29.しゅうがくりょこう(ひざまくら)


学校行事で文化祭が終わって、次のイベントと言えば‥‥


「今日のホームルームでは修学旅行の行き先と、班決めを行います」


学級委員の宇佐美が教壇に立って言う。

そう、修学旅行である。


ちなみに、うちの高校では修学旅行の行き先はクラス別で選択式となっている。

北海道・京都・沖縄の3つから行きたいところを選ぶんだが、あまりにも偏ると宿泊施設の関係で他のクラスと取り合いになったりする。


北海道だったら雪景色と海鮮とか、京都だったら丁度紅葉が見頃だし、沖縄だったらダイビングやシュノーケリングとかを楽しめたり、それぞれ特色があるが、この中だと俺は‥‥京都かな。


料金はほとんど一緒なので、移動費用が1番安上がりな京都は宿泊する旅館や食事が豪華だったりするなんて情報もあるし。


美麗はどこ希望なんだろうか?聞いてみようと前に座る美麗の肩をつついた。


2学期になって1度席替えがあったのだが、俺と美麗の席は変わっていない。窓側1列目の1番前とその後ろ。

席替えの時に、くじが入った箱を持った宇佐美がやたら笑顔だったのが気になったが深くは聞いていない。


「美麗はどこに票入れるんだ?」


振り向いた美麗に聞いてみると


「‥京都にする。秋の京都って何かいいかなって。響君は?」


同じだったのが嬉しくて、つい笑ってしまった。


「同じだな。俺も京都希望」


美麗も一緒で嬉しいのか笑ってくれた。




というわけで多数決の結果、京都となった。

次点で沖縄が人気だったが、今年部活とかで海に行けなかったから『女子の水着が見たい』と騒ぐ男達の票がほとんどで、

『ダイビングとかシュノーケリングは水着じゃねーぞ』

というツッコミが入った今は

『いやー、京都楽しみだなー』

と開き直っている。

とりあえず不平不満が出なさそうで宇佐美もホッとしている。


班決めも4〜6人で適当にって感じだったが余りが出る事なくスムーズに決まった。

うちの班は俺と浩二と美麗と宇佐美で、宇佐美が班長となった。






そうしてやってきた修学旅行当日。


集合場所である新幹線に乗る駅の駅前まで美麗と一緒にやってきた。

行きと帰りは制服なので、制服の集団を見つけるのは簡単だった。班毎に点呼をとって先生に報告する必要があるので宇佐美と浩二を探す。


「まだ来てないっぽいか?」


「‥静香ちゃんは来てると思う」


そう話したと同時に


「美麗ちゃん、青羽君、おはようございます」


宇佐美から声がかかった。


どうやら宇佐美は少し離れた位置でスケジュール確認をしている先生と話していたらしい。



宇佐美といえば、美麗と修学旅行中の花壇の世話をどうするかを朝の教室で話していた時に『本来やるべき人にお願いしてみては?』と既に教室にいた宇佐美に提案されて、美化委員の1年の女の子にお願いしてみたところ引き受けてくれたので、修学旅行中はその子が水やりとかをしてくれる事になっている。

微妙に見覚えがあると思ったら、文化祭で俺を指名した子だった。

『あ、青羽先輩っ。わ、私頑張りますっ!』

と、妙に意気込んでいたが、水あげ過ぎたりしないよな‥‥?

美麗が説明してたから大丈夫だとは思うが。



少しすると浩二も合流して、宇佐美が先生に報告する。予定時間になって欠席がいない事を確認すると新幹線に乗り込んだ。



新幹線ではある程度班でかたまるように、2人席の窓側に俺、通路側に美麗が座っている。

浩二と宇佐美は後ろの席にいる。


俺と美麗は小説を読んでいた。

最初は美麗がどんな本を読んでいるのかの興味からだったが、今では俺もすっかり小説にハマっている。

今読んでいるのは俺が自分で買ったもので、読み終わったら美麗に貸す事になっている。

今から感想を言い合うのが楽しみだ。



1時間くらいして‥‥酔ってきた。

今まで乗り物に乗って長時間本を読んだ事は無かったが、俺は酔うタイプだったらしい。


気分を紛らわせるように窓から景色を眺めていると


「‥大丈夫?」


と美麗が心配そうな顔をして声をかけてくれた。


「ちょっと酔っただけだから大丈夫だよ。ありがとな」


そう、何とか笑顔で返すと


「‥響君。‥‥‥少し横になる?」


美麗がそう言って、太ももの上にのったスカートの上ををぱっぱっとはたいた。



えっと‥‥これは‥‥あれだよな?

実は今までやってもらった事は無かったんだが、膝枕‥‥って事でいいんだよな?


「いい‥‥のか?」


「‥どうぞ」


美麗が優しく微笑む。

これは脳内響会議を開くまでもない。


「お言葉に甘えて‥‥」


何故か改まった言葉遣いになりつつ、腰を窓際に寄せて横向きに美麗の太ももに頭を乗せた。


‥‥‥‥柔らかい。何だこれ。今まで俺が使ってた枕って一体何なのだろう。と思うほどに寝心地が良すぎる。


「重くないか?」


「‥うん、大丈夫。‥‥髪の毛、触ってもいい?」


「ああ、いいよ」


返事をすると、美麗は静かに優しく俺の頭を撫でてくれる。


あれ?俺、酔って気持ち悪かったんだよな?気持ち悪さなんて欠片も無くなって気持ちいいんだけど‥‥


心地よくて‥‥安心できて‥‥眠くなってきた。


「‥寝ていいよ」


髪をすくようにゆっくり俺の頭を撫でる美麗からそんな声が聞こえて、だんだんと意識が遠のいてゆく。




「響、トランプやろ‥う‥‥ごゆっくりー」


何か聞こえた気がしたが、新幹線の付喪神か何かだろう。


そのまま俺は意識を手放した。




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