第19話 よくわかる錬金術講座 初級編2
その後も三人は
未知の物質に対してそれぞれがああだこうだと言い合っていた時、ふとフェーレスが話の舵を切った。
「……んー、そう言えばさ。魔術とか奇跡とかで、若返りだか不老不死だかってできないのよね?」
「出来なくもありませんが……リッチやヴァンパイアに成るような邪道な法ばかりですわね。少なくとも人の身のままで、というのは聞いた事がありませんわ」
「左様。そもそもが神の定めし寿命に背く行為ですからな。そのような祈りは届く道理がありませぬ」
お手上げとばかりにセレネとアンバーが揃って肩を竦める。
「思ったんだけどさ。もしヴェリスが元に戻る方法が見付かったら、それって同時に若返りの仕組みも解かるって寸法じゃない?」
フェーレスの言は、まさにレイシャが語っていた通りの事だ。
もしも人を若返らせる薬が実在するとして、その製法が判明すれば、成分を調節する事で自在に年齢を操れる可能性はある。
そしてそんな事が出来たのならば、最早それが賢者の石と呼べる代物だろう。
「上手くしたらあたしら、不老不死になれるかも知れないじゃん! ソレってやばくない?」
フェーレスの声に弾みがついたが、対してセレネの反応は薄い。
「興味ありませんわー。私には、人間のような寿命がありませんもの」
魔族の多くが人間より遥かに長寿だが、彼女らサキュバスはその中でも更に特殊だ。個体差はあるが、異性を誘惑するに足る年齢まで成長すると、以降老化が止まる。
精気を吸い続ける限り滅ぶ事はなく、魔力が尽きるか物理的に殺された時が寿命となるのだ。
「拙僧も右に同じくですな。先程も申しましたが、定命なるは神の
「はーいはい、どうせ私は俗物ですよ~」
アンバーにもつれなく言われ、フェーレスがむくれている。しかし気を取り直し、新たな切り口で攻め込んだ。
「でもさー、別の方向で考えてみ? あんたらのお気に入りのヴェリス様が、元の姿に戻った上で不老不死になったとしたらって」
その一言に、電流でも走ったようにセレネとアンバーの身がびくりと震える。
「……あの究極の美が永遠の物に……?」
「……勇者殿の軌跡が無限に紡がれる……?」
即座に三人の視線が交差し、それぞれの手を差し出して重ねると円陣を組んだ。
「絶対に賢者の石を手に入れるぞ~!!」
「「おお~!!」」
何やら我欲に満ちた妙な会が発足したようだが、やる気を出してくれたのは喜ばしい。
冒険中もあれくらい連携してくれれば尚良いのだが。
3人の雄叫びを横目に、俺は次の作業を開始しようとした。
が。
「……うお、こんなに重かったかこれ」
金庫からある物を取り出そうとするも、あまりの重さに持ち上げる事が出来ない。
以前なら片手で扱える程度だったのだが、力の差をまざまざと思い知らされる。
やっとの思いで絹の袋に包まれた品物の一部を金庫の
「おいアンバー。盛り上がってるとこ悪いが、ちょっと手を貸せ」
「はっ、何用でしょうか」
「こいつを引っ張り出してくれ。意外に重いからゆっくりな」
「承知」
俺が指した袋の結び目を握り締め、アンバーは慎重に金庫から引き上げていく。
徐々に丸みを帯びた大きな物体が姿を晒す。
「よし。そのまま下を支えて、傾けないようにそっちの床に置け」
アンバーが言われるままにそれを床へ降ろすと尋ねてくる。
「勇者殿、これは一体?」
「まあ待て。今見せてやる」
俺は目で制しながら、袋の口を縛っていた紐をしゅるりと解いた。
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