第四章 騒がしい放課後 5
僕は渡木会長と一軒一軒に、インターホンを押して、挨拶をしていく。
家の人は出てきたり、出てこなかったりだが出てくる人々は皆優しく人だった。
「蒼野高校生徒会です!文化祭が近いので挨拶に来たのですが…!」
「あらあら、毎年ご苦労様」
渡木会長の見た目も相まってか、とても友好的に接してくれる。
数人の人達からは、お菓子も貰ってしまった。
「どうだい土井君、君もやってみようか」
渡木会長は僕にそう促してくる。
…これも社会勉強だな。
「わかりました。頑張ってみます」
僕はとある一軒家にインターホンを押して、少しの時間を待つ。
『はい』
「…あ、あの!蒼野高校生徒会の者です、蒼野高校の文化祭についてお話があってお訪ねさせてもらいました!」
僕が少し緊張気味にそう言うと、優しい声で返事が聞こえる。
『わかりました。少し待ってて下さいね』
そう言って、インターホンの通話が切られる。
その後、渡木会長が少し小さめの声で言った。
「その調子だよ!土井君!」
「はい!」
すると家から、若い女性が赤ちゃんを抱っこしながら外へ出てくる。
「すいません、わざわざ出てきてもらって」
「大丈夫ですよ」
僕はプリントを見せて、説明をする。
「今月の下旬に文化祭がありまして、夕方ぐらいまで、ひょっとすると騒がしい声が聞こえてくるかもしれません。詳しくはこちらのプリントをご確認して下さい。ご協力、お願いします」
「はい、どうも」
そうやって、優しい受け答えをしてくれた。
「…えっと」
僕はプリントを渡そうとしたが、赤ちゃんが女性の両手を塞いでいるので、渡すに渡せない。
…どうしよう。
「赤ちゃん、可愛いですね!触ってもいいですか?」
「ええ、大丈夫ですよ」
渡木会長は好意的な態度で女性に接して、赤ちゃんのほっぺたを触る。
「あー!プニプニしてるー!可愛い!」
赤ちゃんも構ってもらえるのが嬉しいのか、自然と笑顔になる。
そして、渡木会長が指をそっと赤ちゃんの顔の下に持っていくと、赤ちゃんはその渡木会長の指をゆっくりと掴んだ。
すると、『閃いた!』といった表情でこちらを見た。
「土井君、プリントを一枚頂戴!」
「え、あ、はい」
僕は女性に渡そうとしていたプリントを渡木会長に渡す。
渡木会長はプリントを赤ちゃんに丁寧に握らせた。
「おお!」
渡木会長が拍手をする。
渡木会長の対応に喜んだのか、女性も赤ちゃんも嬉しそうだった。
「では、そろそろ行きますね」
「はい」
渡木会長はそう言ってその場を少し離れる。
僕も渡木会長の後を追う。
すると、渡木会長は後ろを振り返った。
「バイバーイ!」
赤ちゃんに向かって、渡木会長は手を振った。
赤ちゃんは「キャキャキャ!」と声を上げて笑った。
それを見届けた僕達はその場を離れる。
「流石ですね、渡木会長」
「当然だよ!これが生徒会長さ!」
「流石だぜ、生徒会長!」
僕が大いに称賛すると、渡木会長はとても鼻を長くしていた。
「そういえば、赤ちゃんにプリントを持たせるって、あれ演技ですか?」
「嫌だなー、素に決まっているじゃないか!」
本当にそうなのだろうか。
一瞬、そんなことが頭をよぎったが渡木会長ならやりかねないんじゃないだろうかと、考えるのをやめた。
「いや、あれ下手したら、結構まずい事になったような気がするんですけど」
「でも、少し焦らせるのも嫌じゃないか」
まあ、たしかに。
あのままだったら、あの女性は少し大変な目に合っていたかもしれない。
「私は博打打ちなんだよ。私は常に一番いい結果を求めているからね。まあ、この性格じゃ、ギャンブルもできないよ!」
笑いながら渡木会長は言った。
そして僕は遂に攻撃に出る。
「なるほど。こりゃあ下野先輩も大変ですね」
すると、渡木会長はキョトンとする。
「なぜ、梓?」
「幼なじみなんでしょう?この前の生徒会室で、散々に言われていたじゃないですか」
「あー」
渡木会長は僕から目線を逸らし、少し上を見上げる。
「昔はあんな事言う子じゃなかったんだけどね」
「そうなんですか?」
「うん」
昔の下野先輩はどんな人だったのだろうか。
「昔は黙って私にずっとついてくるような子だったよ。私が無茶な事をしても、オロオロしているような子だったね」
まあ、想像がつく。
ただの子供が、この人を止めれるようには到底見えない。
「それが、小学校高学年ぐらいになってきてからかな、私の行動に注意をする様になってきたりしたんだよ」
「…先輩はそれをどう思っているんですか?煩わしいとかそんな事思っ…」
「そんなわけないよ!」
僕の言葉を勢いのある声で止める。
「今は、なんだか、対等になれてるいる感じで嬉しいんだ。しっかりとした友達でいられている気がする」
「…それは、…いいんじゃないですか」
下野先輩。
悪いようには思われていなさそうですよ。
今度伝えに行くことにしよう。
「うん!そうだろう!」
実際そう思う。
世の中には対等じゃない友人関係も少なからず存在する。
搾取されたり、不快な思いをさせ続けられる友人関係。
それは、特に女子には多いのではないだろうか。
「だったらせめて、怒られないようにしましょうね」
「あー!それは盲点だった!」
僕達はゲラゲラと笑って、次の家に向かった。
対等な関係の友人。
僕は柊と対等な関係でいられているだろうか。
・・・
「お、流星」
「柊」
僕と渡木会長が近所周りを終えて、帰ってきた。
すると校門に段ボールを持った柊がいた。
「おお!暁月君か。体育倉庫以来かな?」
「…ああ、どうも」
柊はペコリと頭を下げた。
「それで、その段ボールは一体どうしたんだ?」
僕がそう聞くと、柊は頭を上げて答える。
「教室の装飾用や看板用だよ。コロッケあげるだけじゃなくて、校内で看板持って歩いたり、店の外観とかも大事になってくると思ってな」
「流石だな」
すると、渡木会長はうんうんと頷くと柊に言った。
「一年生で初めての文化祭でそれに気づけるなんて流石じゃないか!頑張りたまえよ」
「ああ、はい」
なんだか、渡木会長と柊の絡みっていうのが新鮮だ。
何というか、柊が対応に困っているのが特に新鮮。
「すまんな、柊。僕は生徒会で、あまり手伝えそうにないよ」
「いいよいいよ。クラスの女子と、これを通して仲良くなれてるし、一年二組を僕のハーレムにするのも早そうだ」
そういえば、柊は嫁さん探しでこの星に来ていたんだっけ。
ハーレムについては、今度じっくり話すとしよう。
「ハーレムか、いいね!」
「のらないで下さい。渡木会長」
全く、この会長にも困ったものだな。
「まあ、そっちも頑張れよ。流星」
「ありがとう。柊。さあ、行きましょうか渡木会長」
「わかった!じゃあね、暁月君!」
僕は柊に別れを告げて、生徒会室に戻った。
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