第85話 死神降臨
降って来たのはエルニアだった。
俺の合図で待機していた外壁上から飛び降りて、瞬時に黒服達の命を刈り取ったのだ。
大鎌に付いた液体を振り払うと、時を計ったように死体の首元から鮮血が噴き上がった。
「……ふふふ……フフフ……」
俺の笑みに呼応するように、エルニアは俯き加減に体を揺らしている。
地に伏して赤い水溜りを作っていく黒服達を見て、観衆からどよりと驚愕の声が上がった。
ここ数年、街中でこれほど大人数の戦闘は無かったに等しい。
平和ボケしていたところへ、突如として大量の首なし死体を見せ付けられたのだ。その衝撃は絶大だろう。
ただしそれは、あくまで初めの内だけだ。
悪名高いアドベースの住民達は、驚きこそすれ、恐怖で逃げ出す事は無かった。
安全圏にいる連中は、すぐさま観戦気分に早変わり。
エルニアが身を起こす頃には周囲の惑いは掻き消え、あっという間に歓声が渦を巻いた。
「うおおおお!! 今の動き、見えたか!? 何者だあの姉ちゃん!!」
「さっきSSの人らと一緒にいるのを見たわよ!」
「また旦那が逸材を掘り出したって訳か!」
「初っ端で轍組にぶつけるたぁ、憎い演出しやがるぜ!」
どうやら事情通が混ざっていたらしい。良い具合に盛り上げてくれている。
「だがよ、あんな細いなりで全員相手にできんのかぁ?」
「あのヴェリスが公算もなしにけしかけるとは思えねぇ! オレぁ姉ちゃんに賭けるぜ!」
「乗った! じゃあこっちは組の連中だ!」
かと思えば一方では、早くも勝敗について賭けが始まり、沸きに沸いていた。
こんな掃き溜めにいる連中である。自分に関わりが無ければ、人死になどは娯楽程度にしか思っていないのだ。
しかし、奴らのお気楽さはすぐに吹き飛ぶ事になるだろうが。
「ヴァイスさん……ありがとうございます。本当に、ありがとうございます……」
大鎌の先を地に引きずりながら、エルニアが一歩二歩とゆらり踏み出した。
そして倒れた黒服の死体を蹴り上げると、下段から真っ二つに断ち割った。
「──うふふふ……あははははははははは!!」
哄笑を上げ、他の死骸も即座に肉片へと加工していく。
一段落して振り返ったエルニアの顔は、血と歓喜に
それを見た観衆がたちまち絶句する。
「本当に感激です……約束通り、こんなにたくさんの肉を用意して下さるなんて! これ全部! ぜぇ~んぶ!! 殺して、いいんですよね? 刻んで……いいんですよねぇぇっ!?」
真紅に染まった美貌に凄絶な笑みを湛え、エルニアは陶然と問うた。
後は、俺が与えるだけだ。
「ええ、どうぞ」
ギルドの名の元に、処刑許可を。
「存分に、蹂躙を」
俺が胸に手を当て大袈裟に一礼して見せると、エルニアの瞳に紅い揺らめきが灯る。
そして、死神の進撃が始まった。
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