エピローグ 立てば喧し座れば事件外の景色は百合の花

文化祭が終わって二週間ぐらいが経った。

学校の生活は、文化祭前のいつも通りの日常に戻った。

ただ、僕の生活はだいぶ変わった。

クラスの女子や、先輩達がよく僕に声をかけてくるようになった。

どう対応するべきか、僕は今も物凄く悩んでいる。

一番大きな変化はずっと一緒にいた友人がいない事だ。

そう、柊はまだ帰ってきていない。

その事実が、僕に退屈をもたらしていた。

生徒会は、文化祭の後処理や特設ステージの件について色々調べる仕事で大変だった。


「…」


僕は、やっと落ち着いた生徒会室でゆっくりしていた。

最近は仕事だったり、水坂先輩が僕と二人っきりになると襲おうとしてくるので、部室でゆっくりすることもあまりなかったが、今は生徒会室には一人しかいない。

文化祭の後処理も終わり、期末テストが終われば夏休み。

夏休みは生徒会で何かあるのだろうか。

夏休みが明けたら、生徒会は体育祭の準備があるらしいから、それも大変そうだ。

この学校はそれ以外にも、学校交流やクリスマス会などの行事もあるそうだ。

それらは、楽しくなるだろうか?

僕は思う。

彼がいたら、間違いなく楽しくなるだろうと。


「…いつ帰って来るんだよ」


僕はポツリと、誰もいない生徒会室で言葉を漏らした。

柊は本当にしっかり帰ってくるのだろうか?

僕は彼が約束を破るんじゃないかと不安になる。

…いや、こんな考えを持つのはやめよう。

柊も言っていたじゃないか。

『お前を信じてる僕を信じてくれ』

例え自分自身が信じられなくても、柊のことなら信じられるはずだ。

アイツは絶対帰ってくる。

それだけを信じて待っていよう。

僕がそう決意した、その時だった。


「…⁈」


学校に、大きな振動が響いた。

文化祭のあの時に比べたら、全然小さいほうだが、以上な振動だった。


「…もしかして」


僕は椅子から立ち上がって、生徒会室の扉の鍵を閉めるのも忘れて、外へ走った。

渡り廊下に出ると、人々が運動場を見ていた。

僕もそちらを観ると運動場に異様な光景が広がっていた。


「…UFO!」


僕は階段を駆け下りて、靴も履き替えずに、運動場に繰り出した。

そこには典型的なUFOが不時着とは言わず、しっかりと着陸していた。

周りには人だかりができている。


「土井君!これは一体どういう状況⁈」


やがて、校舎から渡木会長達がこちらに向かってくる。


「…えっと」


僕がどう言うべきか悩んでいると、UFOの扉が開く。

中から、謎のスモークが出てきて、人影が現れる。


「よう。久しぶりだな、柊」


中から、制服姿の柊が出てきた。

けれども、いつもとは少し違う。

柊は女子生徒の制服姿で出てきたのだ。

中性的な顔立ちも相まってか、似合わなくはない。

むしろ似合っているのか?


「…えっと、…何があったの?」


そんな事を考えながらも、僕は戸惑うしかなかった。

僕の思考は追いつかず、そう尋ねるので精一杯だった。


「流星、お前まだ水坂先輩と付き合ってないんだってな?」


「え、あ、ああ、色々あってだな…」


僕のこの言葉を聞いて、柊は一回頷くと、周りの人達にハッキリ聞こえる声で言った。


「なあ、僕と結婚してくれよ。流星」


…。


「「「えええええええ!」」」


「暁月×土井のカップリングきたあああああ!」


「ええ!まさかリアルで拝めるなんて…!」


周りの人達は一斉に驚きの声を上げる。

どこかの団体は別の理由で盛り上がっていたが、それに突っ込む暇もない。

僕は完全に狂ってしまったのか、叫び声も上げずこう言った。


「おいおい、男同士じゃ結婚はできないぜ?」


茶化して言ったつもりだったが、柊は真面目な顔で言った。


「大丈夫だ。僕は両性だからな。男女両方とも結婚できるし、子作りもできる」


…。

…僕は意識を失うしかなかった。


・・・


柊の話を要約するとこうだった。

親に叱られて、地球に戻るのを渋られたらしい。

けれど、「柊にこんな事をやらせた責任を取らせる」という条件を出され、それにOKするしかなかったらしい。

ちなみに、柊は故郷の星の王子もしくは王女(どちらで表現すべきなのだろうか)らしく、仮に僕が柊と結婚したならば、僕はその星の王になるらしい。

ゴールデンウィーク前ぐらいに、そんな夢を見た事あるが、もう訳がわからない。

僕は考えるのをやめた。

それでまあ、色々あって…。


「というわけで、新入役員の暁月柊ちゃんです!皆仲良くしてね!」


「よろしくお願いします」


ロリータ姿の渡木会長の言葉の後、周りの皆が拍手をした。

渡木会長やっぱロリータ似合うな。

渡木会長はキッチリと祝福しているが、水坂先輩と火ノ元先輩と金瀬先輩と柊が少しギスギスしているのは何故だろう。

まあ、それは置いといて、柊が生徒会に入った。

役職は僕と同じ雑務だ。

柊はこの学校の全員にエイリアンである事を話した。

それはもうありのまま。

これからは、エイリアンのいる生徒会生活が始まる。

それはとても楽しいものになるだろう。

…そういえば、今は女子の人気は僕から柊に移っている。

…別に、寂しくなんてないんだからね!


「じゃあ、早速ミーティングをしようか!今日の議題は期末テストの後の夏休み、どこに遊びに行くかだよ!」


「仕事の話じゃないんですか⁈」


「…(こくこく)」


渡木会長の言葉に、火ノ元先輩が突っ込んだ。

金瀬先輩も頷いている。

そして、ミーティングが始まろうとすると、扉がノックされた。


「風紀委員です!もう、花奏!コスプレするのはやめなさいって言っているでしょう!」


「えー!生徒会室の中ぐらいいいじゃないか!梓!」


渡木会長と下野先輩が言い合いを始めた。


「やれやれ、ここは騒がしいね」


「ええ、そうですわね」


古屋先輩と菊川先輩も生徒会室に入ってくる。


「廊下まで声が響いていますよ。一体どうしたんですか?」


縄田先生も生徒会室にやってきた。

何気に、縄田先生が生徒会室にいるのを見るのは初めてかもしれない。

どうやら、夏休みは楽しくなりそうだ。


「…(じっ)」


「…(ビクッ)」


水坂先輩がじっと、こちらを見ていた気がした。

ああ、本当にこの場所は心休まらないな。

生徒会で立って仕事をしていれば、喧しいし。

仕事が落ち着いたと思ったら、事件が起きる。

外に出ても、少しは和らいだものの、まだまだ百合の人達で一杯だ。

これを言葉で表現するならば、一体どんな言葉がいいだろうか?

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