41.ばれんたいん


今日は何の日か?


ふんどしの日、予防接種記念日、ネクタイの日。


土曜日。


そして‥‥バレンタインだ。


今まで俺は、本命チョコを直接受け取った事がない。

直接と言ったのは靴箱に入っていたり、机の中に入っていたりと間接的に受け取らざるを得なかった場合があるからで。


何で受け取らないのかと言うと、本命チョコを受け取ったところで気持ちには応えられないし、それに受け取ってしまってもお返しが気まずいからだ。


間接的に渡されて、手紙に『好きです』と書かれているパターンは本当に困った。

直接的な場合は手にしなければいいのだが、この場合はすでにチョコは俺の手にあるわけで。


呼び出して『ごめん』と言って返そうとしても

『せっかく作ったから、それだけでも食べて』

と泣いて走り去ってしまい、そのまま受け取らざるを得ないのだ。


だから、1ヶ月後のお返しは早起きをして、謝罪文を添えた市販のクッキーを靴箱に入れに行ったりして‥‥ちょっとバレンタインという日が苦手ですらあった。



しかしだよ。

話は逸れたが、今日はバレンタインで、俺は今日初めて本命チョコを受け取れる。

朝からテンションがヤバかった。落ち着かないから10キロ程ランニングをした程だ。


ちなみに今はランニングから帰ってきてシャワーを浴びている。


今日は昼前に美麗の家に行って、そのまま美麗の手料理をご馳走になり、食後にチョコレートをくれるという話になっていて‥‥そして、美麗の両親はデートで不在。


そう、バレンタインに美麗の部屋で2人きり。

これが俺のテンションが朝からおかしかった原因だ。

美麗は両親の不在を分かっていて家に呼んだのだろうか‥‥?

あれについては高校を卒業するまではしないと、それとなく2人で決めているが、例えば‥

そう、例えばリボンを巻いた美麗に『召し上がれ』なんて言われたら、


俺の理性は299,792,458m/sで消え去る自信がある。


念のため、美麗の家に辿り着くまでに理性を1万2千枚の特殊装甲で囲う必要がありそうだ。



そういえば、昨日は業務用チョコみたいなものをクラス全員に配っていたようなものを除くと結局3つだけチョコを受け取った。


一つ目は白百合から。

そもそも美麗と白百合と宇佐美の3人でチョコを作っていたらしく、美麗も把握しているチョコとの事なので昼休みに普通に受け取った。

その場で開けていいと言うので開けてみると20センチ四方の正方形に整えられた板チョコにホワイトチョコでデカデカと『義理』と書かれていた。

まごう事ない義理チョコだった。

浩二にはチョコチップの入ったカップケーキで嬉しそうに食っていた。


二つ目は宇佐美から。

浩二も同じものを貰っていたが、親指と人差し指で円を作ったくらいの大きさの丸型チョコが3つ。

最初は物凄く苦かったが段々と甘くなっていく不思議なチョコだった。

何でもカカオ95%から始まり、どんどんカカオ保有量が下がっていって中心部あたりはカカオ20%になっているらしい。

本人曰く無駄に洗練された無駄のない無駄な手法で作っていて緻密な温度管理がネックだとか。


三つ目は修学旅行の時に花壇の世話を頼んだ美化委員の1年の子からのチョコレートケーキ。

修学旅行から帰ってきた後に俺と美麗からお土産を渡したのだが、そのお礼という事で美麗と一緒に食べて下さいと言うので受け取って、昨日美麗と一緒に食べた。

お礼ループに入りかけてる気がする。

だが、修学旅行以降も土曜は部活のついでと花壇の世話をしてくれてるし、またお礼しないとな。


美麗から浩二へについては、

『‥1番最初は当日に響君に渡したい。だから、週明けになっちゃうけど、ごめんね』

と浩二に言っていて、俺はそんな美麗が愛おしくて頭を撫でた。

浩二は『まだ貰ったわけじゃないのに‥‥口の中が‥‥甘いの‥‥』と項垂れていた。




「さて、そろそろ上がって支度するか」


シャワーを止めて、今日という日に再び胸を躍らせた。



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