30.しゅうがくりょこう(すきなところ)


「おー、あれが京都タワーか」


「‥ちょっと、ボウリングのピンに似てる」


「言われてみれば‥確かに」




ようやく京都に着いた。


結局、美麗の膝枕で1時間くらい寝てしまって、目が覚めて頭をあげると美麗も寝ていたらしく俺の頭に乗せていた手が落ちて目を覚ましたようだ。


「‥足が‥少し痺れてる」


と目を擦りながら困ったように笑う美麗に俺はすぐに謝った。


「ごめんな‥」


すると、美麗は首を横に振る。


「‥響君に膝枕ができて嬉しかったから、言われるならお礼がいい」


「そっか‥‥ありがとな、美麗。おかげで気分も良くなった」


「‥うん、どういたしまして」


寝起きに見る美麗の笑顔が可愛くて、頭に手を伸ばしてゆっくりと撫でた。



後ろの様子を見ると、浩二と宇佐美がスマホでオセロをしていた。

勝敗を聞くと宇佐美が8戦8勝で一度パーフェクトもしているとか。

よく折れないな、浩二。メンタルやばいわ。


そこからは俺と美麗もオセロに混ざったが、美麗と宇佐美の強さが抜けていて、俺は美麗の、浩二は宇佐美の画面を見ながら観戦していた。

「‥静香ちゃん、強い」

「美麗ちゃんも‥‥やりますね」

と、強者っぽい会話を繰り広げており、結果は3戦やって美麗は1勝2敗で負けだった。

後で美麗にオセロのコツを聞いたが、最初にたくさん取ろうとしない方がいいらしい。




京都駅に着いて、まずは宿泊先である旅館に行って荷物を預けた。

かなり大きくて立派な温泉旅館で、ご飯と風呂に期待が高まる。


初日だけは団体行動で、荷物を預けた後に世界遺産である二条城に行く事になっている。



まずは国宝である二の丸御殿を見学した。

権力の大きさを現す虎の間の竹林群虎図に圧倒されつつ、廊下を歩く度になる鳥の鳴き声のような音が気になったが、これは鶯張りとよばれる敢えて歪むように床板が張られていて、歩くと床板が沈んで釘がこすれて鳴る音らしい。

これで誰かが来たら分かるし、静かな夜には侵入者対策にもなっているとか。


その後は庭園で紅葉を楽しんだが、団体行動なので立ち止まってゆっくりと見ることができなかった。

明日はゆっくりと楽しみたいな。




旅館に戻って、部屋で少しゆっくりした後はいよいよ楽しみにしていた食事の時間だ。


「早く食事の場所行こうぜ!」


「おー!響が相沢ちゃんの事以外でウキウキしてるの久しぶりに見たよ」


部屋にいるのは俺と浩二を含めて男4人。

まあ、現実的に考えて男女相部屋はありえないわな。それに美麗と相部屋だったら‥‥


飯だ飯!




食事場所に着いた俺は感動していた。


栗ご飯、銀鱈の西京焼き、松茸入りの茶碗蒸し、ふろふき大根。

どれもが主役を張れる。全部俺の好物だ。

京都を選んで本当に良かった。

唯一苦言を申し上げるなら、西京焼きは栗ご飯じゃなくて白米で食べたかった‥‥


各席に料理が並べられていく中、隣の美麗がスマホを見てから料理の写真を撮っていた。


「記念に撮ってるのか?」


すると美麗がスマホを見せてくれた。

そこに映っているのは、最早ご飯が見えないどころか、下皿にこぼれるくらいに盛られたイクラのイクラ丼と、蟹の味噌汁。


「‥愛ちゃんから、北海道の今日のご飯が届いたから、こっちも送ろうかなって」


うん、向こうも確かに美味そうだな。

俺はこっちの方が好きだが。



全員分の用意が終わって、先生の号令で食事が始まった。


「いやー、京都選んで良かった。めちゃくちゃ美味いな」


「‥うん、美味しい。響君はどれが1番好き?」


「俺が1番好きなのは美麗の弁当だぞ」


「!‥もぅ」




「ねぇ、君達はお砂糖まかないと死ぬ病気か何かなの?西京焼きが甘くなったんだけど」



浩二には俺の好みにカスタムされた美麗の弁当の美味さは分からないか。

あれ食ってから俺の好きな食べ物ランキングの最上位にランクインして、全ての食べ物のランクが一個下がったからな。




食事の後はお楽しみその2の風呂タイムだ。


脱衣所で運動部でもないのにムキムキな浩二の身体に僅かな敗北感を感じつつ風呂場へと向かって軽く身体と頭を洗う。


準備もできたら室内もいいけど、露天がある事だし露天風呂へ直行だ。


「おー!露天風呂広っ!すっげー!」


同じ部屋になった溝口がはしゃぐ。


「おー、確かに広いなー」


大きな石で囲われたかなり広い露天風呂だった。

湯に浸かる前からその景色だけで楽しめる。

溝口もキョロキョロと辺りを見まわしていたが、挙動が急におかしくなった。


「あれ?ひょっとして向こうって女湯じゃね?」


そう言って、竹と木で出来た仕切りの方へと向かって行く。


「マジで!?どっかに覗き穴ねーかな!」


他のやつも向かって行くが‥‥


「おい!美麗が入ってるかもしれねーだろ!させねーよ?」


させるわけねーだろうがッ!


「いや、俺は宇佐美さんの裸が見たいんだっ!あの溢れんばかりの巨乳が!相沢さんのも見ちまったらゴメンな!」


「俺は西田さんのだな!相沢さんも見えちゃったら悪いな」



お前等‥‥


「屋上へ行こうぜ‥‥久しぶりに‥‥きれちまったよ‥‥」


悪・即・斬




「「ぎゃー!!!」」




「青羽、悪かった!やめてくれ!腕はそっちに曲がるようにできてないっ!」




覗き未遂を粛清してからゆっくりと湯に浸かる。

ぐったりしている溝口に浩二が声をかけた。


「響の前で相沢ちゃんごと覗こうとするとか自殺と変わらないよ?」


「ほんと青羽は相沢さん好きだよなー」


そう言った溝口が顔を上げて聞いてきた。



「なあ、青羽。青羽は相沢さんのどんなところが好きなんだ?」






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






食事も終わって部屋に戻ると、


「早速ですけど、お風呂に行きませんか?」


静香ちゃんがそう提案した。

ここの旅館は立派な露天風呂があるみたいで私も楽しみにしていた。


「いいね!行こっか!」

「そうだね、お風呂行こう」


同じ部屋になった西田さんと渡辺さんも賛成する。もちろん私も賛成なので


「‥うん、お風呂行きたい」


そう、返事をした。




脱衣所で、西田さんと渡辺さんから夜になったら恋バナをしようねと言われた。


私は中学の修学旅行はずっと独りだった‥‥。

誰も喋りかけてくれなくて‥‥

喋りかけても無視されて‥‥

独りでお風呂に入って、部屋に戻ってもみんなが話している中、部屋の隅にお布団を敷いてすぐに横になって‥‥


修学旅行に、楽しかった記憶なんて一つも無かった。


‥‥‥‥だから、嬉しいな。



身体を洗って、私は髪が長いから髪を洗うのに時間がかかってしまったけど、みんなで最初は露天風呂の方に行こうと言っていたので露天風呂の方へと向かった。


露天風呂に着くと、静香ちゃんも西田さんも渡辺さんもすでに湯に浸かっていて、他にも同じクラスや違うクラスの女子が何人かいた。


そして‥静香ちゃんの胸が‥‥浮いてる。

体育の時の着替えとか、海に行った時にも思ったけどやっぱりすごい。


西田さんも、渡辺さんもスタイル良くて‥‥私の小さな胸に‥‥哀愁が‥‥

響君は、大きい方が好きなのかな?


男の人の視線は分かりやすいって言うけど、そういうのは私は全然分からない。


だけど‥水着の時は響君、私の胸少し見てくれた気がする。



「‥お待たせ」


お湯に浸かって静香ちゃんのところに行くと


「青羽君達も今、向こうにいるみたいですよ」


と教えてくれた。

確かに響君の声がする。


今、向こう側に‥‥響君が‥‥裸で。

海に行った時の響君の上半身を思い出してしまって‥‥顔が熱くなる‥‥


どうやら男子は覗こうとしてるみたいで、静香ちゃんと西田さんの笑顔が恐い。


そうだよね‥‥見るならスタイルがいい人を見たいよね‥‥


断末魔の叫びのような声を聞きながら、私は自分の小さな胸を見下ろした。




『なあ、青羽。青羽は相沢さんのどんなところが好きなんだ?』


!??


その時、そんな声が聞こえた。


わ、私の好きなところ‥‥

私のどんなところが好き?なんて、そんな事、直接聞けないけど‥‥聞ける‥‥のかな



『ちょ!?響にそれ聞いたらっ』


何か沢渡君が慌ててる声も聞こえる。




『んー‥‥美麗の好きなところか。難しいな』



無い‥‥のかな‥‥。


響君に可愛いって思ってほしくて、言ってほしくて頑張ってるけど‥‥

『響君は私の事を好きだと思ってくれている』

その小さな自信は、いつだって縮こまって怯えている。


響君さえ可愛いと思ってくれればそれでいいと思っても、やっぱり自分に自信なんて持てなくて。


客観的に見た私は可愛くなんてないって分かってるから。



『そもそも俺はさ、美麗以外を可愛いと思った事なんて一度もないんだよ』



‥‥え?



『そりゃあ今まで美人だと思った人はいるけどさ、あくまで客観的に見てだし美人だからといって別に好きになったりはしなかった』



響君‥‥



『それが、美麗の笑顔を見て可愛いと思った。花に水をあげる美麗を見て、綺麗だと思った。映画を見て一緒に泣いたり、ゲームで一緒にはしゃいだりするのが楽しくて、それ以上に美麗と一緒にいる事が嬉しいと思った』



私‥‥


体温が、どんどん‥どんどん‥どんどん上がっていくのが分かる。



『だから俺は、美麗と一緒にいたい。美麗の笑顔を一番近くで見たいって思ったんだ。例え美麗が俺を選んでくれなくても、せめて笑顔にしたいって。俺が本当に、心から可愛いと思えるのは美麗だけだから』



も‥う‥‥



『それで、美麗は俺を選んでくれた。好きな人が好きになってくれた‥こんなに幸せな事はないよ。結論は、俺は美麗以外を好きになるなんて事はありえないし、どこが好きって聞かれても美麗だから好きとしか言えないな』




だ‥‥‥め‥‥‥






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






「甘いよぅ‥‥お湯が甘いよぅ‥‥」


「なあ、浩二。何か向こう側騒がしくないか?」


悲鳴じみたものも混ざってる気がする。




風呂から出ると、ちょうど風呂から出たらしいうちのクラスの女子がいたので何かあったのか聞いてみようとしたら俺と目が合うなり、顔を赤くしながら逸らされた。



ん?何だ?



浩二が代わりに事情を聞いてみると、お風呂に入っていた女子数人がのぼせたらしい。


美麗は無事なのか!?


すぐに美麗に電話をしたが、電話に出ない。

急いで部屋の方へと向かう。


事前に部屋の場所は聞いてはいたが、女子の部屋のフロアは男子立ち入り禁止なので相部屋だと聞いていた宇佐美の番号に電話する。

クラスのメッセージグループでSNSは知っていたが、修学旅行の班になった時に番号を教えてもらっといて良かった。


電話に出なかったら叱られるの覚悟で部屋まで行こう。あとで説教でも反省文でも何でもしてやる‥‥と思ったら、電話が繋がった。


『‥‥はい、宇佐美です』


「今、階段のとこにいるんだが、美麗は無事か!?」


そう言うと、団扇を持って冷えピタを額に貼った宇佐美が部屋から出てきた。


「美麗ちゃんは今寝てます。ちなみに、美麗ちゃんがのぼせたのは完全に青羽君のせいですからね。他の子も‥あんな‥あんな、女の子が言われたい事を全部詰め込んだような事言われたら‥‥もう‥‥もうっ‥」


そう言って宇佐美は部屋へと戻っていった。



美麗は無事らしいが‥‥



俺のせい???




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