第一章 桜と百合の咲き乱れるこの学校で 2
「えっと、ごめん。もう一度言って?」
僕が暁月にそう言葉を返すと、暁月は変わらぬトーンでもう一度言った。
「僕がその、宇宙人やエイリアンって奴なんだ」
僕は顎に手をつけて考える仕草をとる。
…なるほど。
どうやら柊は高レベルの厨二病らしい。
僕もまあ、過去に厨二病が出てしまうんだけど。
…なんだか面白そうだ。
一度、この話にのっかってみることにしよう。
「なるほど。じゃあ柊は何の為にこの星に来たんだ?」
バッチリな返しだ。
自分の設定にのってくれるのが嬉しいのは、厨二病なら誰でもわかる。
柊は真面目に答える。
「自分の星でも他の惑星でもなく、この地球の知性が高く、品があり、綺麗な人を嫁にもらう為だ」
「ふむ。何でじゃあ地球なの?その星だったり、地球以外の惑星が存在するなら、ここ以外の惑星でいいんじゃないのか?」
「そんなの決まっている」
暁月は自信満々に言った。
「地球の日本のオタク文化。Japaneseイラストに心を奪われてしまった」
「え?」
「考えてくれ。この地球に存在する数々の美女を!僕は完全に心を奪われてしまったね」
ああ、わかった。
僕は悟ってしまったよ。
「僕はJapaneseイラストのような容姿で、知性が高く、品性のある女性を娶りたいと思ったのだ」」
さっきと殆ど同じ言葉なのに、酷く違って聞こえる。
周りのクラスメイトの視線が痛い。
全員が女子だから、なおのこと痛い。
「その人と1番出逢いやすそうな条件を合わせもっていたのがこの学校だった。だから僕はこの学校に入学したよ」
…柊は、完全な現実の見えていないオタクであるのは間違いないだろうと。
けれども、ひょっとすると本物のエイリアンなのかもしれないと。
彼の言葉から察するに、そこら辺のレベル以上の完全な厨二病発言。
しかし、いくつもの人と話しているからよくわかる。
彼の言葉には嘘のような感じが僕には全くしないのだ。
万が一、彼が本当にエイリアンなら、僕の小さい時からの願いが叶う。
きっと僕は、人類史上初の宇宙人との友達になれるだろう。
けれど、それへの確信が足りない。
だから…僕は確かめなきゃいけない。
柊が本当にエイリアンなら…。
「なあ柊。お前が本当にエイリアンなら、今、俺に人間じゃできないことを見せてくれないか?」
そう僕が聞くと、柊は少し困ったような顔をした。
「ごめん。親にそれは止められているんだよ。実験台だったり、目立ちすぎるのは、まずいからね」
「そうか…」
超能力みたいなのを見れたら、確信が得られたが、無理だった。
やっぱり杞憂だったのだろうか。
僕は「エイリアンが存在しない」と断言しない。
なんなら僕は存在していると確信している。
でも柊は、ただの高レベルの厨二病なんだろうなと思う。
まあ、それはそれで面白いし、楽しくなりそうだ。
普通の人ならここで距離を置いて関わらないようにするだろう。
「なら、他に何か色々教えてくれよ」
「いいぞ」
「そうだなぁ。そういえばUFOはないの?」
大事な質問だ。
「UFOは僕の従者に送迎させているので地球に置きっぱなしなんてことはないよ。万が一見つかったら帰るのに苦労するし、僕らの存在がバレてしまうからね」
「従者ってことは、柊は身分が高いの?」
「一応、その星の1番賢い人の、いわゆる王子をしているよ」
「エイリアンが地球人から身を隠すのはなんで?」
「地球は良くも悪くも好奇心と征服心が強いからね。だから、争わないように身を隠している。それでも君に話したのは、君がそんな風に見えなかったからかな」
「そっか」
僕は確信した。
やっぱり柊はエイリアンではないのだろう。
それにしてもここまで突き通せる設定の力はすごいと思う。
ひょっとしたら柊は、漫画家やライトノベル作家に向いているんじゃないだろうか。
「だからこれからもよろしくな。流星」
「…わかった。よろしく頼むよ。柊」
その時チャイムがなった。
そういえば僕は首席だから、新入生代表の言葉を読まなければいけないのだった。
少し、緊張しているかもしれない。
・・・
『…ということで、これで新入生代表の言葉とさせていただきます。新入生代表。土井流星』
マイク越しの声が響き終わる。
体育館のステージにいる流星が頭を下げると、フロアから拍手が起こる。
今は入学式の真っ最中。
校長の長い話が終わり、今丁度、新入生代表の言葉が終わった。
「会長。スタンバイお願いします」
そんな中、舞台袖で生徒会副会長、水坂瑠泉は言葉で表すのなら、金髪の幼女に声をかけた。
会長、と呼ばれたその幼女は腕を小さな胸の前で組みながら、顔を振り返り返事をする。
「うむ!どうだった?新入生の様子は」
「聞いても意味ないですよ。例年通り…と、までは言いませんが、ほどほどですよ」
「そっかー。それで男子生徒。特にそこの彼はどうだった?今はまあ、緊張しているのがわかるけど」
彼女は顎で流星を指した。
彼は彼女らのいる反対の方向に退場していく。
「少し話してみましたが、そうですね…。今の時点では普通の子って感じでしたかね」
「そっか!でもまあ、今年入った男子生徒。特に土井流星はしっかり観察しておかないといけないね!この学校の今の有様ではね。やはり、部活動勧誘の時期が来れば、彼を誘うべきだろう!」
「ええ。そうですわね。私からもマーキングしておくようにお茶会に誘っておきました。後、声が大きいです」
水坂は頷いて、その後しっかり注意をした。
「流石副会長!そこで彼の本性なども見抜いておいて!ひょっとすると、生徒会に相応しくない存在である可能性もあるからね!」
「わかりました」
水坂がそう言った時、またマイク越しに声が聞こえる。
『次は在校生代表。生徒会会長。渡木花奏(わたりぎ かなで)』
「じゃあ、行ってくるよ!とりあえずはまず一仕事を終わらせないといけないからね!」
「はい。いってらっしゃい」
そう言って彼女、渡木花奏はステージを歩き出した。
水坂は思う。
いつも、これぐらいしっかりとしていてくれればなあ、と。
そして彼女は反対側のステージにいる流星の姿を見る。
流星は緊張が解けて、ようやくホッとしたようだった。
彼もこの数日でこの学校の異変に気づくだろう。
そして、その異変にどんなことに巻き込まれるか。
水坂は自分がしっかり守ってあげようと思うのでだった。
そして、個人的な興味も…。
「………フフフフフ」
・・・
「…はあ、…はあ、…はあ」
入学式から数日。
僕は走っていた。
廊下を走るなと怒られてしまいそうだが、こればっかりは逃げるように走るしかなかった。
校内の廊下の所々にある絵画を僕は夢中になって拝見していたのだが、その絵と、そして、周りの外の景色に僕は大変なことに気がついてしまったのだ。
このことを僕は柊に伝えなければならない。
このままだと、彼の野望は叶わない。
「あら。土井さん。廊下を走ってはいけませんよ」
「わあああ!」
廊下の曲がり角から現れた水坂さんに僕は驚いて足を止める。
僕は彼女の少し前に止まった。
「み、水坂さん」
「はい。覚えくれていて嬉しいです。駄目ですよ廊下を走っては。風紀委員に見つかったら、お説教ですからね」
「ああ、はい。すいません」
やっぱり優しいなこの先輩は。
けれど、さっき知ったことのせいでひょっとすると、この先輩もそうなんじゃないかと思ってなんだか複雑な気持ちになる。
「これからは気をつけてくださいね。そうだ、今日から部活動見学ですね。よければ生徒会に顔を出してください。美味しいお茶とお菓子をお出ししますね」
「ああ、ありがとうございます。是非顔を出させていただきますね。それでは自分急ぐので!」
僕は早歩きでその場を立ち去った。
「あらあら。…気づいたのねでしょうね、きっと」
後ろで、何か水坂さんが何か話したような気がしたが僕は聞き返す間もなく、自分のクラス。一年二組の教室に入って柊の側へ行く。
「…おい。柊。大変な事に気付いた」
僕は自分の椅子に座り、柊の方に向けて話をきりだした。
「今日はなんだ。流星の気づいた事は大体どうでもいい事だって最近わかってきたんだが?」
ここの学生食堂のナポリタンがめちゃくちゃ美味しい事や、職員室の時計が五分ずれている事は大事な事だろうと、もう一度力説したいが、今はこんなことをしている場合じゃない。
「今回はちゃんと聴け。柊の計画に関わってくる」
柊は少し面倒くさそうに耳を傾ける。
「なんだよ。そこまで言うなら言ってみろよ」
僕は出来るだけ周りに聞こえないように、けれどハッキリ伝わるように彼に告げた。
「この学校。百合だらけだぞ」
柊は首を傾げた。
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