火生
妹を探すため、10年間たった1人で旅をしてきた。
ひたすら、妹について聞いて回った。
頼りないかすかな記憶を頼りにして、妹を探した。
覚えているのは、顔と名前と2つの約束。
『うんと強くなる』
『髪止めを返す』
これだけが生きる目的だった。
国中を巡り、妹の手掛かりを探す。
この日は、火菜と似た少女がいるという話を聞き、その村へと向かっていた。
そのとき、唐突にその男は現れた。
白い……男だった。両手に奇怪な武器を持っていた。
「久しぶりですね。画竜 天睛さん」
「誰だ?」
「はい?」
「お前は誰だ?」
「おやおや覚えてないですか? 無理もありませんか。10年も前のことですから」
どうやらその男は、以前会ったことのある男のようだったが、全く覚えはなかった。
「10年。私にとっては100分の1に過ぎませんが、あなたにとっては実に半分以上の歳月ですからね」
「何の用だ?」
「大した用などありません。ただ、あなたが無駄な時間を過ごしているのが、私としては耐えられないんですよ」
「無駄……だと?」
「ええ。10年も妹さんを探し続けるなんて、無駄でなければ無能で無謀ですよ。もうあきらめたらどうですか?」
「いらん世話だ」
男の脇を通り抜け、先を急ごうとする。
男の姿が視界から消えた途端、背中にかつて味わったことのない感覚が襲う!
あわてて、男の方に振り返るが、男に異変はない。
そして、触ってみる限り背にも異常はなかった。
「何をした?」
「あなたは前の同族とはまったく関係がないんですが、火に愛されていましたからね。これがお似合いではないかと」
「何をした?」
「火を操れるようにしたんですよ。あなたにとって思い出深い火をね」
「…………」
何も言わぬまま、男に向けて拳を突き出した。
だが、男はあざ笑うかのように、すべての攻撃をかわす。
男の口を封じる目的で攻撃を仕掛けたが、それはまるっきりの逆効果だった。
「あなたが妹さんを探しているのは、妹さんの存在がないと自己を同定できないからでしょう? 他者の保証がないと、自分が何者か分からなくなるから」
「…………黙れ」
男は黙らない。
「私が教えてあげますよ。あなたは空っぽの人間です。誰でもない天涯孤独」
「違う。『俺』は火菜の兄……」
「としてのあなたは、もう死んでいるんですよ」
男の断定的な口調に違和感を覚え、拳を止める。
しかしまだ、構えは解かない。
「知っているのか?」
「あなたの妹さんのことですか? 知りませんよ。ただ、合縁奇縁と言いますからね。会ったこともないとは言えません」
あくまではぐらかすかおちょくる様子の男に、戦意をすっかり失った。
拳を下ろし、完璧に構えを解く。
そして、再度振り返って先に進んだ。
男は追ってこなかった。
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