38.めりーくりすます


「うー、寒っ。そうだ、早速被るか」


美麗を送って家までの帰り道。

美麗から貰ったプレゼントである、お揃いの毛糸のニット帽を被ったところでスマホが震えた。


浩二から‥‥ん?ビデオ通話?


「おう、どうした?」


そう言って通話状態にすると、


『響さん、メリクリでーす!』


浩二の妹の弥生ちゃんが画面一杯に現れた。


「おう、メリークリスマス。どうした?」


弥生ちゃんは、今は受験勉強漬けだったと思うが。


『響さん、見てくださいよ。すごくないですか!?おにぃが作ったんですよ、これ』


そう言って弥生ちゃんは被っている帽子を脱いで見せてきた。

大好きな兄からの手作りのプレゼントにテンションが上がっているらしい。


「へー!浩二が編んだのか。器用だなー」


そう言うと、ようやく浩二が顔を見せた。


『ちょっと相沢ちゃんに感化されちゃってね』


ん?美麗に感化?どういう事だ?


『あっ、ひょっとして、その帽子が相沢ちゃんが編んだやつかにゃ?』


「いや、‥‥それ、何の話だ?」


『えっ?相沢ちゃんが手編みで何か作ってるみたいで、手編みは喜ばれるかって気にしてたから、響なら喜ぶって言っておいたんだけど‥』


俺は、帰り際の美麗の言葉を思い出した。

もっと上手になったら‥確かにそう言っていた。

だけど‥‥ひょっとしたら、どんな形でも完成したものがあるんじゃないのか?


そんなの‥‥貰ったら、この上なく嬉しいに決まってるじゃないか!


「‥‥悪い、浩二。電話切るわ」


『うん、行ってらっしゃい』


「ああ、行ってくる」



電話を切って、進路を逆方向に変えて駆け出した。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






響君に送ってもらって、リビングに行ったけど見たい番組も無かったので部屋に入った。

ベッドの上に座って、横に持っていた袋を置く。


「‥楽しかったな」


何となく、お揃いになったプレゼントの帽子を袋から出して被ってみる。

青色の帽子。私が青色が好きだって言ったのを覚えててくれたのかな?



帰り際‥‥やっぱりセーターをあげたいって少し迷った。だけど‥‥



クローゼットを開けてセーターを取り出す。

やっぱり、模様が曲がっていたりして、どこか不恰好なセーター。


「‥着てほしかったけど‥‥これじゃあね。ごめんね、もっと上手に編んであげられなくて」


そのまま、セーターをぎゅっと抱きしめた。



その時、スマートフォンが震えた。

画面を見ると‥‥えっと、響君?


「‥もしもし」


『はぁ‥はぁ‥美麗。俺さ、忘れ物したかもしれない』


「‥え?」


『今、美麗の家の前にいるんだけど』


カーテンを開けて窓の外を見ると、響君が手を膝について私の部屋の窓を見上げていた。


「‥えっと、忘れ物って、私が何か間違えて持って帰ってきちゃった?」


そう言って鞄を探そうとしたけど、


『いや、違うよ』


響君が止めた。


『美麗が、俺に渡そうとしてたプレゼント。受け取り忘れたんじゃないかって』


「ぁ‥‥」


私は今手に持っているセーターを見た。


『もし、あるんなら‥くれないか?』


「‥‥‥うん」


私は、手に持ったセーターを持ったまま、部屋を出た。




玄関を出て、響君の前まで行くと響君が私の持ったセーターに目を向ける。


「それが、俺に編んでくれたやつ?」


「‥うん」


響君にセーターを渡すと、響君はセーターを広げた。


「‥下手‥‥だよね。やっぱり——」

返して。そい言いかけたところで響君が


「ちょっと着てみていいか」


そう言って、着ていたコートを脱いで

「ごめん、ちょっと持ってて」

と私にコートを預けた。


下に着ていたパーカーも脱いで、私の編んだセーターを着る響君。


その顔は本当に嬉しそうで‥‥



「あったかい。このあたりがさ、ポカポカする」



左の胸に手をあてた。

その言葉と、表情は、私が渡した時にしてほしいと思っていた事そのままで。


ただ、想像したよりも、ずっとずっと嬉しかった。



「うーん‥毎日でも身につけたいのに‥‥もったいなくて着れないな‥‥贅沢な悩みだ」


「‥部屋着にでも使ってくれたら嬉しい」


そう言いながら緩みが止まらない口元を隠していた響君のコートを渡した。


「もし、良かったらさ。来年も、何か作ってくれないか?」


「‥うん、分かった」


「やった!」


来年はもっと上手に作れるように頑張るね。



響君はセーターの上にコートを着た。パーカーは手に持って帰るみたい。

そこで、視線が私の頭に向く。


「その帽子、早速被ってくれたんだな。似合ってる。すっげー可愛いよ。美麗は何着ても可愛いんだけどな」


そういえば、被ったままだった。


それよりも、今の嬉しい気持ちが溢れている時にそんなに可愛いなんて言われたら、私‥‥



「‥響君、夏祭りの時に言った事、覚えてる?」


「えっ?夏祭りの時って‥」


———あんまり言うと‥‥



私は、響君の肩に手を置いて、

精一杯背伸びをして、




響君にキスをした。




———恥ずかしいから、口を塞ぐって。




それは、響君の誕生日以来、何となくタイミングが掴めなくて出来ていなかったキスで。


見上げた響君の顔は真っ赤になっていて、私の顔も多分真っ赤になっている。




「響君、メリークリスマス」




暗い夜道に真っ赤な顔は役に立つのかな?


「‥気を付けて帰ってね」


そう言って、家に戻った。

でも、玄関のドアを閉める前に






「ひゃっっほぉぉぉぉぉおおおおお!!!」


という声が聞こえた。


響君、近所迷惑だよっ!?




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