第三章 生徒会文化祭準備合宿 2

ヘリコプターの中で、僕は生徒会メンバーの先輩方に今日までの経緯を聞いた。

先輩方の周りにはSPだったり、さっき僕を縄梯子でヘリに乗せた、筋肉ムキムキの人も座っている。

なんだか大分いつもと雰囲気が違うが、その人達はずっと黙っており、会話はいつも通りの生徒会だった。

話を聞くと、どうやら僕が女性だけの合宿に行くのを躊躇って逃げるのを防ぐ為にこの計画を立てたらしい。

いやいやいや。


「それでも、ちょっとこの仕打ちはないんじゃないですか⁈」


流石に、こうなることがわかっていたら僕も付いてきたとは思うのだけれど。

男一人と女四人で合宿なんて、かなり不健全だし。

というか、水坂先輩がいる時点で言われていたら、どこかに逃げていた気がする。

やっぱり先輩達のというか、水坂先輩の考えは正しそうだ。


「でも、こんな大層大掛かりな事をしてどうするんですか。僕着替えただけで荷物一切持ってきてませんよ」


「それは大丈夫です。現在、車で土井君の荷物を運んでもらっていますよ」


僕の緊張を緩めるように、水坂先輩はそう言った。

なんか、もの凄いな。

ここまでされるとなんだか逆に驚きがなくなる。


「てか、僕の家であんな事をして、僕の親はどうなってるんですか?」


あんな強行突破みたいな事をされたのならば、僕の親は大混乱しているのではないだろうか。


「それも大丈夫です。この計画にはきちんとご両親の協力がなければこの計画は実行できませんでしたよ」


「えっ、僕の親が協力⁈」


なんだろう。

ひょっとして、買収とかされてしまったのだろうか?


「はい。この前、電話をさせていただいて、土井君の予定確認、今日からの荷物の準備、先ほどの家への突入もしっかり承諾を頂いてますよ」


「ええ…」


なんで大事な息子を簡単に渡せるのだろう…。

…ひょっとしなくても、今まで女っ気がなかったからだろうか。

酷いよパパン、ママン。

僕は外の景色を見る。

いつの間にか地方の方に来ていて、山々を超えている。


「まあ、気持ちを切り替えていこうよ土井君。見てみなよ、この景色をさ!」


そう言って、一人テンションが高い渡木会長が指を指す。

綺麗な樹海の上を僕らは飛んでいるのだ。


「まあ、こんな機会滅多にないですしね。このヘリはどうやって調達したんですか?」


「瑠泉の資産の一つらしいよ?これから行くところも、瑠泉の別荘のログハウスらしいし」


へ、へぇ。


「ところでこの合宿は何日間ですか?」


「一応、三泊四日を予定している。楽しかったら延長だ」


す、凄いなぁ。

スケールがデカすぎる。

水坂先輩の家がお金持ちなのは聞いていたけど、これほどとは。


「そろそろ着きますよ、皆さん」


水坂先輩は外の景色を見ながらそう言う。

樹海の中に少し開けたところがあり、ヘリの着陸場とさまざまな光景が広がっている。

大きな山に、綺麗な川。

ザ自然といった感じだ。


「凄い…」


「…(こくこく)」


火ノ元先輩と金瀬先輩も目を見開いていた。

そうして、ゆっくりとヘリは降下していき、着陸する。


「到着ー!」


渡木会長がはしゃいで、一番先に降りて喜んだ。

次々に降りて、着陸場から見えるログハウスに向かう。


「それで、合宿に来たはいいものの、ここで何をするんですか?」


僕がそう聞くと、渡木会長が言う。


「まずはカレーだ!」


…。


「えっと、カレーを作るんですか?いや、まあ、やりたい事はわかりますけど」


合宿やキャンプに付き物のカレーだ。

他にもBBQなどもあるけれど。

カレーには、みんなで作る楽しさがある。


「仕事はしないんですか?」


「仕事なんていつでもできる!遊べる時に遊ばずしていつ遊ぶのだ⁈」


あー、これは仕事しないやつですね。

遊び倒して終わる典型的なパターンだ。

友達と皆で勉強会は勉強にはならないので皆やめておこう。

そして、水坂先輩が口を開く。


「えっと、土井君以外の人は前日に預けた荷物が届いているはずなんで、まずは荷解きを。土井君には火起こしをしておいてもらいましょうかね」


そうか、僕の荷物はまだ届いていないのか。

少し、自分の部屋で休みたかったような気もするが、それはそれで楽しそうなのでよしとしよう。


「わかりました。火起こしの準備をしておきますね」


僕は生徒会の先輩達と別れて、ここから見える釜戸のところへ行く。

そこへ行くと、ビニール袋が置かれており、その中にはチャッカマンや着火剤、火挟、内輪が用意されていた。

僕が周りを見渡すと、黒い服を着た人達がこのキャンプ場を囲むように立っている。

ひえー、水坂先輩は一体何者なんだろうか。

僕も、この黒服のバイトやりたい。


「まあ、やれることやりますか」


僕はまず、薪置き場に行って、紐で纏められた薪の束をいくつか持って、釜戸のところに戻る。

釜戸は二つある。

おそらく、お米も炊くだろうし二つ付けておくのが正解だろう。

僕は、ゆっくりと正方形状に薪を重ねていく。

風がしっかりと吹き抜けるように地道な作業が大事だ。

もうすぐ終わりそうな時に、先輩達がやってくる。


「お疲れ土井君!カレー作りは任せてね!」


渡木会長が楽しそうにそう言ってくる。

まるで、子供(見た目も含めて)だなとつい頬が緩んだ。

先輩達はカレー作りを始めた。

渡木会長と水坂先輩が野菜を切り始め、火ノ元先輩と金瀬先輩が米炊きを始める。

僕は作った薪タワーに落ち葉と着火剤を入れてチャッカマンで火をつけた。


「よし」


落ち葉と着火剤にしっかりと火が灯り燃え広がる。

僕は懸命に内輪で火種を扇いだ。

燃え広がらない時があるから注意だ。

やがて煙が上がってきて、目から涙が出てくる。


「土井君、これ乗せちゃっていいかな?」


火ノ元先輩は研ぎ終わったであろう、お米を土鍋に入れて、持ってくる。

僕は目を拭って言った。


「はい、この調子なら大丈夫だと思いますよ」


僕がそう言うと火ノ元先輩は少し心配そうな顔をした後、土鍋を釜戸の上に置いた。

僕は金瀬先輩はどうしたのだろうと、調理場の方を見ると、カレー作りの方も手伝わされていた。

…というか、渡木会長上手っ!

何あの包丁捌き。

凄まじいスピードで野菜をカットしていく渡木会長を見ていると火ノ元先輩が声をかけてくる。


「さっきから少し見ていたけれど、土井君は手際がいいんだね。別に、気になっていたわけではないからな?よく視界に入っていたからだからな?」


おっと、ツンデレ頂きました。


「ええ、家族でキャンプとかを昔は何回かしたことがあるので」


本当にいい両親だと思う。

ただ、何故可愛い息子を獣のいる野原に解き放ってしまったのか。

それだけが謎だ。

そんな事を考えながら火の番をしていると切った野菜を鍋に入れ終えた先輩達がやってきた。


「土井君!準備はできてる?」


鍋を持って渡木会長は向かってくる。


「ええ。早くしてくれないと、火が消えてしまいますよ!」


僕は心に誓った。

帰ったら、親に勝手な事はしないでくれと注意しようと。


・・・


完成したカレーはとても美味しいものだった。

合宿で食べるカレーというものはやはり、とても美味しいものだなと思う。

食事を終えて、余ったカレーをSPの皆さんに配った後、後片付けをする。

僕は主に、釜戸の焼けカスなどの後処理に専念した。

辺りは、少し夕陽が差し込んできた頃合いだ。

このカレーは昼食兼夕食といった感じだろう。


「土井君」


水坂先輩が声をかけてくる。


「体が結構、煤だらけになっていますし、それが終わりましたら、お風呂に入ってきたらどうですか?ここのお風呂は景色を眺めながら楽しめる立派なお風呂ですよ」


「……」


水坂先輩にお風呂を勧められる。

警戒しなくてどうしようというのか。

けれど、流石に男湯に入ってくるなんて事はしないだろうと、僕は思った。


「…わかりました。頂きます」


「ええ。お風呂から上がる頃には荷物も届く頃でしょうから、荷解きをもしておいて下さいね」


「了解です」


僕は釜戸の掃除を終えて、ログハウスに向かう。

そして、煤の付いた服をできるだけ叩いて煤を落として玄関に置かれていた僕の荷物の中から着替えをとって、浴場と書かれた所へ行く。

そして、青色の暖簾を潜った。

別荘に男女の別れた風呂場があるなんてなんて凄いのだろうか。


「…」


僕は脱衣所に入るとまず、監視カメラなどがないかと注意を払う。

あの人ならやりかねないと思ったのだが、僕が見る限りは大丈夫そうだ。

僕は衣服を脱いで浴場へ向かう。

そういえば、万が一に備えて柊に電話かメールをしておこうか。

ここから帰らぬ人と僕がなった時、唯一助けてくれそうなのが柊だけだ。


「…おお!」


僕が浴室への扉を開くと素晴らしい景色が広がっていた。

ヘリから見る上からの景色も凄かったが、横から見る景色も素晴らしい。

壮大な山々。

川のせせらぎ。

沈む夕陽。

…カメラを持ってくればよかったと思った。

明日と明後日もあるし、その時は携帯のカメラで写真を撮れるだろうか。


「まあ、マナーはちゃんとしないとな」


僕はまず、体を洗う。

体の至る所に黒く汚れているところがあるので、入念に洗う。

用意されていた、シャンプーとボディソープも大層良いものだった。

立ち上がって湯船に浸かる。


「ああああぁぁぁぁぁぁ…」


湯船に浸かる時、声を出すのがやめられない。

なんとも贅沢なのだろうか。

この時が至福であると断言できる。

嫌なことも何もかも忘れられそうだ。


「ふぅ…」


僕は盛大に寛いでいた。

綺麗な夕焼けを眺めてゆったりとしていたところに戸を開く音が聞こえる。


「え…」


そこに現れるのは、生徒会の先輩方全員。

景色ばかりに目をとられていたせいか、入口の所をしっかり見ていなかった。

扉が二つある。

という事は…。


「きゃあああああ!」


火ノ元先輩は胸元をタオルで一生懸命に隠す。

金瀬先輩は水坂先輩の後ろに隠れた。


「やあ土井君!いい景色だね!」


「なんで渡木会長はそんなに落ち着いていられるんですか⁈」


渡木会長は体を隠そうともせず、こちらに向かってくる。


「そういえば、ここは、脱衣所が分けられているだけで混浴でしたわね」


嘘だよね水坂先輩!

絶対わざと隠していたよね!


「まあ、裸の付き合いっていうのも大事だよね!みんなで入ろう!」


「これはまずいですよ渡木会長!」


あれ、なんだか体が熱い?

なんだか悶々とするような…。

今日のカレーを作った人は?

…水坂先輩がいるという事は。


「僕はもう出ます!」


僕は急いで体を隠して風呂場を後にした。

火ノ元先輩と金瀬先輩の顔がものすごく赤いような気がした。

ひょっとすると、水坂先輩は全員に媚薬を飲ませる強行突破に出たのかもしれない。

僕にはそれが考えられなかった。


・・・


僕が悶々としながら全員の入浴を済ませるのを待つと、全員が戻ってくる。

湿った髪などがやはりものすごく艶っぽい。

発散することも考えたが、妄想に絶対先輩方を使ってしまいそうだったので、やめておいた。


「さあ!寝るまで仕事をしよう!」


そう言って、ログハウスの中で軽い夜食を食べながら、文化祭に向けての会議を行う。

遊ぶつもりはないんじゃないかと思っていたけれど、ちゃんと仕事が始まった。

というか、渡木会長に媚薬は効いていないのだろうか。

それ以外のメンバーはなんだか反応が鈍いのだが…。

そして、十二時前。

会議は解散になった。


「では、皆さん。おやすみなさい」


「おやすみー!」


「おやすみなさい。土井君」


「おやすみなさい」


「…おやすみ」


僕は個室で、先輩方は四人部屋だ。

これから夜通し遊んだりするのだろうか。

部屋に戻った僕は大きな欠伸をして、もう寝ようかと考えた。


「あっ、その前に…」


僕は柊にメールを送った。

今、水坂先輩の別荘に来ていること。

万が一に僕が行方不明になったら水坂先輩を疑うようにしてほしいこと。

しばらくダラダラして過ごしたけど、柊から返事はなかった。


「…寝るか」


僕は電気を消して、ベッドに潜る。

いつもとは違うが、かなりの高級品らしく、すぐに眠れそうだ。

…。

僕の意識が暗闇に落ちようとした時。

僕の個室の扉がカチリ、と開いた。

あーあ、鍵を閉めるのを忘れた、そもそも鍵はあったっけ?

扉の側にいる水坂先輩を見て、僕はもう絶望するしかなかった。



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