第三章 生徒会文化祭準備合宿 1

土井君が、生徒会室から足早に帰った頃。

私達、他の役員もそろそろ出ようとしていた時だった。


「さて、土井君が帰ったところで少し、ゴールデンウィークの話をしようか!」


私がそろそろ土井君を追いかけて、捕まえようと考えていたところに、花奏さんが少し真面目なトーンで語りかける。

本当は今すぐにでも、土井君を捕まえて、保健室での複雑な感情をぶつけたい。


「どうしたんですか?学校ももうすぐ閉まりますし、早く出ないとダメですよ?」


私がそう言うと、花奏さんはこう言った。


「大事な話なんだ。…生徒会ゴールデンウィーク合宿について!」


「⁈」


が、合宿⁈

それってつまりは、土井君と一つ屋根の下で一緒に過ごせるという事では…!


「でもそれなら渡木会長。どうして土井君を先に帰らせたんですか?」


「…(こくこく)」


帰る支度をしながら、火ノ元さんが言った。

隣で金瀬さんも頷いている。


「彼の性格からして、恐らく前々から言っていれば、男は自分だけだからと言って断って逃げてしまう可能性が大いにある。だから、私はそれを潰しておきたい!」


「流石ですね。花奏さん」


流石生徒会長なだけあるなと、私は思った。

高すぎる知能でこの学校の前前年度の首席にまでなったぐらいだ。


「それで、場所とかを色々決めようかと思って…」


「お待ち下さい、提案があります。花奏さん」


私は花奏さんの言葉を遮るように言った。

花奏さんは興味馬鹿そうにこちらは言葉を投げかける。


「おお、言ってみろ!」


私は答える。


「それ、私の家で是非用意させて下さい。代金なども大丈夫です」


私はもの凄い喜びを胸中に秘めながら、笑顔で言った。

ああ、土井君。

どうして私を置いて行ってしまったの。

置いて行かれてしまった時、とても辛かったです。

けれど、それと同時に私には何か、ゾクゾクするような気分になってしまったの。

ねえ、教えて土井君。

この感情の名前を…。


・・・


「いやー、今日のは惜しかったな」


悔しそうに、柊は言う。


「本当だよ。なんであれを外してしまったのかが謎なんだよな」


「まあ、バスケだから身長じゃね?」


僕は標準よりもほんの少し小さいくらいなんだが。


「というから柊だって別に身長が高いわけじゃないだろ?俺と同じぐらいじゃない?」


「まあ、そうだな。目線も流星と話す時は上げたり下げたりしなくていいしな」


そう言って、柊は更衣室の奥に行こうとする。


「じゃあ、早く着替えろよ。腹減ったし早く食堂に行きたい」


「了解」


そう言って僕は自分の衣服が置いてある場所に行く。

まずは、汗拭きシートで汗を拭おう。


「ふう」


四月の終わりが近づいてきた今日この頃。

世間では、明日からゴールデンウィークで、やれ帰省するだの、やれ旅行に行くだの、やれ家で過ごすなどで様々だ。

僕はまあ、することもないしボチボチ遊んだり、ダラダラしたりして過ごすのだろう。

一応、何日か生徒会の仕事もあるし手持ち無沙汰にはならなさそうだ。


「そういや、柊。お前はゴールデンウィークはどうするんだ?」


大声で壁を挟んだ向こう側にいる柊に声をかける。

僕と柊は男子更衣室で体操服から制服に着替えていた。

新しく新設された男子更衣室はとても広くて綺麗だが、まだ僕と柊の二人しか男子が僕らのクラスにはいないので占領できている。

ならばこの部屋を広く使おうと、壁越しに着替えているのだが。


「せっかくだし、実家に帰ろっかなと思ってる。高校生になってから一回も会えてないからな」


大きな声がそうやって聞こえてきた。

別に隣同士で着替えたらいいと僕は思っているのだが、柊曰く、「貧弱な体を見せたくないし見たくもない」だそうだ。

誰が貧弱だ。

というか、柊は高校生になってすぐに一人暮らしを始めたそうな。


「…そういや、お前の地元ってどこなんだ?」


僕がそう聞くと、柊の声が返ってくる。


「宇宙!」


…柊はいつも通りだった。

どうやら、柊とゴールデンウィークのどこかで遊びに行くのは無理そうだった。


・・・


生徒会を終えて、僕は帰路につき、家へ帰る。

玄関に何か大きな荷物が置かれていたが、親がどこか出かけるのだろうか?

リビングで両親と談笑しながら夕食を食べて、福ちゃんと戯れた後、風呂に入って部屋に戻る。

部屋の自分のベッドに座り、疲れが溜まっていたのか眠気が凄い。

明日からゴールデンウィークだし、ゆっくりできるだろう。

渡木会長は「生徒会の活動日は明日連絡するからね土井君。明日は家でしっかり休んどくんだよ!家から逃げようなんて考えちゃ駄目だからね!」と言っていた。

何故僕が家から逃げねばならないのかと思った。


「……」


僕は柊のことを考えていた。

あの日の下野さんとの会話を思い出す。



『柊に気をつけるって、アイツに何かあるんですか?』


『ああ、今まで彼が学校を休んだ事が一度もないだろう?』


『ええ、そうですけど』


『私が毎朝、校門の近くで服装チェックなどをしているのを知っているだろう?特に、男子生徒は少ないからすぐ顔を覚えたんです』


『はあ…』


『けれど時々、彼を校門で見ない日があるんですよ。どこか別のところから侵入したりしているのではないかとも考えたましたが、その可能性は、ほぼ皆無でした』


『…』


『それを知って一体なんなのか、どうすればいいのかも一切私には見当もつきません。だから一言、気をつけろ、とだけ言わせてもらいます』



「はぁ…」


一度僕が捨てた可能性。

暁月柊は本物のエイリアンである可能性。

未だに僕は信じられないが、下野さんの話を聞く限り、その可能性が復活した。

だったら僕は、これからどうやって彼と付き合いをしていったらいいのだろうか。

一人の人間として付き合うのか、エイリアンとして付き合うのか。


「ん?」


扉が開いて、福ちゃんが入ってくる。

福ちゃんはベッドに座る僕の太ももに乗っかると、すっかり丸くなる。


「なあ、福ちゃんはどう思う?」


「にゃーん」


返事をするように福ちゃんは鳴いた。

本当に考えることが山ほどあって、大変だなと思う。

僕はしばらく福ちゃんを撫でた後、ベッドに横になった。


・・・


僕は階段を駆け上がってくる激しい音で目が覚めた。

何人ものの足音が一斉に上がってくるのがわかって、暗闇にあった意識が一気に覚醒する。

そして、僕の部屋の扉がもの凄い勢いで開けられた。


「ど、どちら様ですか⁈」


黒いスーツに黒い眼鏡。

まるでSPみたいな人達が大量に入ってくる。

そしてその人達についているトランシーバーから声が聞こえる。


『それでは皆さん。作業よろしくお願いしますね』


そこから聞こえてきたのは水坂先輩の声だった。

するとその指示を聞いたSPみたいな人達が一斉に僕に群がってくる。


「え、っちょ、待っ…!」


いつの間にか体が完全に拘束されてしまう。

そして、部屋から運ばれた。

…まずいまずいまずい!

これ、ひょっとしなくても水坂先輩の玩具にされちゃうよね!

そうだよね!

せめて何とかして、柊に連絡をしたかったがそれすらも叶わなかった。


「助けて!父さん母さん!」


僕は何故か服を脱がされて、無理矢理着替えさせられる。

なんなんだ、一体何が目的なんだ⁈

着替えさせられた僕がリビングから現れた両親を見ると、両親は笑顔で手を振っていた。

え、何、親まで買収されちゃったの?

僕が軽く絶望していると、ムキムキのおじさんにロープで巻き付けされられて、玄関を出る。

全然嬉しくないぜ。


「…こ、これは…⁈」


近所の人達が僕の家の周りに群がっていた。

無理もない。

僕の家の上の空からヘリコプターの大音量が聞こえるのだから。

そのヘリコプターから縄梯子が落ちてきて、そこから見慣れた顔が出てくる。

渡木会長だ。


「おはよう土井君!いい朝だね!早速、生徒会文化祭準備合宿に行こう!」


「そんなのの為に、こんな大掛かりなことしないで下さいよおおおおおお!」


僕が巻きついているおじさんは縄梯子を登っていく。

僕がただ、縄で巻き付けられていて、空に上がっていくのがもの凄く怖い。

ロープが少しでも緩んでいたら、僕死んじゃうんじゃないの?


「ひゃあああああ!助けて柊ー!」


僕は、助けを求めるばかりだった。

こうして、生徒会文化祭準備合宿が幕をあげたのだった。


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