第28話 喝采

「……て……てめぇ、一体何もんだ!! ただのガキじゃねぇな!?」


 いち早く反応を見せたのは頭目だった。

 大きく目を見張って俺を凝視する。


「ええ。ですよ」


 思った以上の身体の切れに気を良くした俺は、頭目に向けた笑顔を更に緩ませた。


 身体が縮もうと、長年培った技術は己が身に刻み込まれていると確信できたのだ。これ以上無い収穫である。


「良い準備運動になりました。まだ誰かお相手してくれるんですか?」


 意気揚々と俺が足を踏み出すと、頭目は慌てた様子でミオを抱き寄せ、その首へ腕を絡ませた。


「きゃあ!」

「う、動くんじゃねぇ!! この娘ぶっ殺すぞ!」


 悲鳴をあげるミオに、腰から抜いた短剣を突き付ける。


「人質のつもりですか……」


 俺はため息を付きながら足を止めた。


 全く……どこまでもお約束に忠実な奴らだ。


 お陰で実に


「よーし、そのまま動くなよ! おい、お前らやっちまえ──」

「──聞き捨てなりませんな」


 ぐちゃり。


 頭目の手が、横合いから現れたアンバーによって短剣ごと握り潰された。


 俺が注目を集めている間に回り込んでいたのだ。


「ぎ──ぎゃああああああああああ!?」


 アンバーによって片手で吊り上げられ、大絶叫をあげる頭目。その間にも手首がべきべきと音を立て、あり得ない方向へ折れ曲がって行く。


「ささ、ミオ殿。今のうちに奥へ」

「あ、ありがとうアンバーさん!」


 ミオを逃がしたアンバーは、頭目の折れた手首を更にぎりぎりと締め付けながら静かに怒気を発した。


「女子供を盾に取るなど、戦士にあるまじき所業。拙僧の前でそのような愚行がまかり通ると思わぬように」

「ぐぎゃあああああ!! う、腕! 俺の腕ぇぇぇぇ!! うぉあああああいたいたいたいたい!!」

「お、お頭!?」

「てめぇ、お頭を離しやがれ!!」


 苦痛に泣き喚く頭目を助けようと、背後にいた手下達が一斉に武器を取りアンバーへと殺到する。


 アンバーの怪力を見ても向かって行く度胸だけは褒めても良い。しかしそれはただの蛮勇だ。


 さっさと尻尾を巻いて逃げるか、俺に倒されていればまだ五体満足で済んだものを。わざわざアンバーの逆鱗に触れるとは。


「……ご愁傷様」


 これから起こるだろう惨劇を想い、俺は思わず小さく呟いていた。


 果たしてその直後、アンバーは頭目を雑巾でも扱うように振り回すと、群がる手下達を乱雑に薙ぎ払って行く。


 アンバーの腕が振るわれる度、ぐしゃりばきりと肉が弾け、骨が砕ける音と共に、賊どもの悲鳴が響き渡る。


 結局賊どもが逃げに転じる隙も与えず、数秒もしないうちに全員を血の海に沈めてしまった。


 皆辛うじて息はあるようだが、身動きも取れずに呻くだけの有様だ。


 武器代わりにされた頭目は、折れた骨があちこちから皮膚を貫き露出しており、あまりの激痛からか泡を吹いて失神していた。


 まあ、死者が出ていないだけアンバーにしては手加減した方だろう。


斯様かような腕前で冒険者を名乗ろうなどと笑止千万。これは神罰と心得られよ」


 そう言い放ったアンバーは、続けて落ち葉でも拾うようにひょいひょいと賊どもを回収し、店の隅にまとめて積んでいく。


 仕上げに俺がそれらへ向けて絞首刑の木ギャロットツリーの蔓を投げ付け、全員まとめて縛り上げてやった。


 後は定時巡回に来るギルドの警備隊へ引き渡せば万事解決だ。


「ね? 人の忠告は聞くものですよ」


 聞こえているかは不明だが、俺はそう言い置いて店の奥へと向き直る。


 すると、


「「おおおおおおおおおお!!」」


 静まっていた観客達から大歓声が沸き上がり、同時にミオが勢いよく首へと抱きついてきた。


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