄せて来た。その一つ一つはそれほど大きくなかったのだが、かと言って、シールドで簡単に融解できない大きさだった。シールドのエネルギーがどんどん削られていく。そのことに、船内はパニック状態になった。
「戻れ、戻れ! このままじゃ俺達も仲間入りだぞ!」
「後ろが邪魔だ。さっさと下がれ!」
五隻の船の進行が止まった。それと同時に、緑色の閃光が彼らの船を何度も襲った。残り少ないシールドのエネルギーはすぐに枯渇した。
「おい、先行した奴らからの情報は?」
「ありません。どうやら前方のゴミが通信を邪魔しているようです。レーダーも効きません」
「なかなか面倒なところに入り込んだな。だが、袋のネズミだな。相手はたかが一隻。囲んでおしまいだ。行くぞ」
その後、この傭兵団を見た者はいなかった。
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