王子
あれから1週間。
儂は金属を操るというこの特異な力を、100%扱えるようになった。
専用の武器として、傘を模した武器を作らせ、さらにはこの城の壁や床全面に金属板を張り付けるという計画も実行中じゃ。
城の防備のためと家臣共には言っておるが、実際は儂が城から逃げるときに役立ちそうだからじゃ。
家臣共は、儂がようやく城主らしいことを指示したということで、大喜びで手伝ってくれとる。
じゃが、今の段階では、まだ最上階の通路の壁のみだけで、あまりはかどってはおらんかった。
とは言え、それほど急ぐことでもないし、ゆるりとやろうかの。
暴れ回った後、気絶から目覚めた儂は、家臣共にあの騒動は自分のせいじゃと告白した。
これで、家臣共は儂を叱ってくれるのではないかと、儂は期待したのじゃが、結果は
「あれくらいなんともありません。それより、剛剣様に怪我がなくて何よりです」
と言うのみ。
以後気を付けろもなければ、少しは大人しくしてくれもなかった。
このとき、儂は家臣たちにほとほと愛想が尽きた。
いよいよ、本当にこの城を出て行こうかと、そう決心したのじゃ。
王子様を待つのも疲れたし、早い話、姫が自らの力で脱出すればいいだけじゃ。
この日もいつものように、最上階の自室でのんべんだらりと過ごしておった。
普通の城主とは違い、儂は自分の近くに誰も近づかせておらず、同じ階にすら誰1人おらん。
この城を出て、それからどうしようかと考えて、最近夢によく出て、やたら気になり始めた母上の行方を探してみても面白いかもしれんと、そう思った。
少し前まではどうでもよかったのに、1週間前のあの日を境に母上に無性に会いたくなってきた。
となると、手掛かりは『神々の邂逅』。
そういえば、
そこまで考えたとき
「剛剣様!」
家臣の1人が血相を変えて飛び込んできた。
「何じゃ、いきなり? 断ってから入れ」
「申し訳ありません。しかし、性急の知らせだったもので」
やれやれと首を鳴らしながら、儂は立ち上がった。
「それで何じゃ?」
「侵入者です」
「侵入者?」
この辺りは平和ボケと言われるほどに治安が良い。(ちなみにそれは母上の手柄じゃ。母上の代では相当に荒れておったらしい)
だからこそ儂でも城主が務まっておったわけじゃし、城の警備自体が強固とは言えぬかもしれん。
侵入者自体、儂の代で初めてじゃ。その事実だけでも十分驚きに値する。
あれ? この説明、前にも言った気がするぞ?
しかし、初めての侵入者である以上、このセリフを前に言う機会なんぞあるわけないし、ただの気のせいか。
「侵入者とは、数は何人で、目的は何のなのじゃ?」
「数1人以上、目的は不明です。しかし、この部屋に近づいているようです」
「どういうことじゃ?」
「それが、城のものが次々に気絶させられていて、それが徐々に上へと続いています。男を1人発見したので、それを追いかけているのですが、他に仲間がいる可能性も」
「気絶させられたのは何人じゃ?」
「それが、城の警備に当たっているものほぼ全員がやられています」
「分かった。この階で、儂が侵入者を迎え撃つ。お主らはそやつをこの階に誘き出したら下がってよい」
「しかし、それでは剛剣様が……」
「いいから、下がれ」
儂は力ずくでその家臣を追い出した。
侵入者。家臣共が襲われておる……か。
やれやれ。本当にやれやれじゃ。
確かに家臣共には嫌気がさしておったし、愛想をつかしておった。
ロボットみたいに儂の言うことを聞いて、それでも城の習わしだけは守らせようとして。
毎日毎日、飽きもせず結婚話を持ち込んで。
今では、城から出たいとも思っておる。
じゃが、これまで儂を育てて、守ってくれたことは確かじゃ。
父上も、母上もおらんかった儂の……大切な家族じゃ。
望んでいた厳愛はくれなんだが、慈愛はたっぷりと注いでくれた。
それを痛めつけられて黙っておられるほど、儂は優しい性格ではない。
儂は笠をかぶり、傘っぽい武器を持って、部屋を出た。
しばらく待って、目の前から侍風の男が1人歩いてきた。
腰にやたらと大量の竹筒をぶら下げて、なにやら壁を見てにやけておる。
その姿から、儂はこの男に悪意はないと感じた。
なぜか、侵入者とは無関係なように思えたのじゃ。
さてはこの男、儂に求婚しにきたとか、そういう類の輩じゃな。
いつまでたっても嫁ごうとせん儂に業を煮やして、家臣共が一計を案じたというわけか。
それなら、この男を通すのに、儂の意見を聞かんかったことも筋が通る。
つまりは、即席の見合い。前にも幾度か似たようなこともあったしの。
それなら話が早い。お帰り願うとしよう。
何かこれも前に言った気がするの。
コピペのにおいがぷんぷんするのじゃが……。
とにかく、今はこんな男に構っている暇はない。
儂は男がこちらに気付いたのを見て、言った。
「お主、この城に何か用か?」
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