第四章 騒がしい放課後 2

翌日の放課後。

僕は今日も生徒会室に来ていた。

昨日は金瀬先輩にUSBを渡した後、すぐに終わったのだが、今日は忙しくなるみたいだ。


「今日は何をするんですか?三年の先輩二人はいませんし」


今、生徒会室にいるのは僕と火ノ元先輩と金瀬先輩。

渡木会長と水坂先輩は今日の仕事の為に、今は何かの準備をしているそうだ。

そういうことなので、僕は火ノ元先輩に聞いたのだ。


「今日はテスト明けに配布するものの準備ですね。プログラム第一稿と入場チケットの準備、それとクラス会費です」


「なるほど」


プログラム第一稿は各学年に一クラス一つずつ配布をして、訂正箇所、その他の要望を聞き、第二稿を作る。

入場チケットは生徒以外のお客様用だ。

ここは元女子校なので、変な人達が入ってこないようにチケット制を導入しているのだとか。

種類は、家族用と友人用の二種類。

家族用は一枚で親族全員が入れるが、友人用は一人入るのに一枚なので、一人数枚以上が必要なので印刷が大量に必要だ。

そして、クラス会費。

文化祭を運営するにあたっての費用の準備。

一つのクラスに五万円が配布される。

また、飲食などの売り上げが黒字になった場合は全額を生徒会に寄付することになる。

クラスのメンバーで黒字を分け合うなんて、トラブルが起きる嫌な予感しかない。


「やっぱりこういうところ、しっかりしているんですね、この学校」


「当たり前だろう?こんなの適当にやったら大変なことになるからね」


改めて、生徒会の学校運営に僕は感服するしかなかった。

考えていたよりも、だいぶしっかりしている。


「将来は土井君が皆を引っ張る事になるんだからしっかりしないとね」


「…(こくこく)」


「そういや、そうですよね」


先輩達が卒業すれば、必然的にトップになるのは僕だ。

この学校は生徒会役員選挙なんてものはなく、中から繰り上がりで役員になるのだ。

つまり僕は将来、生徒会長になって後輩たちと共に今までの仕事と新たに教わる仕事をこなしていかなければいけなさそうなのだ。


「なんか、一人じゃ心細いですね」


僕がそう言うと、火ノ元先輩が反応する。


「そういえば、土井君は渡木会長の推薦で入ったよね?」


「はい、そうですけど」


僕がそう答えると、火ノ元先輩は首を傾げて言う。


「水坂先輩の推薦がまだ残っているはずだから、もう一人誰かを推薦するか、放棄するなら誰か希望者を集めないとね」


「あ、そうなんですか」


僕一人ならともかく、あと一人仲間ができるのならそれは嬉しい限りだ。

水坂先輩は誰か推薦したい人がいるのだろうか?


「お待たせー!開けてー!」


生徒会の扉をゴンゴンと鳴らす音が聞こえる。

どうやら、手が塞がっているようだ。


「はいはーい」


火ノ元先輩が扉を開けようとして、扉に近づく。

僕も荷物を持とうと、扉に近づく。


「⁈なんですかその荷物⁈」


渡木会長と水坂先輩は信じられないくらいのプリントと入場チケットの束を持って、扉の前に立っていた。


「?毎年これぐらいだよ?」


そうなのか…。

これは仕事が大変そうだ。


「も、持ちますよ」


「ありがとう土井君!もう腕がプルプルしているよ。奥の机にお願い!」


「わかりました」


僕は渡木会長から、それらを受け取って奥の扉へ向かおうとする。

すると、後ろから少し低い声が聞こえた。


「…土井君、私の分は?」


「おっとー!持ちます持ちまーす!」


僕は急いで、水坂先輩の側に寄り、渡木会長から預かったプリント類の上に置いてもらう。

このまま置いていったら男が廃る。


「…っ!」


…ものすごく重たい。

尋常じゃない重さで耐えきれるか心配けれど、落としたら大変な事になるし、何よるそんな無様なところを見せたくはない。


「…っく!」


なんとかゆっくりと歩いて持ち運び、見事奥の机に置く事に成功した。

これだけでだいぶ疲れるんですけど。


「よし、じゃあ作業しようか!」


「「はい」」


「…(こくこく)」


「ぜぇ…。は、はい」


渡木会長の声に皆が反応する。

そして渡木会長は指示を始めた。


「やらなきゃいけないのは、プログラムの製本。チケットへの生徒会の印鑑押し、それからクラスごとへの分配だね。金瀬ちゃん、クラスごとの枚数をまとめた資料はある?」


「…(こくこく)」


金瀬先輩は頷いた後、プリントを取り出して全員に配る。

そこには個人の枚数とクラス全体の枚数が書かれていた。

げ、十枚とか頼んでいる奴いるよ。


「だったら、製本に一人、判子押しに二人、数分けに二人だね。さっさと終わらせようか!」


これで仕事の内容はきちんと確認できた。


「そうだね、じゃあ、土井君には簡単な判子押しを、火ノ元ちゃんとやってもらおうかな。判子が押されたチケットを私と金瀬ちゃんでやろう」


「「了解です」」


「…(こくこく)」


それぞれ理解の言葉を言うと、水坂先輩も準備を始めた。


「なら私は、製本ですね」


「そうだよ。私だったら、変な折り目つけちゃうだろうしよろしくね、瑠泉!」


「はい、任されました」


そう言って、水坂先輩は製本の作業を始めだした。

学年八クラスの三学年。

合計二十四冊のプログラムの製本はどんなのだろうか。


「テストが明けてから、さらにそこにクラスの人数をかけて保護者に配る用も必要になるから大変だよ、土井君!」


「マジですか」


一クラス、大体四十人となるとおよそ九百六十冊。

そこにさらに増刷するとなると、千は軽く超える。

未来の自分は大変そうだなとつくづく思う。


「ほら、やりますよ土井君」


そう言って、火ノ元先輩はクローゼットから重要そうな箱を出してくる。

それを開けると中から、『蒼野高校生徒会』と彫られた豪華そうな判子が出てくる。

やべぇ、こんな凄そうなものを僕が扱っていいのだろうか。


「では、土井君はこの半分をお願いしますね。入場時に取るチケットの切り目の間に押して下さい」


「わかりました」


僕は判子を持って、朱肉に何回か押し付けるとチケットに最初の一度目を押し付ける。

判子を何度も押す最初の時って、少し緊張しないだろうか?

僕がそう考えている間に、目の前では素早く判子を押している火ノ元先輩の姿が見える。

やば、僕もやらなきゃ。


「よし」


僕は気合を入れ直すと、机に向き直った。


・・・


生徒会室の中はただ、作業をする音だけが発生していた。

誰の集中も途切れずに凄いスピードで進んでいる。

僕も一心不乱に判子を押していた。

何故、いちいち押さなければならないんだと脳裏をよぎったが、しっかりと考えてみると当たり前のことだった。

ここは元女子校、共学になったとはいえ、女子の方が圧倒的に多いこの学校に邪な気持ちを持った男達が入ってきたりしたら、よくないことが起きるに決まっている。

その点も踏まえて、しっかりとチケット制、そして一つ一つに朱印をつけているのだ。


「ふぅ」


そんな事を考えながら、黙々と作業をしていると、前にいる火ノ元先輩が首元が痒くなったのか、ポリポリと指でかいていた。

そして、作業に戻る。

…。


「⁈」


僕は思わず目を見開いてしまった。


「どうかしたかい?土井君」


「い、いえ。何もないですよ」


「そうか?」


そう言って、火ノ元先輩は作業に集中しなおした。

これはいけない。

さっきの火ノ元先輩の行動で、指についていたであろう朱肉の赤色が、火ノ元先輩の首元についているのだ。

それ自体は問題じゃない。

いや、それも問題なのだが。


「…」


僕は気づいてしまった。

判子を押すたびに火ノ元先輩の巨大なものが揺れている事に。

それに気づいてしまったら、後には引き返せない。

ついつい、そちらに視線がいってしまう。

駄目だ僕!

心を律するのだ!


「…?」


火ノ元先輩は不思議そうな顔をしていた。

僕の心中が大変な事になっているのには気付く節もなかった。

そう、朱肉の色がさらにまずい。

火ノ元先輩の白い肌にあんな赤色のものがついていたら、絵になるに決まっている。

あああああ!

どうすればいいんだ!

教えるにしても、胸元ばかり見ていたと勘違いされてしまいそうだし、教えないにしても、ひょっとすると火ノ元先輩に恥をかかせてしまうかもしれない。

どうするどうするどうする…!


「土井君、手元が止まっているけど大丈夫?」


…僕は意を決して言った。


「火ノ元先輩、自分のここの部分を見てください」


火ノ元先輩の朱印のついている部分を自分の体に指す。

火ノ元先輩は視線を落として見たのだった。

その後の事はあえて語るまい。

今日も騒がしい日だった。

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