殺害

 自分で言うのもなんだが、俺は善良な子供だった。

 世界にはどうして人を傷つける人がいるのか?

 どうしてみんな仲良く暮らせないのか?

 そんなことを考えていた。

 俺の家はその近辺では裕福な方で、生きるのに何不自由しなかった。

 家族にも、友達にも恵まれて……。

 平和しか知らず、それがすべてと思い込んでいた。


 しかし、それも終わりが来る。

 15年前。俺が11歳のとき、それまでの世界が一変した。

 突然、周りの人間が俺を疎外し始めたのだ。

 その理由は、俺が童顔だったからだ。

 子供が童顔と言うのもおかしな話だが、俺は異端児と噂されるほどに、極端に発達が遅かった。

 11歳のこのとき、外見的には5、6歳と変わりはなかった。

 26歳の今でも、10代前半に見える。

 突然と言ったが、実際は突然ではなかったのだろう。

 俺が気付いてないだけで、周りの人間は、徐々に俺を気味が悪いと思っていたはずだ。

 笑い合いながらも、心は最初から離れていたんだろう。

 ただ、15年前のこのときに、みんなのがまんが限界に達したという、それだけの話だ。

 あるいは、かわいさが気持ち悪さに転じたということ。


 疎外と言っても、それほど露骨なものではない。

 これまで一緒に遊んでくれた友達が、離れて行っただけ。

 声をかけられることはなくなったが、声をかけてまるっきり無視されるということはない。

 しかし、子供にとってはその変化は非常に大きいものだ。

 当然、俺は奴らを憎んだ。害意を抱いた。

 けれど、まだ俺のがまんは続いていた。


 12年前。疎外が始まってから3年後。再び世界が変化した。

 ある日、村に大勢の人間がやってきた。

 何でもかなりのお偉いさんで、この国の軍事のすべてを握っている奴らしい。

 そいつがどこの誰かと言うことは俺にとっては些細なことで、肝要なのは、そいつの要件だった。

 徴兵をしにきたのだと言う。

 誰も逆らえるはずなく、村の12歳以上の男はみんな連れて行かれた。

 俺を除いて……。俺はどう見ても、12歳以上に見えなかったから。


 そこからの展開は容易に想像できるだろう。

 疎外は迫害に変わった。

 村の人間には、童顔を利用して戦いから逃げた腰抜けとして。

 母親からは、家族の恥さらしとして。

 痛めつけられた。自分の息子を連れて行かれた母親からは特に執拗に。

 当然、俺は奴らを憎んだ。敵意を抱いた。

 けれど、まだ俺のがまんは続いていた。


 しばらくして、村に妙な宗教が広まり始めた。

 神羅教という名の宗教だ。

 教義は不明だが、とにかく信者たちは、

 『記憶を抜かれたかのように嫌なことを忘れ』

 『年齢が奪われたかのように若さを取り戻す』

 明らかに胡散臭いが、それはどんどん広まっていった。


 ある日、いつものように迫害を受けていた俺に、誰かがこう言った。


「あんたには一生必要ないでしょうね。若くなる秘法など」


 俺はそれを聞いて、その宗教を散々口汚く罵った。

 その結果、疎外から迫害に変わっていた俺の世界は、殺害に変わろうとしていた。

 もはや取り返しのつかないところまで、その宗教は広まっていたのだ。

 俺は身の危険を感じ、村から逃げ出した。

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