第五章 文化祭の隕石 6

僕と水坂先輩は甘い雰囲気を忘れ、すぐさま特設ステージに辿り着く。

そこには、完全に崩壊した、ボロボロのステージの残骸が残っていた。

音響も照明も落ちてきていて、使い物になるかどうか怪しい。

僕達は、側にいた残りの三人の生徒会役員のメンバーの下に駆け寄った。


「一体何があったんですか⁈」


僕が、尋ねると渡木会長は深刻な表示で言った。


「わからないんだ…。空から隕石みたいなのが降ってきたかと思えば、そこのステージに落ちたあと、すぐに消えたんだ。信じて貰えないかもしれないけど…」


「…隕石?」


僕は改めて、近くでそのステージを見る。

確かに、上から大きな何かによって潰されたような跡が残っていた。

隕石。

僕の脳内には、彼の表情が思い浮かんだ。


「…ううう」


すると、体の力が抜けきったのか、金瀬先輩は膝をつく。

そして、声にならない呻き声をあげて、悲しんでいた。

火ノ元先輩はそれを宥めるように、背中をさする。


「金瀬ちゃんは演劇部の大ファンだからね…こうなるのも仕方ないよ…」


渡木会長は金瀬先輩を見ながらそう言った。

…そうだったのか。

周りから、次々と教師がやってきて、怪我人はいないか聞いてくる。

幸いというか、誰もこの場に近づいているものはおらず、怪我人はいなかった。


「…演劇部の劇はどうなるんですか」


僕がそう渡木会長に尋ねると、深刻な顔で渡木会長は答える。


「中止の方向に進むか、体育館の舞台に変更になるのではないだろうか。けれども、音響はともかく、照明はどうしようもない。完全な劇の発表はできないだろうね。それに、こんな事があった後なら、教師がどう言うかもわからない」


…そうなのか。

僕は、演劇部の皆さんが毎日必死に練習していたのを知っている。

いい環境で発表をさせてあげたいが。

すると、何人かの人影がこちらへやってくる。


「…すいません!」


この場所に、下野先輩達、演劇部の人達がやってくる。


「はぁ…はあ…。だ、大丈夫ですか⁈」


息を切らして駆けつけてきた、下野先輩に渡木会長は言う。


「梓…。舞台はこのザマだ。特別舞台ではできそうにない。それに、照明も使い物になるかどうかわからない」


渡木会長がそう伝えると、下野先輩の顔は暗くなった。

恐る恐る、後ろから古屋先輩が聞いてくる。


「…そうなのかい?もう、どうしようもない?」


「調べてみないと分からないが、設備と人員と教師の許可。これが全てクリアできないと、厳しいと思う」


渡木会長がそう伝えると、下野先輩達の後ろで、ざわめきが起きる。

今までの努力が全部泡になる。

何より、今じゃないと沢山の人達に見てもらえない。

その大量の不安が、一丸となっていた。

けれど、一人、挫けない人がいた。


「お願いです!なんとか、演劇部の劇をやらせてください!」


下野先輩が綺麗に頭を下げて、大きな声で言った。


「今回の為に、みんな一生懸命頑張ってきました!演劇部全員がお手伝いします!だから、劇をやらせて下さい!」


渡木会長は目の前の下野先輩をじっくり見つめて、こう言った。


「わかった。全力を尽くそう。よし、皆!やろうか!」


「「「はい!」」」


その言葉に拒否をする者はいなかった。

全員の意思は文化祭を完全に遂行すること。

その意思に迷いはない。


「それじゃあ、私と梓の二人で、教師に言ってくる。みんなで、照明の確認、舞台の補強をしてくれ!瑠泉、ここの指揮を任せていい?」


「わかりました」


水坂先輩は返事をした。


「よし、行こう。梓」


「わかった」


そして、渡木会長と下野先輩は校舎に向かって行った。

それを見届けて、水坂先輩は現場の指揮をとる。


「では、各自で動きましょう。力のある者は、出来る限りの修理を。照明は勿論、音響の確認も行います!」


「「「わかりました」」」


全員が一斉に動き出す。

全員が、各々で出来そうな事を取り組み始めた。

けれど、僕はその輪には入らず、水坂先輩に声をかける。


「水坂先輩」


「はい。どうしました?」


僕は真剣な表情で言った。


「少し、僕はこの現場から離れさせて下さい。…僕には、やらなければならない事があります」


「…」


水坂先輩は少し考えると、僕に聞いた。


「それは大事な事ですか?」


僕は即答する。


「ええ。今回のこの事件に大切な事です」


「わかりました。終わればすぐにこちらへ駆けつけて下さい」


「ありがとうございます。それと…」


僕は少し空を見上げて、心を落ち着かせて、彼女の顔を見る。


「さっきの返事は、演劇部の劇が終わってから伝えさせて下さい」


僕がそう告げると、水坂先輩は。


「…ええわかりました。その為にも、今回の劇はちゃんと成功させないといけませんね」


水坂先輩は少し笑うと、僕を見送ってくれた。

僕は校舎に向かって走り始めた。

僕は、いつもよりも早く走れた気がした。


・・・


校舎を走り回って、僕は彼の姿を探す。

自分のクラスに行っても、彼の姿はなく、僕は彼を探し続けた。

教室、廊下、食堂、体育館、その他隅々まで。

けれど、彼の姿を見つける事はできなかった。


「はあ…はあ…。アイツ、どこにいるんだ?」


僕は、中庭で息を切らし、その場にうずくまる。

さっきの振動が気になったものの、普通に文化祭を楽しんでいる人たちは楽しんでいるのだ。

僕を見て、嘲笑しているのがわかる。

…皆、気づかないのだろう。

今、生徒会と演劇部が一丸となって、文化祭の最後を凄いものにしようとしていることに。


「どこにいるんだよ!柊!」


僕顔を空に向けて、大声で叫ぶ。

彼の名を呼び、空を見上げた。

空は気持ちいいぐらいに晴れていて、絶好の文化祭日和に変わりない。

ならば、文化祭は間違いなく成功する。

その必ず訪れる結果の為に僕は叫んだ。


「…!」


そして、空を見上げた校舎の上。

いわゆる屋上に彼はいた。

そして、こちらを手招いている。


「…何やってんだよ、…アイツ!」


僕は自分の足を叩いて、自身を鼓舞する。

そして、全速力で校舎の階段を駆け抜けた。

時々、人とぶつかりそうになるが構っていられない。

僕は走り続けて、立ち入り禁止のロープを潜り抜けて、階段を登る。

掃除されていない、埃っぽいその場からドアノブを回し、僕は屋上に出た。

普段、誰も入る事のない屋上は手すりの錆や苔などで一杯だった。


「やあ、流星」


そこにはいつも通りの感じの柊がいた。


「お前、こんな所で何をしてるんだよ」


僕が問いかけると、柊は言った。


「いや、空から凄まじいエネルギー反応を探知して、僕はその様子を確認しにきたんだ。そしたら、特設ステージが壊れているのを確認していたら、流星が僕を呼んだのさ」


「…って事は、お前は犯人じゃないのか?」


てっきりこんな事ができるのは柊だけだと思っていた。


「なんで僕がそんな事をする必要がある?力を使ったら、帰らなきゃいけないじゃないか。僕はまだ帰るつもりはないし。それに、お前の邪魔なんかするわけないだろ?」


僕はすっかり体に力を入れるのを忘れてしまって、その場に倒れるように座り込んだ。


「お、おい。大丈夫か⁈」


柊は俺の事を心配してくれた。

…そうか、柊が犯人じゃなかったのか。

よかった。

本当に、よかった。

走り回った疲れが、一気に僕の体を襲った。

けれど、僕は強がる。


「だ、大丈夫だ。それより、じゃあ特設ステージが壊れた理由はなんなんだ?」


僕はそれを尋ねると、柊は真面目な顔になる。


「ああ、この事件から導き出される一つの結果がある」


僕は柊の次の言葉を待つ。

その口からは、思いもしなかった言葉が発された。


「この学校に、僕以外のエイリアンがいる」

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