37.くりすます(こうはん)


ショッピングモールの中心に位置する、目の前の大きなクリスマスツリーを見上げた。


ライトアップするにはまだ少し時間が早いけど、それでも先週あたりに見かけた時よりも装飾が増したその姿は、今日がクリスマス当日である事を実感させる。


時刻は17時。今日は休日でもあるので、賑わうショッピングモール内を俺と美麗はウィンドウショッピングをしながらプレゼント選びをしていた。


プレゼントが決まったら別々に買いに行って、初めてデート(と俺は思っている)をした時にパスタを食べた喫茶店で合流して、そこでプレゼント交換をするという流れだ。


あの喫茶店からはイルミネーションもよく見えて、クリスマスムードのある飾りつけもされるようなので席を予約しておいた。

予約したのは2日前だが、アルコール類の提供が無いのと、ジャンル的には軽食に入る喫茶店なので何とか予約できたが、それでも予約した時間である18時〜20時は、席の4分の3は予約で埋まっているらしい。



ちなみに、昼間は美麗はうちにいた。

元々は映画でも見ようかという話だったのだが、特に見たい映画があったわけではなく、映画館に着いてから決めようかといった感じだった。


なので、休日だから家に父さんもいるし、父さんが会いたがってるっぽいという話をしたら美麗も乗り気だったので予定を変更した。


父さんは朝風呂に入っていたので、母さんに美麗を連れてくると父さんに伝えるように言って美麗を迎えに行ったんだが‥‥


うちに着いて美麗をリビングに通すと、新聞を読んでいた父さんは驚愕の表情をした次の瞬間、姿を消した。


そして、30分後に汗だくで、髪を乱して、息を切らした父さんがリビングに入ってきて美麗に

『これ‥‥‥食べるといい』

と、クリスマスケーキの入った箱を渡した。

『あ、ありがとう‥ございます』

最初はビックリしていたが、言い終わる頃には笑顔の美麗を見て、父さんも口角を上げた。


父さんの笑った顔、見るの3年ぶりくらいな気がする。ひょっとしたら娘が欲しかったのだろうか?

尚、母さんは必死にケーキを買いに走った父さんがツボに入ったらしく、お腹を押さえてヒクヒクしていた。

母さん、美麗が来る事を敢えて言わなかったな。


ケーキは苺がふんだんに使われた高そうなやつで美味かったが、父さんは美味しいケーキ屋に詳しいのだろうか。謎だ。




さて、服や雑貨を中心に6店舗くらい見て回ったが、美麗は決まっただろうか?

ちなみに俺は決まった。

バッグの専門店を出たところで美麗に聞いてみる事にする。


「決まったか?」


「‥うん、決まった。響君は?」


「俺も決まった。時間もいい感じかな?」


「‥そうだね」


時間を確認するためにスマホを出して、真っ先に表示される俺と美麗が眠っている姿に頬が緩む。

美麗も画面を見ていて、俺が見ている事に気付くと照れ笑いをした。


あぁもう、可愛いなぁ。

これから別々に買い物に行くのだが、そんな僅かな時間でも離れがたくなる。


だけど、このままだと話も進まないので一瞬抱きしめてから手を離した。

美麗に『もう困った子ね』と言わんばかりの微笑みを向けられて‥‥‥危ない、幼児退行するところだった。




「それじゃあ、買い物が終わったら」

「‥喫茶店の前で待ち合わせ」


という事で、買い物へと向かうわけだが、


えー‥‥っと。


美麗とまったく同じ方向に歩いてゆく。

どちらかが、どちらかについていっているわけではなく並んで歩く。


そして、


「美麗もこの店?」

「‥うん」


同じ店に辿り着いた。帽子の専門店だ。

店に入って‥‥そのまま目当ての物の前まで行き


「ははっ」

「‥ふふっ」


お互いに笑ってしまった。

そこにあるのは毛糸の帽子。


「‥お揃いだね」

「だな」


俺は青の帽子を手に取って、美麗は緑の帽子を手に取って、一緒に会計へと向かった。


そのまま、手を繋いで店を出るとちょうどクリスマスツリーに明かりが灯った。


「おっ、ライトアップしたなー」


「‥うん、綺麗だね」


2人で寄り添いながら少しだけクリスマスツリーを眺めて、それから喫茶店へと向かった。




喫茶店に着くと、店内はクリスマス仕様に飾り付けられていて、サンタ服を着たウェイトレスに席まで案内された。

予約した日にはちょっと飾りつける程度と聞いたのだが地味に気合いが入っていたらしい。


メニューを見ながら、一つ美麗にお願いしたかった事を言ってみる。


「あのさ、美麗」


「‥どうしたの?」


「初めてこの店に来た時の事なんだけど、隣で『これ美味しい』『こっちも美味しい』って言いながらカップルがパスタの交換してたんだよ」


「‥うん」


「それ見てさ、何かいいなーって。俺もいつか美麗とやりたいって思って‥‥それを今日、やってみたいなー‥と」


そう言うと、美麗は口元に手を添えてクスリと笑う。


「‥‥子供っぽいとか思ったろ?」


「‥ちょっとだけ思ったけど、うん。私もやりたいな」



美麗は前と同じくカルボナーラ。俺はウニクリーム明太パスタを頼んで、半分食べたところで交換しながら冬休みは何しようなんて話をしていると、あっという間に2時間が過ぎた。



手を繋ぎながら美麗を家まで送り、家の前での別れ際に美麗が


「‥あのね‥‥ううん、やっぱり何でもない」


何かを言おうとしてやめた。


「どうした?何かあるなら何でも聞くぞ。クリスマスに一輪しか咲かない伝説の花が欲しいとか言われても、俺は美麗が欲しいなら今から探しに行くし」


そう笑いかけたが、


「‥ううん。もっと上手になったら‥‥だから、今はいいの。またね、響君」


そう言って抱きついてから家に入っていく美麗の背中を見送ってから帰路についた。



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