第五章 文化祭の隕石 7

「…もう一人、エイリアンがいる?」


「ああ」


突拍子のない言葉に、僕は柊に思わず聞き返してしまった。

僕は動揺を隠せなかった。


「だから、今回の事件は意図的か無意識は分からないが、僕以外のエイリアンによって起こされたのは確かだ」


「…」


柊以外のエイリアン。

僕は考えたこともなかった。

僕はそこまでの思考に至ることすらなかったのだ。


「能力の痕跡を見る限り、僕の星の者ではないだろうが」


「そうなのか」


そんなこと言われても、僕からしたら宇宙人には変わりない。


「まあ、今は犯人を探している場合じゃないな。それも僕的には大事だけれど、特設ステージの復興の方が急ぎだな」


「そうだな。ありがとう柊。僕も皆を手伝ってくるよ」


屋上を離れようとする僕の後ろから柊は言う。


「それで、どうするんだ?」


僕はそう聞かれて、立ち止まった。


「このままじゃ、演劇部の劇はできないぞ。僕にはわかる。皆で力を合わせても、多分間に合わない」


「…」


…ひょっとしたらそうなるのではないかと、思ってはいた。

あの崩壊具合は一日や二日そこらで、終わるものではない。

何より、急いでやったら安全も保証できず、機材が落ちてきたり、床が抜けたりして、怪我をするかもしれない。

どの道、このままでは教師の許可が下りないのはほぼ確定だ。


「…でも、やってみなくちゃわからないじゃないか!」


僕は先ほどの柊の言葉を叫んで否定した。


「…」


さっきから叫びっぱなしで、少し喉が痛むのを僕は感じた。

けれど僕は叫ぶのをやめない。


「皆が頑張っているんだ!間に合う間に合わないの話じゃない。間に合わせるんだ!許可だって、渡木会長がとってきてくれる筈だ!」


だから、僕は信じて今できる事をやるしかないんだ。

けれど、柊は言う。


「いや、無理だ。許可も取れないし復興も間に合わないのはわかっている」


「っ…!」


僕は振り返って柊に近づき、彼の胸ぐらを掴む。

何故、僕はこんなに怒っているのだろう。

きっと、それは自分の無力さを自覚しているからなのだろう。

できない事を他人にはっきり言われると、誰も嫌になって怒ってしまうのが知能ある者の性だ。

僕は感情に任せて、言葉を出そうとする。


「お前、そろそろいい加減に…」


「それで、提案がある」


僕の言葉を柊は遮った。

ハッと、我に返り柊の顔をしっかりと見る。


「僕の力を使ってやるよ。勿論、お前の力も必要だがな」


柊は少し、ニヤリと笑った。


・・・


「さっきは、ごめん」


僕と柊は共に運動場に向かっていた。

そして、柊にさっきの行動を詫びた。


「いいさ。それにお前にも手伝ってもらわないと無理だしな」


混雑する人々の間を通り抜けて、僕と柊は先を急ぐ。

柊が能力を使う。

それは即ち、柊が自分の星に帰ってしまう事を意味するはずだ。

けれど、柊は言った。


『今回、僕以外のエイリアンがいるっていうのは特例になるはずだ。お前が協力してくれたら、しばらくは会えなくなるとは思うが、帰って来れるはずだ』


僕はその言葉に同意した。

柊も失わずに、演劇部もしっかり劇ができる。

僕にとって、その選択肢を取らない理由がない。

けれど…。


「いいのか?お前は親に怒られたりするんじゃないのか?」


「当たり前だろ?多分、『やりすぎだ!』みたいな感じで怒られるだろうが、何しろ大切な友人とそいつの大切な人達の為だ。怒られるだけじゃ安いぜ」


「…そうか。ありがとう」


そして僕達は運動場に出た。

そのまま、水坂先輩達の下へ向かおうとした僕を柊が止める。


「じゃ、ここから行動してもらうぞ」


「僕はどうすればいい?」


柊に尋ねる。


「じゃ、まずは上半身裸になって、水を被ってくれ」


「え⁈」


なにそれ。

その行動に一体どんな意味が?

僕が動揺していると、柊は作戦を説明してくれる。


「僕の能力は、やはり公にはしたくない。だから、流星に演技をしてもらう」


「演技?」


「ああ、流星が特設ステージでの初演技になるんだ。僕が力をお前の行動に合わせて使うから、流星はいかにも特設ステージを超パワーで直しているような演技をしてくれ」


なるほど。

つまりは、僕が凄い力で特設ステージを直しているように見せかけるんだな。


「して欲しい行動は、そうだな…」


少し考えた後、僕を見る。


『このテレパシーで連絡する。引き受けてくれるか?』


脳内に柊の声が直接響いた。

初めて、柊の宇宙人としての能力を体感した。

感心しようと思ったが、それに浸る事もなく、僕は。


「当たり前だ。これぐらいやってやる!」


そう言って、すぐさま上半身の服を脱ぎ捨てて、そばにある水道で頭から水を被る。

不思議と、体がさっぱりとした気分になる。


「おっしゃあ!行ってこい流星!」


「おう!任せたぞ!柊!」


僕は運動場に走り出す。

側で見ていた、沢山の人達の視線が痛かったが、それを振り切るように走った。


「あ、土井君おかえ…。キャアアア!」


僕の姿を確認した水坂先輩は恥ずかしそうに顔を目を覆った。

周りから、叫び声だとか、物凄く引かれているのがよくわかる。

…けれど、それを気にしている場合ではない。

あの時を思い出せ。

演劇部の監視の時に、劇の協力をした時だ。

あの時のように振り切るんだ。

思い込め。

自分は凄い力を持った、この学校のピンチを救うヒーローなんだ。


「うおおおおおおお!」


僕は壊れたステージに入り、凹んだ舞台の下に潜り込んだ。

凹んだ部分に触って上げようとする。

すると、ステージの凹みは元の高さに戻っていた。


『木材と工具を持って、その場に戻ってくれ。それで、直すように行動だ』


「了解!」


まるで、自分が凄い能力を使っているみたいだった。

自分の力ではないけれど、なんだか漫画の主人公にでもなった気分だ。

僕は工具箱と木材を演劇部員から貰い、行動をする。


『そういや、流星』


「なんだよ、柊」


ステージがみるみるうちに直っていく。


『最初、俺がエイリアンだって事を信じてなかっただろ?』


「そうだな」


初めて会った人に、そんなこと言われても信じられる訳がない。

人ではなく、エイリアンだが。


『もしこれから、自分を信じられなくなったらさ』


舞台はいつの間にか、小さな微量の破損を残しつつも。


『お前を信じてる僕を信じてくれ』


「わかった。だったらお前は僕が信じてるお前を信じてくれ」


文化祭特設ステージは見事に復旧した。

周りからは歓声が上がった。

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