40.はつもうで


神社へと続く階段の下に着くと友達同士やカップル、家族連れと結構な人でごった返していた。


浩二から3分程前に着いたとメッセージが来たのでこの辺りにいるはずなんだが‥‥


「‥いた」


そう思ってキョロキョロしていると、美麗が先に見つけてくれた。


「おっ、どこだ?」


「‥あそこ」


美麗の指差す方へ顔を向けると、俺も浩二と白百合を見つける事ができた。


しかし、


「何というか、いい雰囲気というか」


「‥うん、ちょっと声をかけづらい」


多分、浩二が冗談か何かを言って、白百合がお腹を抱えながら笑って浩二の肩をペシペシと叩いている。


「これ‥‥行った方がいいのか迷うな」


「‥うーん‥‥」


そう、2人で迷っていると、


「美麗ちゃん、青羽君、こんばんは」


階段から降りてきた宇佐美に声をかけられた。


「‥静香ちゃん、こんばんは」


「おう、宇佐美。こんばんは」


宇佐美はすでに着いて境内にも入っていたらしく湯気が立ち登る紙コップを持っている。

ほのかに香る甘い匂いからして、恐らく甘酒だろう。


「あれ?愛ちゃんと沢渡君はまだ来てないんですか?」


「いや、見つけはしたんだが‥‥」


そう言って視線を向けると、宇佐美も浩二と白百合の方を見て、


「おやおや?」


と口をニンマリとする。


「あの2人って‥‥そうなんですか?」


「いや、俺は浩二から聞いてないな」


「‥私も、愛ちゃんからは聞いてない」



そのまま2人を観察していると、ちょうど会話の切りがいいところだったのか、白百合がキョロキョロと辺りを見回す。

だが、位置的にほぼ真横なのでまだ見つかってはいない。

そこで白百合が自分の肘に手をあてて震えた。

『うー寒っ』とでも聞こえてきそうな仕草だ。


というか聞こえた。

‥‥あれ?


「今、宇佐美が言ったのか?」


「はい、少々読唇術を嗜んでまして」


「‥静香ちゃんの謎がまた一つ増えた」


どうやら宇佐美は謎に包まれた人物らしい。

視線を浩二達の方に戻すと、浩二が自分が巻いていたマフラーを外して白百合に手渡した。


『はい、これ。良かったら使って。俺の巻いてたのが嫌じゃなければ』


宇佐美の実況中継がすごい。

[あれ?声が遅れて聞こえるよ]的なラグしかない。


『ふふ、中々いやらしい言い方するわね。これで突き返したら私嫌な女じゃない』


『寒そうだったからね。できれば使ってほしいなって』


『それじゃ、お言葉に甘えてっと』


白百合が浩二から受け取ったマフラーを首に巻いた。


『うん。‥‥温かい』


『それは良かったよ』


『沢渡君は寒くない?』


『お忘れかもしれないけど、これでも一応男の子だからね。もし寒かったとしても、ここで寒いとは言わないよん』


『ふふ、沢渡君ってやっぱり男らしいよね』


『ぇ‥‥そ、そんな事ないってば』


そこで浩二が白百合から目を背けて‥‥バッチリ俺と目が合った。


おー、浩二のビックリした表情って地味にレアかもしれない。あまり見た事無かった気がする。


浩二は片手を額にあてて、一度上を向くと白百合に声をかけてこちらを指差す。


さて、行くか。




「悪い、ちょっと遅れた。宇佐美とちょうど合流できて少し話してたんだ」


そう声をかけながら合流して、境内に向けて階段を登る。少しだけ前を歩く女子3人が楽しそうに話す中、後ろを歩く浩二がジト目で俺を見た。


「いつから見てたの?」


「んー‥‥何か白百合がお腹を抱えて笑ってたあたり?」


「結構前じゃん。もう。声かけてくれれば良かったのに」


いや、声をかけるつもりはあったんだが‥

うん、直接聞くか。


「浩二は‥‥白百合が気になってたりするのか?」


浩二は少し無言になると、白百合の後ろ姿を見ながら口を開いた。


「んー‥‥よく分かんない。俺、多分恋した事ないんよねー。人を好きになるって意味では、下手したら響が俺の初恋だからね」


浩二がニカッと笑うので


「ははっ、それは光栄だな」


俺も釣られて笑った。


「でもね、白百合ちゃんが楽しそうに笑ってる姿を見るのは好きだよ」


「もし白百合への気持ちが恋なら応援するよ。浩二には色々助けられてるからな。野暮な事はしないけど、俺が手伝える事があったら言ってくれ」


「うん、頼りにしてる」


「俺も頼りにしてるよ」




境内に入り、皆んなで甘酒を受け取ってから参拝の列へと並んだ。


雑談をしていると、どこからか59,58とカウントダウンの声が聞こえてきて、それがどんどん広がってゆく。


スマホで時間を確認すると確かに新年まで1分を切っていた。



———5!4!3!2!1!



「美麗、明けましておめでとう」


「‥うん、響君。明けましておめでとう」


やっぱり、美麗に1番最初に言いたかった。

隣で微笑む美麗を見て思う。

来年も再来年も、ずっとその微笑みを隣で見られるなら俺も幸せだって。



浩二達とも新年の挨拶をして、しばらくすると俺達の参拝の番となった。

拝礼の作法について事前に美麗に聞いていたが、親切にも賽銭箱の隣に立て札があり、そこにも書かれていた。


二拝二拍手を行い、胸の前で手を合わせてお祈りをする。

最後に一拝をして、顔を上げて左に逸れるように歩き出すと、美麗も同じタイミングで顔を上げて歩き出していた。


「何お願いしたんだ?って、こういうのは言わない方がいいんだっけか」


「‥うん。でも、多分‥一緒」


「そっか‥そうだな」



神頼みとかあまりする方じゃないし、自力でそうするつもりだけど、神様も手を貸してくれたらありがたい。




ずっと美麗が笑っていられるように。

俺もその隣で笑っていたいって。




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