27.うみ


青い空‥‥‥白い砂浜‥‥


そして‥‥



「‥あ、あんまり見たら‥だめ」



可愛い美麗。


そう、俺は今、天国‥‥ではなく海に来ていた。




美麗がサプライズで料理を作りに来てくれた日の夜に、帰る前に少し話そうと部屋に呼んだんだが、その日の女子会で海に行こうという話になったみたいで、今度水着を買いに行くという話を聞かされた。


そして、ナンパ避けとか男手とか諸々で俺と浩二に白羽の矢がたったみたいなんだが、


『‥それに、私も‥響君と海行きたい』


美麗にこう言われたら俺にNOなんて選択肢は無い。

いや、むしろ美麗から言われる事にNOなんて選択肢は無かった。

というか、美麗がナンパされるかもしれないし、呼ばれなかったらこっそりついて行くまである。


ナンパ男は声をかけた瞬間に母なる海へと還って魂がルフランする事になるだろう。




海の家に併設されている更衣室で俺と浩二はサクッと着替えて、ナンパ対策に女性側の更衣室の前で待って合流した。

出待ちのナンパも見かけたので効果はあったと思う。

白百合が前に庇った時にできた俺の二の腕の傷跡を見て物憂げな表情をしたが「かっけーだろ?」と笑っといた。


空きスペースにレンタルのパラソルをたててシートをひいて、荷物をまとめて準備完了。


白百合も宇佐美も羽織っていたパーカーを脱いで日差しを浴びている。

白百合は一般的な三角ビキニタイプで色は黒。

宇佐美はモノキニって言うんだったか、前から見るとワンピースっぽくて後ろから見るとビキニっぽい薄紅色の水着。

2人ともスタイルがいいので水着も似合っているのだろう。浩二が絶賛している。


だが、それよりも俺は今、美麗から目が離せない。


「‥あ、あんまり見たら‥だめ」


美麗はそう言いながら、薄手のパーカーのジップをおろそうとしつつモジモジしている。

何故かと言うと俺がガン見してるからなわけだが、目が離せないんだから仕方ないだろう。


ああ‥‥モジモジする美麗が可愛いなぁ。


「‥見たい?」


ジップを摘んだ美麗が上目遣いで聞いてくる。

美麗は恥ずかしがってるわけだから、ここはあまりがっついているところを見せない方がいいのかもしれないが、


「見たい!」


俺の中の本音さんと建前さんが全会一致だった。


美麗はゆっくりとジップをおろしてゆき、だんだんと見えて来る白い肌と青いフリルに生唾を飲み込んだ。


パーカーを脱いだ美麗は青いフリルビキニを着ていて、胸元とお腹を隠すように手を下ろして手首を掴んだりしているが‥‥すまん、美麗。その動作は逆効果だ。

チラチラと見える胸元だったりオヘソに俺の胸の赤い実はさっきからはじけっぱなしだ。


「‥どう‥かな?」


「めちゃくちゃ似合ってる。すっげー可愛い。」


俺がそう言うと美麗はその白い肌を桃色に染めて


「‥‥‥ありがとう」


と小さな声で呟いて、俺の大好きな照れたような笑顔を見せてくれるもんだから、吸い寄せられるように無意識に一歩二歩と美麗に近づいた。


すると美麗が片手で自分の目のあたりを覆って、もう片方の手で俺の胸に手を当てて俺の前進を止めた。


「‥近い‥よぅ。恥ずかしくて、響君の裸が‥‥見れない」


我に返った俺は、目の前の今まで見たことがないくらいに照れている水着の美麗を見て脳みそが沸騰した。



「おーい、そこの日焼けもしてないのに真っ赤なおふたりさーん‥‥だめだ、聞こえてない」

「予定調和ね」

「ふふっ、そうですね」



後ろの方で何か喋ってる気がしたが、気を向ける余裕なんて無い。






パラソルの下で、浩二と荷物番をしながら美麗達がはしゃいでいる姿を眺める。

美麗が楽しそうにしている姿に思わず口元が緩む。

そういえば、美麗は青い水着を着ていたが、服はモノトーンが多いけど色としては青と緑が好きらしい。覚えておこう。


「そろそろ何か食べるー?」


「そうだな。んじゃ、荷物と美麗達見ててくれ。このあたりのメニューとか覗いてくるわ」


「んー、りょうかーい。よろしくねー」




浩二に荷物を任せて、近くにある海の家のメニューを何件か覗いてきた。

定番のようにどの海の家にもカレーとかラーメンとかあるけど暑い時に熱い物って何故か海だと食えちゃうよなーとか考えつつパラソルが見えてきた。美麗達も戻ってきたらしい。

と、そこで


「ねー、1人?」


知らない女の子に話しかけられた。

その子は手を後ろで組みながら前屈みで俺の前に立つ。

進路に立たれると無視するわけにもいかずに邪魔なんだが‥‥


「いや、1人じゃないけど」


「あっ!友達と来てるの?それなら私も友達と来てるから合流して一緒に遊ぼうよ」


「いや、そもそも———」

俺は彼女と来ていると言おうとしたところで



「やめてくださいっ」



美麗がパラソルから出てこっちに駆けつけた。


「はあ?何このブス」


「わ、私は、この人の‥響君の、か、彼女ですっ!」


美麗は自分の手をギュッと握りしめて、強い目で知らない女の子を見た。


俺は‥‥


「裸足だと熱いだろ」


そう言って美麗を抱き上げた。

お姫様抱っこってやつだな。

美麗はシートからそのまま駆けつけてたから裸足のままで‥‥熱せられた砂で美麗が火傷でもしたら大変だ。


「俺はこの可愛い彼女と海を満喫中なんだ。ナンパなら他あたってくれ」


声をかけてきた女の子は目を丸くしているが、その横を通り過ぎ様に言い忘れた事があったので言っておく。


「それと、俺からすればあんたより俺の彼女のが何倍も可愛いから。男が欲しいなら自分を磨いた方がいいぞ」




美麗を抱えながらパラソルの方へ歩きつつ


「上書き‥‥できたか?」


と聞いてみたら


「‥うん。‥‥ありがとう」


美麗はそう言うと、俺の首に腕を回して頬に‥

チュッ

と‥‥‥‥


「‥‥」


俺は、そっと美麗をパラソルの下のシートの上におろした。


そして‥‥




「うおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」


海に向かって駆け出した。



そもそもやばかったんだ。

お姫様抱っこ中、美麗からいい匂いがするし。何で海に入ってたのにいい匂いするんだよッ!

それに背中とかの素肌に触れたのも初めてで‥スベスベで‥俺の手で触ってるだけで傷つけてしまうんじゃないかって心配まで生まれてきて。


あと‥‥その、む、胸が水着だから普段抱きしめるよりも、感触が‥‥


兎に角やばかったんだ。


そこにッ‥‥そこに追い打ちのようにッッ



「うおおおおおおおおおおおおおおっ」



海までたどりついた俺は、波を掻き分けながら足が届かないところまで走り抜け




このあと滅茶苦茶クロールした。




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