20.ともだち
夏休みも目前に迫り、私白百合愛に告白する人が増えた。
「白百合さん、ちょっといいかな」
授業も終わって、各々が部活だったり帰り支度をする中、うちのクラスへの訪問者のその声で教室が静まった。
「今彼氏いないよね?俺と付き合おうよ」
今日はサッカー部のエースらしい。
周囲からそんな声が聞こえた。全然興味無いけど。
確かに容姿はいいかもしれない。
だけど、微塵も振られるとは考えてないような顔が気に入らない。
わざわざ放課後になったばかりで人が多く残っている教室で言うあたり自信があるのかしら?
断れない空気を出しているつもりなら、それも気に入らない。
でも、何より気に入らないのが‥‥その目
私をブランド品とでも思っているような目
もう見飽きるくらいに見てきた目
うんざりする。
「ごめんね、今は誰とも付き合うつもりはないの」
そう言って教室を後にする。
響君の事を引きずっていないと言えば嘘になるけど、ちゃんと想いを伝えて振られた分それなりにスッキリはしている。
それよりも、柄にも無い事をした次の日の方が印象に残ってるかもしれない。
美麗ちゃんに呼ばれて行ってみれば
『自分の気持ちをちゃんと伝えられた』
そう言って頭を下げられた。
恋人になったなんて言おうものなら、あっそとでも返して立ち去るつもりだったけど‥‥
ただ、私がした応援に対して頑張ってみると返した彼女との、約束とすら言えないようなやり取りの‥その報告とお礼。
目を見ると、初めて向けられるような不思議な目だった。
そんな彼女に少し興味が湧いた。
だから私はほとんど無意識に言ってしまった。
『ねえ、相沢さん。私と友達にならない?』
と。
その後の事を思い出したら笑ってしまう。
だって、ビックリした顔をしたかと思ったら急に泣き出すんだもの。
友達になろうなんて言われたのは初めてだったって。
私は‥‥友達になろうと言われた事なんて何回もあるけど‥‥
‥‥今まで友達って呼べる人っていたかな。
少し前までは平川さんとよく一緒にいたけど、あの子も響君狙いだったみたいで、あわよくばなんて考えてたみたい。
私が響君の所に行かなくなったら離れていった。
いつもそう。
私を利用しようとするだけ。
私の近くにいると男子と近づける。そんな思惑で近づいてくる子ばかり。
意中の相手が私に近づくから私に付き纏い、意中の相手が私に告白して振られると離れてゆく。
そんなのばかり。
そういえば‥‥私も自分から友達になろうなんて言ったのは初めてだったな。
この前、美麗ちゃんに
『少しでも可愛くなるにはどうすればいい?』
と、相談されたけど‥‥
人に頼られて嬉しいと思ったのも初めてだった。
とりあえず私の行きつけの美容院に連れてって髪の毛のダメージケアをしてから、ヘアアクセサリーを買いに行ったりして
‥‥楽しかった。
今日美麗ちゃんは響君と勉強するって言ってたっけ。
ふぅ‥‥私も勉強しよ。
高校の近くの図書館に着くと入り口の前で
「ほよっ?白百合ちゃん?」
と声をかけられた。
「あら?沢渡君?」
「白百合ちゃんも勉強かにゃ?」
「うん、テスト近いしね。沢渡君も?」
「うむ。夏休みに補習受けたくないからねー」
何となくそのまま2人で図書館に入ると、
「げっ、響と相沢ちゃん」
沢渡君は苦笑いをしながらそう言った。
その声で向こうも気付いて響君は手をあげて、美麗ちゃんは手を振っている。
向かい側の席が空いていたので流れで4人で勉強する事になったけど、そこで沢渡君が小声で話しかけてきた。
「‥‥白百合ちゃん。この2人が揃ってる状態で談話した事ある?」
「長い時間って意味ならないわね」
「気を強く持ってね。油断すると死ぬよ?」
「死ぬの?」
「糖死する」
凍死‥‥?どう言う意味だろう。
1時間後、意味が分かった。
糖死ね。
何なのこの桃色空間。見てる方が照れてくる。
というか響君。好きな子の前だとそんな感じなのね。
こっそり机の下で手を繋いでるのもバレバレだから隠す意味全然ないわね。
まったく‥‥初めから私に脈なんて無かったんだってよく分かる。
勉強も切り上げて帰り際、
「浩二、白百合の事送ってやってくれ」
響君が沢渡君にそう声をかける。
もうあれから半年になるけど、1人での夜道はまだ少し怖い。
美麗ちゃんと付き合う前は響君が送ってくれたんだけどね。
帰り道のついでとか言って。全然家の方向違うのに。
「もちのろん!俺じゃ役不足かもだけど送るよん」
「うん、ありがとね」
沢渡君に送られつつ、ふと気になったので聞いてみた。
沢渡君に彼女は聞いた事無いけど、もし好きな子とかいたら‥‥
「誰かに勘違いされたりとか大丈夫?」
「俺はモテないからにゃー。今は好きな子もいないから大丈夫。これでも黙ってればイケメンとは言われるんだけどねー」
「ふふ、何それ」
「女の子的には、女友達と話してるような感覚で男として見れないらしいよん」
「そう?結構男らしいところあると思うけど」
前に告白相手に掴みかかられそうなところを助けてくれたし‥‥
‥‥って、あれ?隣で並んで歩いてた沢渡君が立ち止まってる。
「沢渡君?」
暗くて顔色がよく見えないけど俯いている。
「さっすが、学年1の美少女。無意識に刺してくるにゃー」
「その呼び方やめて、嫌いなのよ」
「ん、ごめんね。それと‥ありがとう」
「え?何が?」
「分からないならそれでいーよ」
そのまま、少しテンションが上がった沢渡君に家まで送ってもらった。
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