第五章 文化祭の隕石 1
『それでは、第○回、蒼野高校文化祭を開催します!』
校内に渡木会長の声が響き渡る。
こうして、渡木会長の放送で文化祭が幕を開けた。
小さくであるが、校内からは生徒達の喜びの歓声が響いていた。
渡木会長は満足そうに校内放送の電話を閉じた後、僕らの方を向いてこう言った。
「さあ!早速、仕事と行こうか!」
「「「了解です!」」」
「…(こくこく)」
一気に気が引き締まる。
ここから、熱い一日が始まるのだ。
「何か連絡事項があればすぐにグループに連絡すること、何もなくても、細かいタイミングでグループの確認も忘れずに!」
渡木会長の注意の声が本部に響いた。
皆の気合いが入っている。
今日の為に、いろいろやってきたのだから。
そういえば、この本部は生徒会室ではなく、学校の校門に近い空き室を使っている。
テーブルと椅子、その他プログラムやゴミ箱といった、文化祭に必要な用具が揃えられている。
なんだか、いつもと違う空間に慣れないようなそんな気がする。
「じゃあ、私は早速自分のクラスの劇に出る準備をしてくるね!土井君、しっかり見ててくれよ!」
「はいはい。しっかり見ておきますよ」
僕の返事を聞いた渡木会長は颯爽と、生徒会室を出て行った。
僕の最初の仕事は、体育館での待機だ。
だから、三十分後に始まる渡木会長のクラスの劇、『おやゆび姫』は見ることができるのだ。
「さて、僕も早めに行っておこうか」
僕は立ち上がって、腕章をつける。
この前はつけるのに手間取ってしまったが、今回はしっかりとつけることができた。
そう思っていると、窓の外を見ていた火ノ元先輩が呟く。
「いやー、去年も思ったけれど、凄いお客さんですね」
「そうなんですか?」
火ノ元先輩の側に近寄って、僕も窓から校門の辺りを覗いた。
「多いな…」
「でしょう?」
そこには物凄い長蛇の列が出来上がっていたのだった。
一般の人から少しセレブそうな人まで、沢山の人が訪れていたのだ。
後ろには最後尾の看板を持った古屋先輩が他校の制服を着た女子高生に話しかけられていた。
受付では、並んでいたお客さんが仕事を割り振られている委員会の人に、入場チケットと入場料を渡していた。
入場料は五百円。
食品以外の物を、無料でいくらでも観覧したり遊べると考えたら、安いほうらしい。
その入場料はこれからの学校の費用に当てられるらしい。
「さて、そろそろ行きます」
僕は窓から離れて、本部の出入り口の扉へ向かう。
「いってらっしゃい、頑張ってね。土井君」
火ノ元先輩が声を掛けてくれて、金瀬先輩は小さく手を振ってくれた。
そういえば、金瀬先輩が最初の本部待機だったな。
「はい、行ってきます」
僕は重たい扉を開いて、ゆっくりと閉じ体育館に向けて歩き始めた。
扉は異様に大きな音がなった。
沢山の人が校内に入り、中へ進んでいく。
「土井君」
長い人の波をどう渡ろうかと悩んでいると、扉を開ける大きな音が聞こえた後、後ろから声をかけられる。
「…水坂先輩」
水坂先輩は僕の隣に来て、僕を見て言う。
「私もクラスの方に行くので途中まで一緒に行きましょう」
「わかりました」
水坂先輩となんとか波を抜けて、廊下を歩く。
廊下も人が一杯で、至る所に宣伝などをしている人達がいた。
その他、廊下に貼ったり置いたりの展示も置かれている。
「…それで、今日のことなんですけど」
「は、はい」
少し上擦った声で僕は返事をした。
聞かれるだろうとは思っていたが、やはりいざとなると、緊張してしまう。
僕の返事を聞いた水坂先輩は質問をしてくる。
「昼食はどうするつもりですか?」
予想外の質問で、少し僕は戸惑った。
「…えっと、学食で文化祭限定メニューが出るらしいのでそれを食べようかなと」
僕の言葉を聞いた、水坂先輩は微笑んで言う。
「それはいいですね。…それで、折角ですし、昼食を一緒に取りませんか?」
そういうことか。
まあ、断る理由もないだろう。
「いいですよ」
水坂先輩と二人で昼食か。
まあ、校内デート(?)の出だしとしては良いのではないだろうか。
「では、互いの仕事が終わり次第、食堂に集合にしましょう」
「わかりました」
そして、少し間が空く。
会話もをすることもなく、ただただ人の波に流されながら、廊下を歩いた。
「では、私はここで」
そう言って、笑顔で手を振った後、水坂先輩は自分のクラスの引き換え室に行ってしまった。
「…」
…はあ。
騒がしい周りの人の中の間を通って僕は進む。
僕は悩みに悩んでいた。
…結局のところ、昨夜で自分の気持ちに整理をつけることができなかった。
やはり、いつもみたいに循環しては、結論がずっと出せない。
ひょっとすると、僕は最低な人間なのではないだろうか。
ウジウジして、結論も出せない。
だから、せめて今から昼過ぎまでに結論を出さねばならない。
「…?」
僕が思考を巡らせながら歩いていると、鼻腔をくすぐる、いい匂いがする。
そう、これは…カレーの匂い…。
「お、流星!」
目の前の教室には、朝から大変で少し小腹の空いた僕には天敵の『コロッケ屋』と書かれた看板の教室に辿り着く。
そこにいた、柊に声をかけられた。
「柊、おはよう」
「ああ、おはよう。遂に始まったな、文化祭!」
流石、柊もテンションが高いな。
「ああ、そうだな。客入りはどうだ?」
「今はまだ一人も来ていないな。始まったばかりだし。まあ、こういうのはお昼時だな。今はだから、揚げるのもセーブしてる」
「客も来ないんだったら、セーブするくらいだったら、揚げないで置いとけばいいんじゃないのか?客が来たら揚げるって感じで」
すると、柊は大きく首を横に振る。
「馬鹿か?匂いと音が大事だって言った奴。それがなきゃ、人が集まらないだろうが」
「そ、そういえば、そうだな」
ならこの行動は、売上をあげるための最善の動きだろう。
柊はなんか、経営者の素質があるのではないのだろうか。
この話が終わると、気になったように僕に質問をしてくる。
「…それで、水坂先輩の事はしっかりと考えられたのか?」
「…」
そう聞かれた僕は、何も言えなかった。
「図星だな」
ぐうの音も出ない。
「まあ、考えるのをやめるって事だけはやめとけ」
柊は酷く真面目な顔で僕にそう言った。
「本番でも結果が出ないなら、このエイリアン様がなんとかしてやるよ」
「…超能力みたいなのは使うなよ?」
超能力みたいなのを使われたら、柊は帰ってしまう。
「わかってるさ。なに、友人としてちょっと背中を押すだけだよ」
「なんだそれ」
僕と柊は二人で笑った。
笑っていられる状況じゃないかもしれないが、少し心が落ち着いた。
「それで、こんな所で油を売ってていいのか?コロッケだけに」
「後で売るの手伝いにくるさ。今から体育館で仕事してくる」
「おう、行ってら」
僕は軽く手を振って、柊に別れを告げた。
柊の後ろでは、コロッケを買う最初のお客さんが現れていた。
そして僕は頭を悩ませながら、けれど少しスッキリとした気持ちで僕は体育館に向かった。
・・・
暗闇の中、舞台の幕が上がった。
僕は縄田先生の隣で録画のビデオを確認しながら、舞台が上がるのを待った。
「…」
上がった舞台にはチューリップの花があり、その花が咲くと、中からドレスを渡木会長が出てくる。
こうして、文化祭最初の劇が幕を開けたのだった。
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