第26話 珍客
口をもぐもぐと動かしながら入り口を見やると、どやどやと大人数の男達が入ってくる所だった。
10人は超えているだろうか。あんな大所帯で組む冒険者など滅多にいないが、かと言って堅気には到底見えない。
全員ぼろ切れのような服に統一感の無い粗末な防具を付け、それぞれ短剣や鉈、手斧などの得物を吊るしている。
その薄汚い恰好は、いかにも盗賊ですと宣伝しているようなものだ。
「いらっしゃいませ~!」
すぐさまミオが対応に向かい、頭目らしき男と一言二言交わしたかと思うと、不意に話していた男が声を張り上げた。
「──なんだとこらぁっ! もういっぺん言ってみろ!!」
「で、ですから、今は満席なので、空くまで待って下さいねって」
ミオは一度は怯むものの、生来の気の強さをもって踏み
「ああん!? こっちは長旅を終えたばっかで、わざわざこの店を選んで入ってやったんだぞ!? それで席に着かせねぇたぁ、一体どういう了見だ、おい!!」
しかしその言葉をまともに理解できなかったらしく、男は尚も喚き散らした。
それにしても、なんというお決まりの文句なのか。
どうやら中身までも模範的なならず者らしい。
大方どこぞで暴れて指名手配され、衛兵に追い込まれてこの地に来たのだろう。
純粋に冒険者を目指してアドベースに来た者は「お
「どういうも何も、見た通り満席なんですってば! もう! 騒ぐなら他のお店に行って貰えませんか? 他のお客さんの迷惑になります!」
負けじとミオが見事な啖呵を切って見せると、周囲の酔客から一斉に拍手があがる。
「いよっ! ミオちゃん今日も威勢が良いねぇ!」
「ヒュー、カッコイイ~!」
「きゃ~抱いて~!!」
久々の見世物とばかりに様々な野次が飛ぶ。
「あーもーうるさいなー! 黙って飲んでなさいっての!!」
「「ぎゃはははは!!」」
ミオは客席を振り返り一喝するも、それにすら爆笑が沸き起こる。全く性質の悪い酔いどれどもだ。
まあ、俺も元の姿なら混ざっていたとは思うが。
「てめぇコラァッ!! こっちを無視してんじゃねぇよ! 全員グルになって馬鹿にしてやがるのか!?」
激高した男はミオの肩を掴んで無理矢理前を向かせると、その胸倉を掴み上げた。
その瞬間、笑い声はたちまち途絶え、明るい活気に満ちていた店内を静寂と殺気が満たしていった。
それに気付かず男はミオへと怒鳴りつける。
「50人以上をぶっ殺して来たこのワギール一家を知らねぇらしいな! アドベースもとんだ田舎じゃねぇか!!」
「ハハハ! 違ぇねぇ!」
「そうそう! お頭、もっと言ってやれ!」
「俺達を舐めるんじゃねぇってんだ!」
後ろの連中も混ざって何やら得意気に言っているが、内容は失笑ものである。
「……へっ、たかが50人くれぇで粋がってやがる」
「ああ、どうせ無抵抗な奴ばかり狙ってるだろうに。笑うしかねぇな」
もじゃ禿げコンビも呆れている。
今この場にいる冒険者は皆、傭兵としても大なり小なりの戦場を駆けて生還を果たした猛者達だ。殺した人数は100や200では留まらない。
徒党を組んで50人程度では、まだルーキーとも呼べないひよっこだ。
このまま放っておいても他の連中が片付けそうだが、下らない口上に自己陶酔したのか、満面の笑みでミオを吊るし上げている男の
奴らが怒りに任せて乱闘を始めれば、ミオや店が無事には済むまい。
何よりここは俺にとっても憩いの場だ。屑どもにでかい顔をされるのは我慢がならない。
そう思い至った時には、俺は既に席を立ち、入口へと歩みを進めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます