黙秘
あれから一週間が過ぎ、未だに師匠にあのことを話せてはいませんでした。
自分がこれほど臆病だとは、セリヌンティウスがこれほど勇気のあるものだとは全く思っていませんでした。
まあそんな中、いつものごとく弓矢を蔵から持ってくることになり、それを先輩との試合で決めることになりました。
先輩が弓矢を取ってきている間に、師匠にあのことを言おうと決め、試合に臨むことに。
試合結果は当然ながら、私の勝利となり、先輩は弓矢を取ってくることになりました。
私の本当の戦いはこれからだと意気込んでいると、師匠が去って行く先輩に話しかけます。
「そうだ。ちょっと待て、龍水。蔵の中央に、しめ縄で囲われた桐箱が置いてあると思うが、
いいか、あの箱は絶対に開けるなよ」
私はぎくりとし、心臓の鼓動が早鐘のように脈打ち始めました。
桐箱……やはり、花鳥の言うように師匠はあれと何か関係があることが、分かったからです。
それが分かると、ますます言いにくい状況となってしまいました。
いや、それでもここで戸惑うのは、身勝手な気持ちでしかありません。
私は勇気を振り絞り、今度こそ師匠へ話そうとした、そのとき!!
突然、蔵の方からものすごい光が放たれました。
私にも見覚えがある光。すぐに何があったのかを察知しました。
「あのバカが! 開けるなって言っただろ!!」
師匠はそう言うと、すぐに蔵の方へと走り出しました。
その後、師匠から先輩への説教が始まり、それをすべて自分に向けられたものとして聞きつつ、ことのついでに先輩を非難しました。
そして、球についての説明が始まる段になって、私は屋根裏へ行き、話を盗み聞きしました。
5体の神。神の力が宿った球。世界の創造。
『神々の邂逅』のときもその力を使っていた。
封印していた場所の力が弱まったのは、私が一度封印を解いてしまったからか。
あるいは、花鳥のせいなのか分かりませんが。
話を聞くにつけ、私はいくつかのことに思い至りました。
1つ目は、前回は飛び散らなかった球が、今回は飛び散った理由。
おそらく、先輩の後ろに花鳥がいたんでしょう。
そして、桐箱が開いた瞬間に球を回収した。
先輩の視覚的には、飛び出していったように見えたんでしょう。
花鳥はそのうちの1つを、気付かれぬように、背後から先輩の体内に取り込ませた。
あの男は球を自在に手元に寄せたりしていましたし、このくらいのことはできるはずです。
2つ目は、師匠の話に嘘があること。
戦争を終わらせるために封印を解いたこと。
以前は世界の創造をせずに封印したこと。
この2つは嘘である可能性が高いと思いました。
師範が道場を出て行った理由は、このことに必ず関係しているはず。
それなら、なんらかの不手際、不始末があった見るべきで、封印を解いたこと、あるいは、世界を創りかえたことのどちらかで、それが生じたと考えられます。
ここまで考えてから、私は再び部屋に戻りました。
神の力で何ができるか?
最も重大な質問の答えを、直接に問い
私は
「なんとも思慮浅い質問ですね。新しいおもちゃを買ってもらい、喜んでいる子供のようですよ」
「力を手にしたら、その力について知っておく必要があるだろ? 大いなる力には、大いなる責任が伴うんだぜ」
「分かっていませんね。これだから先輩はだめなんですよ。大いなる力なら、それについて知らない方がいいんですよ。知らなければ力を使わない。つまり、持っていないのと同じになるんですから」
「しかし無意識のうちに使ってしまって、力が暴走したらどうするんだよ。戦争で使えるってことは、周りに甚大な被害を及ぼす力かもしれねーだろ?」
そんな力であっては困ると、私は思いました。
私が発端である以上、思わず憎まれ口を言うことになりました。
「そのような力だったら、師匠が言わないわけがないでしょう。少しは頭を破裂させてください」
「死んじまうだろうが!! 大体、少し破裂ってどうやるんだよ!?」
「いいかげんにしろお前ら」
ここでようやく師匠のストップがかかります。
「お前たち2人の言っていることはある意味で正しく、ある意味で間違っている」
「どういう意味ですか? 師匠はしゃべり方がまどどっこしいんですよ」
「先輩はしゃべり方というか、日本語がおかしいですけどね」
私が突っ込んだ後、師匠が苛立つようにした言いました。
「とにかく、神の力は龍水の言うように、使い方によっては周りに甚大な被害を及ぼすものだ。そして尚草の言うように、その力は知っていないと使えない。決して無意識下で発動しないものだ。だが、この力について、龍水は知っておく必要がある」
「どうしてですか?」「どうしてですか?」
先輩とハモってしまった。とても気持ち悪い。
師匠は先輩の方を向いて言いました。
「理由は3つある。
1つ目の理由は、その力を狙ってくる奴から身を守るためだ。『神々の邂逅』を経験してる奴なら、お前を、お前の神の力を利用しようとするだろうからな。
2つ目の理由は、同族との戦闘で必要になるからだ。お前の同族、球と同化している人間の中で、この力を封印することを拒絶する奴もいるかもしれない。そして、そいつを力ずくで説得する必要もあるだろう。そのとき力を使えないと、戦えないからな。
最後に3つ目の理由は、お前が本当に球と同化したのかを確かめるためだ」
「あれ? でもさっき、俺と球が同化しているって言ってたじゃないですか?」
「おそらくだ。確定ではない」
いや、花鳥は師範の弟……つまり先輩の話をしていました。
だから、先輩に力があるのは間違いありません。
ただ、そんなことを確信していると気取られるわけにもいかず、いつものように毒舌を重ねます。
「先輩の頭がどうかしているのは間違いないですけどね」
「うまいこと言ってんじゃねえよ!!」
我ながら、うまいこと言ってしまった。
まあ、先ほどから屋根裏で考えていたネタだったので、凝っているのは当然なんですが。
「いいか、話を続けるぞ。尚草、悪いが席をはずしてくれ」
「分かりました」
私は言われた通りに退席し、今後のことについて考えました。
先輩はこの後、同族を探すための旅に出る。
それならば、ここで名乗っておいた方がいいはず……ですが。
結局、私はこの力について先輩には明かさないことにしました。
それは、いったんこの力を使おうとしたら、私はとんでもないことをしてしまう気がしたから。
私がこの一週間、師匠にあのことを話せずにいた本当の理由。
それは夢のせいでした。真っ黒な法衣を来た僧の夢。
彼が自分の思い通りの世界を創ろうとする夢。
その夢が頭から離せず、私は師匠へ話せなかったのです。
あれがただの夢でないことを、私は今日確信してしまいました。
気を抜けば、その思いに毒されてしまうかもしれない。
だから、この力を使うのは本当に必要になったときにしようと、そう決めました。
私から先輩へ向ける言葉は、1つで十分でしょう。
たった1つのお礼の言葉だけで……。
◆
その日の午後、旅支度をする先輩のところへ私は行き、言いました。
「先輩。少しいいですか?」
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