第三者 生徒会文化祭準備合宿 4
BBQを終え、各々が少し寛いだ後、僕達生徒会メンバーは外の森に集合した。
中は暗く、到底月明かりだけではみれなさそうだ。
「大丈夫なんですか?これ」
僕がそう渡木会長に聞くと、この雰囲気には似合わない元気な声が聞こえる。
「ああ!昼間にしっかりとしたセッティングとリハーサルをこなしている。準備は万全だ!」
なるほど。
果たして期待していいのか、期待しないほうがいいのか。
「私はSPの皆さんと驚かす側だから、2人ずつペアで別れてくれ」
「SPの皆さんも手伝ってくれているんですね…。いいんですか水坂先輩?」
火ノ元先輩が呆れるように水坂先輩に聞く。
「ええ。この合宿が楽しくなるのならいいじゃないですか。報酬はしっかり払っていますし」
ええ…。
もの凄い大変そうな仕事だが、本当に給料はおいくらなんだろうか。
僕も今度聞いてみて、よさそうなら履歴書を持っていこう。
「じゃあ、このクジでペアを決めてくれ!」
渡木会長はどこからともなく割り箸を取り出して、僕達に引き抜かせる。
僕の割り箸には赤色が塗られていた。
割り箸をを見せ合うと、僕は金瀬先輩と同じ色だった。
「…(ぶるぶる)」
金瀬先輩が怯えるように震える。
「え、大丈夫なんですか⁈金瀬先輩⁈」
「…」
どうやら、金瀬先輩はこういうのが苦手そうだ。
僕がそう思っていると、火ノ元先輩が口を開く。
火ノ元先輩と水坂先輩の割り箸は何も塗られておらず、その二人がペアなのだとわかる。
「氷彗は幽霊は信じていないから、そういうスポットとかは全然いけるけど、人為的に驚かされるのがわかっているのは怖いんだよ」
「…(こくこく)」
なるほどな。
むしろ僕は幽霊と友達になれるかもしれないと思って行くから、楽しいんだけど。
「わかりました。金瀬先輩、ちゃんと僕が守るんで安心してください」
渡木会長の性格なら、多分留守番なんて絶対に許さないだろうし。
どんな仕掛けがあるかは分からないが、出来る限りのことはしよう。
「じゃあ私は早速、スタンバイしてくるよ!時間が経ったら、この懐中電灯を持って、ペアで入ってきてね!」
そう言って、渡木会長は暗闇の中に消えていった。
「一体どれほどのクオリティなんでしょうね…?」
火ノ元先輩の言葉に水坂先輩が言う。
「私のSP達も全面協力しているはずなんで、かなりの高クオリティになりそうですよ」
マジでSPの人達可哀想。
給料弾んであげて。
そしてしばらく時間が経って、水坂先輩と火ノ元先輩も暗闇に消えていった。
「そろそろ、僕達も行きますか」
「…」
ただでさえ、無言で反応に困る金瀬先輩が全く反応がない。
どうするべきかと悩んでいると、金瀬先輩は僕の服の袖口を掴んできた。
何この人、めちゃくちゃ可愛い。
「い、行きますよ」
僕達は懐中電灯を照らし森の中へ入っていった。
入った途端、森の奥から叫び声が聞こえる。
「キャアアアアアアア!」
この声は火ノ元先輩の声だ。
ひょっとすると、火ノ元先輩も怖いのは得意ではなかったのだろうか。
「⁈」
その声に驚いた金瀬先輩は僕の体にしがみついて、離れなくなってしまう。
違う意味でドキドキしてしまうが、金瀬先輩が怖がっているので、ここは真摯に行こう。
「このままでいいですから、しっかりと進んでいきましょう」
僕がそう言って、金瀬先輩と数歩進むと、あたりがピカピカッ、と一瞬明るくなる。
骸骨やゾンビそれらの模型が大量だった。
「…⁈」
「あ、ちょっと待って下さい!」
金瀬先輩は僕を思いっきり引っ張って、目を瞑ったまま急いで進んでいく。
すると、金瀬先輩は木にゴツンと頭をぶつけてしまった。
「だ、大丈夫ですか?」
「…(ふるふる)」
思いっきり首を振って、少し涙目になる金瀬先輩。
ひょっとすると動けなさそうだ。
…。
「えっと、金瀬先輩。僕が背中でおぶるんで、目をひたすらに瞑っておいて下さい。それなら大丈夫ですか?」
僕がそう言うと、金瀬先輩はゆっくりと頷いた。
僕は金瀬先輩の前でしゃがんで、背中の後ろで手を広げる。
すると、ゆっくりと金瀬先輩は僕の背中に乗ってくる。
「…ありがとう」
耳元で金瀬先輩からの感謝の言葉をいただいた。
「大丈夫ですよ。しっかりと捕まっておいて下さいね」
僕は懐中電灯を今日に口で支えて、前を照らす。
両手は塞がっているし、前は暗いので仕方がない。
「では、行きますよ」
僕はそう言うと、ゆっくり歩き始める。
目の前にはおぞましい光景や、恐ろしい音が聞こえる。
それに少し反応するように、金瀬先輩は僕の背中でビクビクと震えた。
「…」
暗闇を歩きながら、僕は考えていた。
人には誰しも苦手だったり、欠点となるものが必ずしもあるのだろう。
それは、渡木会長だったり、水坂先輩、火ノ元先輩、金瀬先輩、縄田先生、下野先輩、古屋先輩、菊川先輩、柊、そして僕。
全員に得意だったり凄いことがあるが、やっぱり欠点は存在するのだろう。
今僕が知っている事や、僕がまだ知らない事。
それらを知って、その人を好きになれたなら、きっとそれは友達だったり、仲間だったり、恋人になれるのだろう。
僕は今、金瀬先輩の苦手なことを知った。
なら僕は一体、金瀬先輩の何になれるだろうか。
「…?」
そんな事を考えていると、目の前に女の人の後ろ姿が現れる。
先ほど姿を見た、金髪の渡木会長後ろ姿だ。
「渡木会長。ここで何をして…い…」
目の前で盛大に渡木会長が倒れる。
赤い液体が、止まる事なく流れ続けて、地面に染みていく。
「」あ、あああ…、あああああ…!」
「…キャアアアアアア!」
僕の言葉に反応したのか、金瀬先輩は目を開いてしまったのだろう。
その姿を見てしまった。
ナイフで滅多刺しにされている渡木会長を。
「わあああああ!」
僕はその場から逃げ出した。
怖いとかそのレベルの域以上だ。
実はあれ、本当に死んでいるんじゃないかと、本気で疑う。
そして、僕が確認しなおそうかと思った時だった。
「「⁈」」
止めようとしていた足が何かに引っかかって、僕は前に転倒しかける。
すると、縄のようなものが、僕と金瀬先輩を持ち上げた。
これはあれだ。
獣とかを捕獲したり、バラエティ番組とかてよくあるやつ。
金瀬先輩の体が、僕のあちこちと触れ合っていて、普段の自分なら少し邪な気持ちになっていたのではないだろうか。
そんな事を考えていると、足音が聞こえる。
「どうだい、驚いただろう!」
僕と金瀬先輩の下に、先ほど見た死体が喜んでいた。
「洒落になってないですよ、渡木会長!」
血のようなもので赤く染まった渡木会長は、とびきりの笑顔だった。
・・・
三日目。
僕の目の前では先輩達による、テニスのダブルスの試合が行われていた。
ここはなんでもあって、本当に凄いと思う。
「おし!」
渡木先輩がスマッシュを決めた。
「渡木先輩と火ノ元先輩のペアにポイント!」
僕はフィールドに向かってそう叫ぶ。
僕は審判をやっている。
「では、次のサーブはこちらですね。負けていられませんよ!」
水坂先輩はテニスボールを何回か弾ませると、綺麗なサーブを決める。
それを華麗に渡木会長が返した。
僕は、しっかりとは見ているものの、どこか浮かない気持ちがあった。
昨日、肝試しが終わった後、大浴場で汗を流した後、部屋に戻って携帯を開いた。
しかし、もうメールをして二日目だというのに、柊から一切返事がないのだ。
柊はいつも素早く返信をくれる。
けれども、その返事が一切ないのだ。
「あいつの実家は一体どこで、どんなんなんだよ」
僕は小さく呟いた。
テニスボールが勢いよく飛ぶ。
柊の実家は想像もつかない。
圏外の田舎なのか。
それとも家が厳しかったり忙しいのか。
…またはそれ以外の理由なのか。
僕には到底予想ができない。
一体、彼は本当に何者なのだろうか…?
「やったー!また決まった!」
渡木会長の声が響く。
僕は、思っていたより柊の事を知らないんだなとつくづく思った。
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