第四章 騒がしい放課後 3
中間テストが終わった。
周りのクラスメイト達は、テストの終わりにとても喜んでおり、やれどこへ遊びに行くやと楽しそうに話をしていた。
そういえばこのクラスにも、もう百合の人達はいるのだろうか?
…深くは考えないでおこう。
テストの事を考えるんだ。
えーっとまあ、一番最初の定期テストなので百点は取れないにしても、九十点代後半の点数はいくつか取れるだろうなあ。
そうだ、柊にも聞いてみよう。
隣の席の柊に僕は話しかけた。
「どうだった?」
柊は早速携帯を開いてゲームをしていた。
「ようやく終わったからな、今日から遊びまくるぞ!」
そう言って、ゲームを続ける柊。
話し相手になってもらおうと、思ってたんだけどなぁ。
というか、僕もそこそこ勉強をしたり仕事をしたので、今は遊びたい気分である。
けれど、生徒会の仕事が今日から本番になってくる。
なんだか、最近は社畜の気分だ。
「とりあえず遊ぶ前に、このクラスの文化祭の出し物を決めなきゃいけないみたいだぞ?柊」
自分達のクラスが何をするのかを決めて、生徒会に言わなければならない。
三年生は歴代から劇をするという風習があり、もう決まっているらしい。
この前、水坂先輩が作っていたプログラムに何の劇をするかが書かれているらしいがそういえば僕はまだ見ていない。
今日聞いてみよう。
生徒会で働いていると、自然とこういう事に詳しくなれるなと思った。
「文化祭ってなると、お化け屋敷とかメイド喫茶なんじゃないの?」
柊がゲームをしながらそう聞いてくる。
いつものリズムゲームだが、会話をしながらできるなんて、器用な奴だ。
まあ、定番だな。
「えー、でもなんか変わった事したくない?」
「まあ、そうだな」
教室に担任教師が入ってくる。
そして、テスト終了の労いと文化祭の出し物について話し始めた。
そして、文化祭での賞の話もする。
「まあ、文化祭の賞は取りたいよな」
僕がそう言うと、柊は携帯をしまい、少し驚いて言った。
「文化祭って賞があるのか?」
「ああ。舞台部門と食品部門と展示部門の三つでな。舞台部門は三年だけだから、まずは食品と展示のどちらにするか決めなきゃな」
「まあ、食品をみんなやりたがるだろ」
「…まあ、それもそうだな」
僕だって、どちらかというと食品がやりたい。
「って事は、食品で賞を取るには意外性があって、売り上げが莫大になりそうなものを考えなきゃいけないのか」
「そうだな」
柊に同意を得た僕は考える。
一クラスに五万円となると、メイド服も難しいし、金の掛けた食品は作れないだろう。
クラスの全員で出し合って、売り上げで返ってくる分を戻すことも自信が有ればできるだろう。
五万円でメイド服量産は無理だろうな。
「単価も安いものにしなきゃな」
「んー、じゃあ何ができるんだろう」
柊も頭を悩ませて考えている。
そして、何かを思いついた柊は言ってくる。
「やっぱり、売り上げを高くするには、匂いが重要になってくるな」
「確かに」
僕は同意せざるを得なかった。
かき氷とか、人気なのは匂いがなくてもいけるが、思わず食べたくなるような匂いは集客力が格段にアップする。
単価が安くて、腹の空くいい匂いを漂わせれる物か。
フランクフルトとかのありきたりじゃないのがいいかもしれない。
柊が口を開く。
「カレーとかしか、思いつかないんだけど」
「文化祭でカレーはおかしくね?」
でも、カレーは確かにお腹が空く。
何かにカレーを付け足すのはどうだろうか?
カレーの料理と言うと、カレーうどん、カレー鍋、スープカレー…。
「…カレーパンはどうだ?」
「お、いいんじゃね?」
「手で持ち歩きながら食べられるし、油で揚げる音も結構いいかもしれない」
「かもな」
けれど、よくよく考えてみると問題があった。
「あ、でもカレー作りにパン作り、さらには揚げる作業で大変かも」
「だったら、コロッケにしたらどうだ?カレーコロッケ」
「⁈それなら、ノーマルのコロッケも作れるしな!」
潰したじゃがいもにカレー粉を混ぜるだけのはずだ。
やばい、なんか天下を取れそうな気がする。
柊がテンション高めに言った。
「おっしゃ!これを押してみるか!」
「ああ、そうしよう!」
僕達が気付く事もなく、周りのクラスメイトがその話を聞いていて、少し渋りながらもコロッケとカレーコロッケでこのクラスの出し物が決まった。
…なんかすいません、皆さん。
・・・
担任にクラスの出し物の用紙を渡されて僕は生徒会室に向かった。
「やっほー土井君!テストはどうだった?」
今日も元気な声で渡木会長が挨拶をしてくれる。
今日のコスプレは熊のぬいぐるみだった。
「まあ、ぼちぼちってところじゃないですかね。あ、これうちのクラスの出し物です」
僕が渡すと、渡木会長はふむふむと言いながら用紙を見つめてこう言った。
「面白そうだね!私も当日、買いに行くよ!」
「ありがとうございます。そういえば気になったんですけど、渡木会長と水坂先輩のクラスの劇って何やるんですか?」
僕が聞くと、渡木会長が答えた。
「私のクラスは『親指姫』だよ!聞いて驚け、親指姫はまさかの私だ!」
なんとなくは予想がついた。
なるほど、いいんじゃないかな。
それを聞いた僕は視線を水坂先輩に向ける。
「私のクラスは人魚姫ですね。私は、モブ人魚の一人ですけど」
「なるほど、衣装とか楽しみですね」
下半身の人魚の部位はどのように再現するのだろうか。
「ええ、是非見せてあげますね」
「あ、は、はい」
そういう意味で言ったわけではないのだが、まあよしとしよう。
「それはそれとして、土井君、早速仕事だよ!瑠泉と部活動の出し物を聞いて周ってきてくれ!」
「了解です」
僕は持ってきた荷物を置いて、扉の前で待っている水坂先輩のところへ寄る。
「では、言ってきます」
「いってらっしゃーい!」
「はーい」
「…」
生徒会の皆が手を振ってくれた。
僕は水坂先輩の後をついて行った。
・・・
「というわけで、それで頼むよ」
「了解しました。会長に伝えておきますね」
「はい。よろしくお願いします」
数々の文化部を回って、今は最後の演劇部。
今、僕と水坂先輩は演劇部部長と副部長の古屋さんと菊川さんと話していた。
演劇部はこの前の生徒会での人生ゲームの時に渡木会長が用意した演劇部特設ステージにおいての劇になっていた。
シナリオは完全書き下ろしだそうだ。
凄い。
「ああ、それと例年通りのあれも、今年はあるのかい?」
古屋さんがそう聞いてくる。
「ええ、日程が決まり次第お知らせにきますね」
…。
「すいません。あれってなんですか?」
僕が水坂先輩に聞くと、水坂先輩は答えてくれた。
「体育館の舞台での予行練習の話ですよ。演劇部は当日に運動場に特設ステージを作りますが、体育館の舞台は演劇部以外にもダンス部や三年生のクラスの劇の練習に使われますからね」
「なるほど」
そんなのもあるのか。
全部覚えておかないといけないなと思った。
本当に将来、僕はきちんと生徒会役員をやれているだろうか。
「ではまた」
「お疲れ様です!」
そうやって、演劇部での仕事が終わり、部活動の出し物の内容は全て把握できた。
「そういえば、文化祭の日のことなんですけど…」
「え、あ、ああ」
水坂先輩の少し恥ずかしそうな態度で分かった。
恐らく、合宿で話したあの事だろう。
「当日、文化祭を回った後お話するって事にしてもいいでしょうか?」
水坂先輩がいわゆる、上目遣いというやつで僕を見ながら言ってきた。
…まあ、断る理由もない。
「わかりました。色々時間を試行錯誤しましょうか」
今思えば、水坂先輩から怯えて逃げる事があの日から一切なくなった。
今はこうして、しっかりと仕事ができるようにまでなっている。
これは何かがいい方向に動いているのではないだろうか。
「わかりました。…あ、あの。先に行っておきますね」
水坂先輩はそう言うと立ち去ってしまった。
…追いかけるのは野暮というものだろう。
それに自分の気持ちも考えたかった。
…自分の胸が少し騒がしいのだから。
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