第62話 加護
「面白いかどうかは保証できませんけど……」
エルニアは苦笑しつつ語り出す。
「襲撃した神殿にはいくつもの邪神像があったのですが、その内の一体に
エルニアの言葉に、アンバーががしゃりと鎧を鳴らした。
「……繋がっていた、と?」
アンバーの端的な問いに、エルニアは頷く。
「はい。儀式中に油断しているところを狙って攻勢に出たのが裏目となったようでして。私が蛮行を為している場面を、折悪く既に降臨を始めていた闇の神と思われる者に視られてしまったのです。儀式は中断させ、神像もすぐに破壊したので、それ以上の現出は阻止しましたが……」
「なんと……では貴殿の目に宿った赤き光、あれは邪神の加護だったのですな」
「成程な。それならあの異常な馬鹿力と再生力も納得が行く」
俺とアンバーが視線を交差させて言い合うところへ、フェーレスが口を挟んだ。
「あのさー。あんたらだけで納得しないで、
「お前な……これも冒険者としちゃ常識だぞ」
俺は溜め息をつきながらフェーレスを見やり、仕方なく応じる。
「加護ってのは、神が特に気に入った個人へ直に与える
「然り。エルニア殿の場合、儀式によって神像へ降臨していた邪神に見初められ、力の一端を授けられたという事でしょう」
俺の説明を補足しつつアンバーが首肯した。
神官が起こす奇跡は神の力を借りたその場限りのものが主だが、神自らが直接付与した加護は半永久的に持続する。
例えば、アンバーの頑強さが良い例だ。
元々頑丈な奴だが、戦神の加護を受けた事で更に強度が増し、物理的な攻撃に関してはほぼ無敵を誇る硬さに仕上がったのだ。
「って事は何? 邪教徒を狩りに行った聖堂騎士様が、よりにもよって邪教徒になっちゃったの? あっははは! 何よそれ、マジウケる!」
「ち、違います! あくまで私は光の信徒! 邪神などに魂を売ったつもりはありません!」
腹を抱えて笑い出すフェーレスへ、エルニアは慌てたように弁解した。
神が加護を与える相手は、必ずしも自分の信徒であるとは限らない。
何かの拍子でたまたま目に付いた
効果は神の匙加減次第。拒否する事もまず不可能という、場合によっては呪いとも取れる厄介な代物だ。
ただし、当人の資質からあまりにもかけ離れた加護を授ける事は稀である。
エルニアの場合は驚異的な戦闘力の向上。
筋力と治癒力の強化、暗視、士気高揚による魔術耐性といった辺りか。
明らかに殺戮、蹂躙に特化した加護と見た。
つまりそれは……
「お前がどう言おうが勝手だが、邪神の下僕の素養はばっちりあるってこった」
「そんなぁ……」
俺がばっさり言い捨てると、エルニアは青い瞳を潤ませた。
「もしかするとお前、その件が初犯じゃねぇな?」
そう俺が尋ねると、びくりと肩を震わせるエルニア。
「……はい。それ以前の任務でも、投降しようとした者達を皆殺しにしてしまって、厳重注意を受けていました」
エルニアは消沈した面持ちのままでそう答えた。
聖堂騎士団の邪教徒討伐任務は、何も片っ端から殲滅するだけが全てではない。
過ちを認めた者には道を指し示し、改心の機会を与える。
具体的に言えば、改宗をさせて信者を増やす事も目的に含まれている。
それを放棄して全て殺害してしまっていては、光神の使徒など聞いて呆れるというものだ。
「ふん。整理するぞ。最後通告を受けていた癖に結局大虐殺をやらかしたところへ、闇の神に加護を押し付けられた。それで完全に理性が飛んだお前は、咎めようとした同僚を全て斬り捨てた。我に返っても後の祭り。教会に戻っても弁解の余地なく死罪だ。それで逃走して今に至った。そんなところか?」
「概ねその通りです……」
エルニアは顔を上げずに肯定する。
「ふっ……くっくっく……」
それを聞き届け、俺は思わず薄く笑みを漏らした。
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