第四章 騒がしい放課後 1
「すまん、それはできない」
柊は神妙な顔でそう言った。
柊にそう言われた僕は少しの沈黙の後にこう聞いた。
「お前はエイリアン、それは間違いないんだよな?」
「ああ、そうだ。流星は頑に信じないがな」
柊は自嘲気味に言った。
僕はこの前の出来事を言う。
「…ゴールデンウィーク、山で天体観測をしたんだ。…そしたら、UFOを見つけたんだ」
「⁈」
そして、驚いた柊は目を大きく開いて僕を見る。
僕は問い続ける。
「あれにお前は乗っていたのか?」
「…今、ここでその話をするのはやめよう」
柊は僕の質問を遮った。
そして席から立ち上がって、教室の扉へ近づいた。
「作業までまだ時間がある。少し人のいないところで話そう」
僕も立ち上がって、柊についていく。
僕は隣には立たず、柊との足並みを揃えることなく、彼についていくだけだった。
校舎と体育館を繋ぐロータリーに出る。
柊は手摺りに黄昏るように、もたれかかった。
「さて、何から話すか」
そう言いながら柊は空を見上げた。
「とりあえずゴールデンウィーク中に、一切連絡を寄越さなかった理由から教えてくれよ」
「そうだな」
柊は目線を下げて僕の方を見る。
「前々から故郷から連絡があって、一度僕の星に帰るように命じられたんだ。俺の星じゃ、携帯の電波は届かないからな。それで実家に戻った時、親に自分の正体を流星にバラした事を叱られた」
「え、バラしちゃ駄目だったのか?」
えらく、サラッと言われた気がするのだが。
言われたことはしっかり守ろうぜ…。
「ああ、それで地球人に宇宙人の存在を認識させたらまずいらしいからな」
「何がまずいんだ?」
僕がそう聞くと柊は人差し指と中指を立てた。
「一つ、地球に存在する人間という種族の脅威。全てにおいての武力行使や争いを避けるためだ」
これは理解せざるを得ない。
人間は今までの歴史の中で、醜い争いばかりを何度も何度も繰り返しているのだから。
「そしてもう一つ、人間への期待だ」
「期待?」
「ああ、ここ数十年でこの地球の科学の発展は想像を絶するものだった。僕の星の方が明らかに先に進んでいるが、全く思いつかなかったようなものもあり、凄いものだった」
なるほど。
僕にも理解できる内容だった。
というか、そんな大層な理由があるのに、僕にあんな簡単に教えないでくれ。
「僕が乗ってきたUFOもあれ以外の種類の機体が一切ない、地球人が一から考えるなら、全く別のものが生まれる可能性があるからな」
「まあ、それなら仕方ないな」
僕はこの時確信した。
今までの話、下野さんの証言、夜空のUFO。
柊自身が人間以外の何者にも見えないけれども、九九パーセントぐらいは信じても良さそうだ。
僕は本当にエイリアンの友達になっていたらしい。
なんだか、思っていたエイリアンとは少し違うけれど。
「それで、頼みがある」
柊が口を開くと共に学校のチャイムが鳴った。
これは予鈴だから急ぐ必要もないが、教室に戻らないといけないのは確かだ。
けれど、僕は柊の言葉に耳を傾けた。
「流星以外の人に俺の正体がバレるわけにはいかなくなったんだ。もしバレたら、俺はこの学校を退学して、星に帰らなければならない」
「えっ…」
衝撃の発言だった。
柊が宇宙に帰る。
そうなれば、柊とは永遠の別れになる可能性が高いのではないだろうか。
「だからそれがバレないように、流星に僕のフォローをして欲しいんだ」
「それぐらいならお安い御用だな。ただ…」
僕はそんな大事になるのなら言いたい事が一つだけあった。
「お前、学校に間に合わなさそうな時、どうしてる?」
「えっと、ワープを使って来てるけど…」
「じゃあまずは、それをやめような」
今日、僕はエイリアンと友達である事を知った。
・・・
ゴールデンウィークが終わると、中間テストのシーズンになった。
僕のクラスメイト達は一生懸命に勉強していた。
「流星は勉強しなくていいのか?」
柊は僕の隣で提出物に取り組んでいた。
対して僕はもう、帰る準備をしている。
「まあ、家でほどぼどにやっているよ」
実際のところ、少しはやっているがあまりやっていないのも事実。
勉強をする必要がないのも確かな事実ではあるが、生徒会は優秀な人しかいないのであまり休まないのだ。
「今日は顧問の縄田先生に金瀬先輩に渡されたデータを渡しに行かなきゃいけないしな」
そう言って、僕は立ち上がった。
「というか、お前はそんなに学力が悪いわけじゃないだろ?」
荷物を持ち上げて、僕は柊にそう聞いた。
「まあ、そこそこはやらないとな」
そう言って、柊は机に向き直る。
まあ、いい姿勢ではないだろうか。
「じゃあ、僕は行くよ」
「おう。じゃあな」
僕は柊に別れを告げて、教室を出た。
毎日徐々に温度が上がっていく廊下を歩き、職員室を目指す。
僕はこの前の事を思い返していた。
柊の正体を隠すこと。
今のところ、その危険が一番あるのは下野先輩だ。
彼女は柊が何か怪しいということは気付いているのだから。
しかし、正直に話すこともできず、嘘をつくしかない。
心が少し痛むが、柊がいなくなってしまうのは嫌だ。
「…まあ、おいおい考えていかなきゃな」
そう言った後、職員室の扉をノックして声を上げる。
「生徒会の土井です。縄田先生はいらっしゃられますか?」
「はい。こちらへ来てください」
すると声が聞こえてそちらを見ると、縄田先生がで上げてこちらへ招いてくれた。
「縄田先生、文化祭の資料のデータを持ってきました。確認お願いします」
「わかりました。確認しますね」
そう言って、僕からUSBを受け取るとパソコンに繋いでデータを確認し始める。
「どうですか、生徒会にはなれましたか?この前は合宿に行ったとも聞きましたが」
目を通しながら、私にそう聞いてくる。
「まあ、仕事は大変ですけれど、楽しいですよ」
「それはよかったです」
火ノ元先輩は縄田先生の事が怖かったと言っているが僕は全然そんなことは感じない。
優しい人だ、というわけでもないが至って真面目と言った感じだ。
「はい、確認しました。コピーのファイルを作ったのでこのUSBを金瀬さんに返しておいてください」
「わかりました」
僕はUSBを受け取った。
「テスト勉強は大丈夫ですか?」
「まあ、帰ってからやるって感じですかね」
「あら、聞いてないですか?」
「何をです?」
僕が聞くと、縄田先生は言った。
「生徒会は皆の模範です。平均点の二十点以上は取れるようにして下さい。勿論平均点の高い低いは考慮しますよ。もし取れなければ、ペナルティです」
…。
「初耳なんですけど…」
「まあ、あの四人は学年のトップレベルですからね。当たり前のことだと思っているのでしょうね。渡木さんはいつも無茶振りな問題以外は満点ですし」
あの人、ただの幼女じゃなかったのか。
マジか、思ったよりも勉強しなきゃな。
「昔の生徒会の顧問の人が考えたみたいですよ。情熱な人らしく、私もそれに則ってやらせてもらっています」
余裕かもしれないけどペナルティを受けたくはない。
「それで、ペナルティとはなんですか?」
僕は疑問を縄田先生に投げかけた。
どんな内容なのだろうか。
「運動部のトレーニングルームで、何かいい成果を得るまで筋トレですね。この生徒会、なにかと力仕事も多いですから」
絶対前の生徒会顧問の人、体育教師とかそういう感じだろ。
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