第四章 騒がしい放課後 4

僕がゆっくりと生徒会室に戻っていると、渡り廊下で立ち尽くしている、見覚えのある人がいた。

そう、下野先輩だ。

彼女は窓から差し込む夕陽に当てられていて、少し幻想的だった。


「下野先輩。こんにちは」


「ああ、土井さんですか。こんにちは」


僕が声をかけた時、土井さんは何かメモ帳に書き込んでいるようだった。

思わず気になって、僕は聞いてみる。


「今、何をしているんですか?」


すると、下野先輩はしっかりと答えてくれた。


「ええっと実は今、演劇部のシナリオの案を出しているんですよ。演劇部のシナリオを私は書かせてもらっているのですけど、とあるシーンに少し戸惑いがありましてね…」


「あ、下野先輩はそんな事までやってるんですね!知らなかったです。そういえば、演劇部はオリジナルシナリオって聞いてましたからね。まさか下野先輩が作っているとは」


僕が感慨深く思った後、その質問をした。


「それで、とあるシーンっていうのはどんなんなのですか?よければ協力させて下さいよ」


「いいんですか?ありがとうございます。実は今回のシナリオはこの学校を舞台に繰り広げられる恋愛物語で、渡り廊下での告白シーンなんですけど…」


またまた、それは凄いシーンだな。

…百合ものなのだろうか。

いや、深くは突き詰めないでおこう。

その取材も含めて、ここで考えていたのだろう。


「なるほど…。主人公とヒロインはもちろん古屋先輩と菊川先輩なんですよね?」


「その通りです」


となると…。


「だったらやっぱり、主人公がもの凄いカッコいい言葉で告白するしかないんじゃないですかね?」


「そうですよね。そうなると、男性から見て女性に言ってあげられるカッコいい告白の言葉ってどんなものが思いつきますか?」


告白した事がないからなあ。

難しい。


「そう、ですね…。…んんん、…んんんんん」


必死に考えるが、ありきたりなものしか出てこない。

かっこいい告白ってなんなのだろうか。


「…思いつかないですね」


「…そ、そうですか」


少し困ったような顔を下野先輩はした。


「結局のところ、男にカッコいい告白なんて求めるのが間違っているんでしょうね」


「というと?」


僕の言葉に下野先輩は反応する。


「異性の事をちゃんと知らないから、妄想が捗るって感じなんでしょうね。実際、身も蓋もない話をすると、女子が一番求める男子からの告白なんて女子にしか思いつかないでしょうし」


なんだか、自分で言っていながら物凄くしっくりする。


「だから逆も然りで、男子が求める女子なんて、現実にはいないのでしょうね」


なんだか、自分で言ってて辛いな。


「なるほど…」


下野先輩はなんだか感心しているようだった。


「だからきっと、男に聞くのは間違えているんじゃないですかね。女子が本当に求めるのを思いついて書くのがいいんじゃないですかね」


すると、僕の言葉を聞いた下野先輩はメモ帳に何かを書いていた。


「すいません、結局なんの役にも立ちませんでしたね」


「いいえ、ありがとうございます。いい事を思いつけたかもしれません」


「それはよかったです」


目の前で、メモ帳に一心不乱に書く下野先輩。

書き終えたのを見て、僕は話しかけた。


「そういえば、柊と渡木会長について色々進捗はありましたか?」


「ああ、その事なんですけどね」


メモ帳とペンををポケットにしまった下野先輩は口を開く。


「ゴールデンウィークを超えてから暁月さんのの動向をしっかり確認したのですけど、不審な点が一切見つけられませんでした。今までは私が暁月さんの存在に気づいていなかっただけなのでしょうか?」


よし、しっかりやっているようだな柊。

お前に星に帰られるのは困るからな。


「土井さんは何か気づきましたか?」


そう言われて、僕は答える。


「僕もよく観察してみましたけど、特に変なところはありませんでしたよ。た、多分見落としとかじゃないですかね…」


ああ、堂々と嘘をついてしまった。

すいません、下野先輩…!


「…そうですか。まあ、もう少しこちらも観察させてもらいますね」


「わかりました」


柊にもう少し注意するように伝えておこう。


「それで、渡木会長とはどうなんですか…?」


僕が改めて聞くと、下野先輩は恥ずかしそうに言った。


「それが、最近特に何も変わっていないんですよね…」


「まあ、そうでしょうね」


恋愛において、一番難しいのは関係性を変える事だ。

普通の知り合いや友人から、気になる人に変えるのには大分骨が折れる。


「今度、僕が下野先輩の事をどう思っているのか、それとなく渡木会長に聞いておきましょうか?」


「…いいんですか?」


「ええ、それぐらい任せてくださいよ。今回もあまり役に立てませんでしたし」


「そんなことはないのですか…。ですが、お願いしてもいいですか」


僕は快諾する。


「任せてください。じゃあそろそろ僕は生徒会室に戻りますね。チャンスを見ては聞いておきます」


「ええ、ではまた」


僕は早速生徒会室に帰ったのだった。


・・・


僕が生徒会室に戻ると、金瀬先輩を除く三人がが何処かへ出かける準備をしている。

渡木会長は既にコスプレも着替え終えていた。

荷物を持つわけではないが、身嗜みを整えたり、生徒会と書かれた腕章をつけていた。


「お帰り土井君!さて、君もこれをつけて!」


そう言って、渡木会長が僕の分の腕章を渡してくれる。


「こんなの滅多にないですけど、どうしたんですか?」


僕がそう質問すると、火ノ元先輩が答えてくれる。


「いまから、近所回りに行くんだよ。これから文化祭の準備が本格化していくとなると、騒がしくなるから、あらかじめご了承下さいっていう挨拶とこのプリントを配布するの」


こんなとこまでしっかりしているのか。

恐るべし、生徒会。


「なるほど、まさかこんな事までするとは思っていませんでしたよ」


そう聞いた僕は受け取った腕章を自分に身につけようとするが、うまくつける事ができない。

えーっと。


「もう!貸してください」


すると火ノ元先輩が寄ってきて、僕は言われるがままに腕章を渡した。

火ノ元先輩は僕から腕章を受け取ると僕の腕につけてくれる。

腕章は綺麗に巻かれていた。


「ありがとうございます。火ノ元先輩」


「勘違いしないで下さいよ!腕章ぐらいしっかりつけてないと、生徒会の威厳がなくなりますからね!」


そうキツめに僕に言った後、さっさと生徒会室を出てしまう。

今日も可愛いなあ。


「それじゃ、金瀬ちゃん。留守番よろしくね!」


「…(こくこく)」


金瀬先輩は留守番なのか。


「では、行きましょうか土井君」


「ええ」


水坂先輩にそう促されて外へ出る。

さっきの事を思い出してしまいそうだったが、すぐに首を振ってかんがえないようにした。


「それで今回だけど、校門を出て、右側と左側の二手に分かれようと思うんだけど、いいかな?」


渡木会長の言葉に僕を含めた三人が賛同した。


「じゃあ、グーとパーで分かれようか。せーの!」


結果、僕と渡木会長がグー。

水坂先輩がパーで落ち着いた。


「おっ!土井君とかー!よし、早速行こうか!」


渡木会長は僕の背中を叩いて喜ぶと、さっさと前は歩いて行く。

この人、やり放題だな。

けれどまあ、都合がいい。


「わかりました。…それでは先輩方、お気をつけて」


「ええ。土井君も花奏に振り回されないように気をつけてね?」


嫌な予感しかしない。

水坂先輩と火ノ元先輩が手を振ってくれた。

僕は足早に歩く渡木会長の後をついて行く。

そうだ、男として、そして雑用としてしっかり仕事をしないと。


「あ、渡木会長。プリント、僕が持ちますよ」


「あ、そう⁈ありがとう!」


そう言って、プリントを手渡してくれる。

さて、渡木会長と二人。


「さあ土井君!さっさと仕事を終わらせようか!」


…下野先輩のミッションをクリアするとしましょうか…!

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