第四章 騒がしい放課後 6

文化祭は着々と近づいていった。

放課後の学校はは出し物の準備などで騒がしくなっている。

生徒達の声や、吹奏楽部、軽音楽部の演奏音なども、いつもより気合が入っているのではないだろうか。

僕は、生徒会室で少し事務の作業を行うと、時間が来たので立ち上がる。


「では、舞台の当番行ってきます」


月から金までの週五日間、生徒会のメンバーが一日交代で行っているこの仕事。

体育館の舞台練習の監視と協力だ。


「おっと、今日の舞台の使用はどこだい?」


渡木会長にそう聞かれて、こう答える。


「今日は部活の日で、演劇部の後に合唱部です」


「そうか、丁度よかった。私もついていくよ!ちょっと演劇部に用事があるからね!」


「わかりました。けれど、ちゃんと着替えて下さいね?」


「あー。そうだったね!」


今日のコスプレはカウボーイだった。

扉を開いて、生徒会室の外に出る。

そしてそこでしばらく待った。

生徒会室の近くの階段を何人かの生徒が下がっていくのを見ていると、生徒会室の扉が開かれる。

そして、中から出てきた制服姿の渡木会長と体育館へ向かい始めた。


「いやーそれにしても、生徒会の仕事が毎日こうだと疲れますね…」


僕は会話の話題を出した。


「そうかい?私は楽しいよ!こんなに活気のある学校なんて、いいじゃないか」


「そんなもんですかね」


僕と渡木会長は廊下の端を通って体育館に向かう。

廊下では、三年生の人達が背景に色を塗っていた。

毎年恒例の景色なのだそうだ。

先輩達は綺麗に色を塗っている。


「よっと」


渡木会長は楽しそうに背景の絵をステップを踏んで飛んでいく。

僕は間違えて踏んでしまわないように、そうっと渡った。

そしてようやく、落ち着いた廊下に出る。


「そういえば、渡木会長はクラスの劇の主役でしたよね?練習とかしなくていいんですか?」


僕がそう聞くと、渡木会長は胸を張って答える。


「うむ、台詞はもう完璧に覚えているからな。時々、他の人の練習に付き合って、舞台の確認をすれば完璧な演技ができる」


…凄いな。

何というか、規格外というか。

そう思っていると、体育館につく。

僕と渡木会長は体育館に足を踏み込んだ。


「やあ、渡木会長と土井君じゃないか。今日は二人が監視なのかな?」


体育館に入ったすぐの場所に古屋先輩がいた。

相変わらずのイケメンだった。


「いや、話があってきたんだよ!確か、部長は君だったね。少しいいかな?」


「心得たよ。聞こうじゃないか」


古屋先輩の同意を得て、話を始めようとする。


「あ、土井君!もう先に仕事に入ってていいよ!」


「あ、はい」


そして、渡木会長は持ってきていた資料を取り出して、古屋さんと話を始めた。

なんだか放置された気分だ。

僕は視線を舞台に向けると、そこは演劇部の人で一杯だった。

僕は舞台袖に近づいて、声をかけようとする。


「あら、土井さん」


現れたのは菊川先輩だった。

思わずの美しさに目眩がして倒れそうだったが、僕はしっかりと言葉を紡ぐ。


「どうも、生徒会の仕事で来ました。手伝う事はありますか?」


すると、菊川さんは首を横に振って答える。

綺麗な銀髪が揺れた。


「大丈夫ですのよ。それより、楓を知りませんか?」


「古屋さんですか?今、あそこで渡木会長と何かお話をしていますよ」


僕は渡木会長と古屋さんの方を指差す。


「ああなるほど。でしたら、もうこちらは先に練習をしておきますか。土井さんは、お好きなところに座って見学でもしておいて下さいまし」


「わかりました」


僕は、体育館の隅に座り、じいっと舞台を見る。

すると、菊川先輩の声で発生の練習を行った後、それぞれのシーンを練習していく。

それを見ていると、舞台袖の扉が開いてある人が現れる。

下野先輩だ。


「どうも、下野先輩」


「こんにちは、土井さん」


僕と下野先輩は挨拶を交わすと、無言になる。

どうしたものかと悩んでいると、下野先輩は恥ずかしそうに聞いてきた。


「…えっと、その、何か聞けましたか?」


「あ、ええ。聞いてきましたよ」


といっても、曖昧なものではあるが。

下野先輩は僕の隣に行儀良く座る。

そして僕は、感じたことを全て伝えた。

間違いなくいい方向に進んでいると。

全然嫌いなんかじゃないことを。


「…そう、ですか」


下野先輩は少しホッとしたような表情をした。


「土井君!梓!こんなところで何やってるの?」


「「わっ!」」


急に渡木会長が出てきて、僕と下野先輩は飛び上がるように驚いた。

やべえ、さっきの話聞かれていたりするのかな?


「何そんなにおどろいているのさ!…それにしても、梓と土井君のコンビなんて珍しいね」


「そ、そうですかね?」


そういえば、誰にも下野先輩と繋がりがあるなんて言ったことなかったな。

今更ながらに気付く。

渡木会長の後ろからは、古屋先輩が歩いてきた。


「梓も少し話があるんだけどいいかな?」


「え、ええ」


下野先輩は立ち上がって、話を聞く姿勢になる。

僕は内容が気になったので聞いてみる。


「渡木会長達はさっきからなんの話をしているんですか?」


すると、渡木会長はきちんと話をしてくれた。


「演劇部の特設ステージの話だよ。設営には時間も人手も足りないからね、協力とセッティングについて、話をしているんだ」


なるほど。

この前の話の事だ。

僕ができそうなことはなさそうだ。

そう思い、舞台を見ると、こちらに近づいてくる人がいる。


「ちょっと、楓。貴女が来てくれないと、重要なところができませんわよ」


古屋先輩に言葉をかける菊川先輩。

さっきから、舞台で練習をしていたのだが、あまり進んでいるイメージはなかった。


「ごめんよ夜銀。でも今大事な話し中なんだ」


「それでも、せっかくの舞台練習なので、貴女は大丈夫にしても、動きや台詞を確認したい人は、沢山いますのよ」


すると、沈黙が流れて、古屋先輩は悩むような仕草をとる。

生徒会は、後で出直した方がいいんじゃ…。


「…そうだ!土井君。ちょっと古屋さんの代わりをやってきてくれ!古屋さんもいいかな?」


…ナンデソウナルノ?

多分、古屋先輩も許してくれないと思うのだけれど…。


「ああ、それなら構わないさ。頼むよ土井君」


…ええ、許しちゃうの…。

古屋さんは台本を僕に渡してくれる。

やるしかないのか…!


「わ、わかりました。…あの、精一杯やりますね」


僕は戸惑いながらも、菊川さんに告げた。


「ま、まあ、言葉を言って、台本通りに動いてもらうだけで大丈夫なので、無理はしないでくださいまし」


「はい…」


僕は菊川先輩に促されて、舞台の上に上がる。

周りの演劇部の人達の目線が刺さる。

そして、菊川さんは舞台袖で声を上げた。


「それでは、まずは最初のシーンから、順にやっていきましょうか」


「「「はーい」」」


「…」


やろう。

手伝うからにはきっちりと、皆さんの為になるような演技をしよう。

やれることを精一杯やるんだ!


「…⁈」


台本を見て驚いた。

そこには、普通の男子が言うにはとても厳しい言葉がツラツラと並べられていた。

これを書いたのって、下野先輩なんだよな。

…やれ、やるんだ!

場面が暗転し、僕の言葉から始まる。


「…っ、…あの日僕は見たんだ。夜空の下に咲く百合のように美しく、そして気高く立ち尽くす君の…」


熱演をするんだ!

周りの事なんて全部忘れるんだ!


「ぉお…」


古屋先輩が感心する声が舞台の上の僕に聞こえた。

この後、演劇部に勧誘されたのを、僕はしっかりと断った。


・・・


体育館での仕事を終えて、帰ってきた僕は生徒会室の机に突っ伏していた。

きっと、恥ずかしさで顔から耳まできっと、真っ赤だろう。


「いや、素直によかったよ⁈本当に演劇部に行った方がいいんじゃないかってぐらいに!」


渡木会長が僕を励ましてくれている。

上手いと言ってくれるのは嬉しいのだが、そう意味じゃないんですよ。

慣れないことをするのは、やっぱりするものじゃないな。


「…今日は土井君もこんな調子ですし、解散にしますか」


「そうですね」


「…(こくこく)」


水坂先輩の言葉に火ノ元先輩と金瀬先輩も同意する。

…早く帰って、布団の中で転げ回りたい気分だ。

今日は福ちゃんに癒してもらおう。


「いいね!今日は早く帰ろうか!それじゃあ、戸締りをしよう!」


そう言って、渡木会長は生徒会室の窓を閉める。

そして、皆各々が帰りの支度をする。

その時に、渡木会長はこんな事を言った。


「そういえば、文化祭が終わったらどうする?打ち上げみたいなのをしないかい?」


「あら、いいですね。打ち上げはどんなのがいいでしょうか?」


「カラオケだとか、どこかに食事に行くとか、そんな感じですかね」


「…(こくこく)」


文化祭が終わる。

僕はその言葉を聞いて少し思うことがあった。

僕がこの生徒会に入って、文化祭の仕事しか、殆どしていない。

忙しくて、大変だけれど、その分とても楽しいこの準備期間。

文化祭の当日はとても楽しいものになるだろう。

柊とのクラスの出し物や、生徒会の仕事、それに水坂先輩の事。

…それらが全て終わった時、僕の学校生活はどう変わるのだろうか。

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