57.誕生日計画


8月1日


美麗が今日という日を、最高の誕生日にしてくれた。こんなに嬉しくて楽しくて、幸せな誕生日は初めてだ。

美麗にも同じ思いを感じて欲しい。

だから俺も、今日から美麗の誕生日の計画を練ろうと思う。


美麗はパンダが好きだから、まずパンダがいる動物園は外せない。動物園のピックアップから始めよう。


それと‥‥‥キスをするのに絶好のスポットを探す。これも外せない。

あれは、何と言うか、凄かった。

暫く美麗の顔見れないかもしれない。



8月9日


美麗の水着は最高でした。


って、そうじゃない。

いや、間違ってはいないんだが。

宇佐美から届いた美麗の水着写真は秒で保存した。うん、フォルダ分けしておこう。


とにかく、美麗は色だと青と緑が好きらしい。

プレゼントの参考にしようと思う。



8月30日


プレゼントはまだ決まらない。

美麗と会えない日は色々と探し回っているのだが、どうにもピンとこない。


浩二に助言を求めたら、誕生花とか誕生石あたりを調べたらどうかと言われて、早速美麗の誕生花を調べてみた。美麗は花が好きだからな。


誕生花はスイートアリッサムという花らしい。

花言葉は優美。

美麗にピッタリな花言葉だと思う。


美麗の誕生日に合わせてスイートアリッサムのデッカい花束でもプレゼントしてみようか?


うーん‥‥まるでプロポーズみたいだな。

いや、いつかちゃんとプロポーズするけどさ。



9月3日


花束はやめておこう。

美麗に小説で読んだと誤魔化しつつ、それとなく花束について聞いてみたら、切花を否定するわけではないけど花束を貰うなら鉢で花を貰った方が嬉しいと言っていた。


美麗に、膝をついて花束ではなく鉢を渡す絵面を想像したら無いなと思った。



9月17日


誕生石の方を調べてみると美麗の誕生石はアクアマリンという宝石らしい。淡い青の綺麗な石。

美麗の好きな青色だし、この方向で考えてみよう。


ちなみに動物園は決まった。

売店でパンダのつけ耳なんかも売っているらしいが、お願いしたら着けてくれるだろうか?


‥‥‥。


想像したら可愛すぎた。

俺の理性が危ないかもしれない。


半年後なのに今から楽しみだ。



10月5日


プレゼントが決まった。


今日は、美麗は白百合や宇佐美と放課後にお茶しに行っている。

そんな、一緒に帰れない時の日課になりつつあったプレゼント探しで、今日はショッピングモールに行ってみたんだが、そこのアクセサリーショップにあったネックレスを見てこれだと思った。


トップがハート型の輪になっていて、ハートの窪みの部分に宝石が2つ付いているのだが、その宝石をオーダーメイドできるらしい。


恋人と自分の誕生石を隣り合うように並べて、ずっと一緒にいようなんて意味も込められているとか聞いて、ますますこれしかないなと。


美麗の誕生石はアクアマリンで、俺の誕生石を調べてもらったらペリドットだった。

美麗も好きな色の青と緑だ。


選ぶ石によっても金額が変わるらしく値段がついて無かったので見積もりしてもらったら今は手が出ない金額だった。


よし、バイトを探そう。



10月27日


文化祭が終わった。

美麗と一緒にまわれなかったのが残念で仕方ない。ほら、何かこう文化祭で彼女とイチャつくとか憧れるじゃないか!

まあ、そんな風に考えるようになったのも他ならぬ美麗が彼女だからこそだが。


客として行った時にメイド姿の美麗に『‥ご主人様』と言われて危うく色んな扉が開きかけた。


話が脱線したが、バイトだ。


美麗と同じ大学に行くための夜の勉強はなるべく優先したかったから、出来れば週一で土日のどちらかという条件だと中々見つからなかったのだが、ようやくバイトが決まった。

引っ越しのバイトだ。今からなら目標額も何とかなりそうだ。



12月4日


バイト先の社員の嶋田さんに、いつも楽しそうに働くよなと言われた。どうやら俺は笑顔で働いているらしい。

無愛想とは何度か言われた事はあるが、まさか無意識に笑顔になっていたとは思わなかった。


彼女へのプレゼント代が貯まっていくのが嬉しい。プレゼントを渡したらどんな顔するのか想像するのも楽しいと答えたら、新婚らしい嶋田さんは分かると言いながら肩を組んで昼飯を奢ってくれた。


食事中に嫁自慢をされたが、彼女自慢なら負ける気はしない。


今日のところは引き分けという事にしておいた。



12月29日


バイト先に美麗の手編みのセーターを着て行って嶋田さんに自慢した。

嶋田さんは、クリスマスは自分で料理を作って嫁さんに振る舞ったら泣いて喜ばれたらしい。


よし、その案頂きます。



1月20日


とりあえずクッキーを作ってみたが難しい。。

不味すぎる。。


料理って‥‥こんなに大変なんだな。

いつもありがとうな、美麗。


美麗ほどに美味しく作れはしないかもしれないけど、こんなものを美麗に食べさせるわけにはいかない。もっと頑張ろう。



1月21日


今日も美麗のお弁当は最高だった。

食べてる時に、コツを聞くつもりで美味しさの秘密は?と聞いたら照れ笑いをしながら『‥愛情かな』と言われて可愛すぎて死ぬかと思った。


食後に昨日思った通りに、いつもありがとうな

と言ったら美麗に腕をギュッと抱きしめられた。


浩二に鼻の下ってホントに伸びるんだねと呆れられた。



2月2日


白百合GJ。この写真はやばい。


目標額が貯まったので、今日はネックレスを注文してきた。


それと、クッキーはだいぶ形にはなってきたと思う。クッキーはホワイトデーのお返しとして、次は料理の特訓だな。

食材を無駄にしないように失敗してもなるべく食べよう。

頑張れ俺の胃袋!美麗の笑顔が待ってるぜ!



2月14日


くぁwせdrftgふじこlp



2月27日


完成したネックレスを受け取ってきた。

プレゼントですか?と聞かれたので、彼女への誕生日プレゼントだと答えたら綺麗にラッピングをしてくれた。


美麗は普段アクセサリーとかつけないが、喜んでくれるだろうか。絶対に似合うと思うんだけど。


そんな考えが顔に出ていたのか、ラッピングをしている店員の人にどうしたのか聞かれたので、そのまま打ち明けた。

すると、女の子は好きな人がプレゼントを一生懸命悩んでくれるだけで嬉しいものなのだと教えてくれた。

2ヶ月悩み抜いてこれを買うためにこっそりバイトをした話をすると、絶対に喜ぶと太鼓判をおしてくれた。


美麗の喜ぶ姿を想像すると勉強が手につかない。

今日は料理の特訓だな。



3月1日


動物園のチケットも発行したし準備は万端だ。


料理はご飯と、味噌汁。卵焼きにハンバーグ。

これを我が家で振る舞う。材料は前日に買いに行こう。

味噌汁は味噌を入れるだけではダメだと初めて知った。

卵焼きも焦げないように気をつけながら綺麗に形を整えるのがここまで難しかったとは。

ハンバーグも表面は焦げてるのに中身が生焼けだったり味の前に火加減を覚えるのに苦労した。

だけど、ようやく振る舞えるくらいにはなったと思う。美麗の味には遠く及ばないけど。


今日で、今年の美麗の誕生日計画ノートに書くのは終わりだな。


あのさ、美麗。

これは俺でも流石に面と向かって言えないけど。


美麗は、俺から美麗と離れて行ったり、俺が美麗を見失ってしまうのを怖がっているのかもしれない。


だけど、


俺もだよ。


俺は美麗と出会ってから臆病になったのかもしれない。


美麗が俺から離れて行ってしまわないか。

美麗が俺を見失ってしまわないか。

それが俺は、怖くてしょうがない。


なあ、美麗。

俺を一生そばにいさせてください。


俺は美麗が照れたよう笑う笑顔が好きだ。

それをずっと隣で、一番美麗に近い場所で、俺に見せてほしい。


部屋で2人でいる時の背中から感じる美麗の温もりが好きだ。

この温もりは誰にも渡したくない。


繋いだ手の温もりも、頭を撫でた時の表情も、美麗の全てが愛おしくてたまらないんだ。


大好きだぞ、美麗。


とりあえず、誕生日だ。

絶対に喜ばせてみせるから、覚悟しろよ。









上から溢れてきた水滴で、文字が滲んだ。


そのノートは『好き』で溢れていた。

一人の男が一人の女の子に宛てた、好きで好きでたまらない想いを綴ったラブレター。


思い出のカケラが散りばめられていた。

ずっと、ピースの埋まらなかったパズルが少しづつ、少しづつ、埋まっていくような感覚を覚える。


バレンタイン、チョコを貰わなかったか?


クリスマス、何かを貰わなかったか?


修学旅行、文化祭、海。

ぼんやりと、色褪せたパズルにゆっくりとピースが埋まって色を取り戻してゆく。


そして、あの場所‥‥




雪原のような場所で独り佇む少女の幻影が見えた気がした。




「行かなきゃ‥‥ッ」


どうしてそう思ったのか分からない。

ただ、今すぐにその場所に行かなければいけない気がして、俺は部屋のドアを勢いよく開いて駆け出した。



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