第一章 桜と百合の咲き乱れるこの学校で 5

「おい流星。起きろ!」


「んあ…」


僕は誰かに起こされて、うっすらと目を開き目を擦ろうとする。

しかし、腰にある手が自由に動かず、意識がはっきりする。


「は!大丈夫か柊!ってここは?」


僕が目を覚ましたのは自分の教室ではなく、薄暗い部屋だった。

薄暗い中、柊は少し遠い場所で僕と同じく拘束されている。


「体育倉庫だ。あの場にいた女子に台車に乗せられて運ばれた」


「そうか…。で、あの人達は何者だ?」


こんな危険な事に手を染めているなんて、かなり危ない人かもしれない。


「奴らは恐らくこの学校で一番敵に回してはいけない存在だった…」


「なんだと…」


そして、柊は少し溜めて言う。


「彼女らは、演劇部親衛隊だ」


「演劇部親衛隊?」


何、そのいかにもな二次元設定。


「そのリーダーみたいな人から聞いたんだ。俺たちの態度と、そして存在が気にくわないらしい」


なんでぇ…。

存在が気にくわないってかなり傷付きますね…。

でも、今までの情報を合わせてみると…。


「…なるほど。存在が気にくわない理由がわかった。この学校は百合の楽園だ。その中に踏み込んできた僕たちが気にくわないんだろうな」


「ああ、勝手に自分達の惑星に入り込んでくる他惑星人みたいなものか」


お前、この中でよくその設定続けられるな。

まあ、今は突っ込んでいる暇もない。


「まあ、そんな感じなんだろう。この体育倉庫ってどこにあるんだっけ?」


「人気のない体育館の裏だな。助けは絶望的だろう」


………。


「…今何時ぐらい?」


「俺の体内時計では、そろそろ7時だ」


「…まずくね?」


「まずいな」


…。


「…お腹も空いてるし、トイレも行きたいし、ひょっとすると風邪をひいてしまうかも」


「…諦めようぜ!」


………。


「誰かあああああ!助けてえええええ!」


今日はなんて最悪な日だなのだろう。

水坂さんに襲われるし、演劇部親衛隊に監禁される。

僕が何したって言うんだ。

演劇部の態度が気に入らない理由なんてわからないし、ほんとどうしよう。

やっぱり、神はいなかったのだろうか。


「叫ぶのをやめろ。流石にお前の親が気づいたり、明日学校の先生が近くに来る可能性もある。叫んで体力と水分を無駄に消費するだけだ」


「柊はよく落ち着いていられるなぁ!そういえばお前エイリアンなんだろ⁈どうにかできないのか⁈」


「恐らく俺のパワーを使えばでなんとかなるだろうが、人間では完全に外せないようにしっかり拘束されている。もし使ったら、俺がエイリアンだってバレるだろ」


「俺の命と健康と社会的地位にかかってるんだよ!そこをなんとか頼むよ!」


「でもなー」


今確信した。

もうこいつはエイリアンじゃない。

絶対コイツはただの厨二病だ。


「くそう…。ひょっとして、生徒会室で水坂先輩に襲われるのが正解だったのか…?」


俺がそう弱音を漏らすと柊が食いついてくる。


「…なにそれ詳しく!」


あー、今解決策は見つからないし、こっちの解決策を柊と一緒に考えようかな。


「実はだな…」


僕が柊に話そうとするとザッ、と複数の足音が聞こえる。

僕と柊は体をビクッと震わせた。


「ここでまちがいないんだな?氷彗」


「…うん。…私が設置している監視カメラの動きを見ると…ここと判断できる」


「さてさて。はやく助けてあげよう!」


そして、体育倉庫の重たい扉がゆっくりと開かれる。

外から差し込む月の光がとても綺麗だった。

さっき僕を襲おうとした人も含めて、僕には四人が女神に見えた。


・・・


「「本当に、ありがとうございましたあああ!」」


僕と柊はそれはそれは見事な土下座で感謝を伝えた。

こんなに誠意のこもった土下座は生まれて初めてしたかもしれない。


「うんうん、感謝してくれよ後輩さんたち。この金瀬氷彗がいなくちゃ、君達を助けられなかったからね」


「「ありがとうございます!」」


「会長!そんな上から目線じゃ駄目ですよ!」


そう言って火ノ元さんは会長と呼ばれた幼女、渡木花奏さんに注意をする。

入学式の日に遠目で見たけれど、お人形のような可愛い金髪の幼女でとても無邪気な性格だ。

そして、後ろから水坂さんが前に出てきて、頭を下げる。

体に少しビクついてしまう。


「本当に御二方、申し訳ございません。生徒会の監督不届きです。謝っても謝りきれません」


水坂さんの行動に合わせて、火ノ元さんと金瀬さんも頭を下げる。

そして、生徒会長も。


「本当にすまなかった。こちらで証拠も押さえている。私が校長に掛け合って、しっかり彼女らを退学処分しよう」


退学かあ…。

それはなあ…。

僕は少し考えて、言った。


「顔をあげてください、皆さん。それで会長さん。その人達の退学処分命令を取り下げてあげて下さい」


「「「「⁈」」」」


僕は少し昔の事を思い出しながら言う。


「実は僕、中学の頃、とある事件で中学を転校させられそうになったんですよ。僕は、知らない人だったり、他人に話しかけるのが大好きなんですよ」


沈黙が僕の次の言葉を待つように流れる。


「それで、当時全く関係のない他のクラスの女子に話しかけにわざわざ行ったんですよ。そしたら、学校で大問題になって」


思い出すだけで、心が少し痛む。

僕は当時、こんな事になるとは思っていなかった。


「だから、きっと何かまた僕がその人たちの何かの引き金になったんですよ。だから、気にしなくていいです。最も、柊が許したらですけど」


僕は柊に顔を向ける。

柊は呆れたように言った。


「そんな話を聞いて、僕も許さない訳にはいかないだろ。いいですよ、僕も許します」


「で、でも」


火ノ元さんは心配するかのように言う。

その先を僕は言わせない。

僕は、誰かが悲しむのは嫌いだから。

僕の夢の一つに、世界の皆をハッピーにしたいという夢がある。

それのだった一歩だ。


「それに、男子が関わる事件がいきなり起きたら、生徒会の皆さんの計画も台無しになるんじゃないですか?」


「「「「⁈」」」」


「だから、彼女達にしっかり反省してもらって下さい」


僕は立ち上がった。

服は台車で運ばれた時に汚れたのだろうか。

客観的に見ると、少し情けない格好になっているだろう。

今日は月が明るかった。

もうすぐ終わる春を、散り始めた夜桜が確かにそれを知らせていた…。






「流石だ!流星君!生徒会長の名において君を生徒会に任命…」


「すいません!それだけは本当に時間をかけて、ゆっくり考えさせて下さい!」

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