14.おべんとう


夜。私は今、家で鯖を焼いている。


明日の朝にまた焼くけど、焼いた事が無かったので練習で焼いている。



青羽君のお昼ご飯、前はいつも学食だったみたいだけど、今は購買でパンを買って私と一緒に食べてくれる。


そんな青羽君にお弁当を作ってあげたいって考えたんだけど‥‥



迷惑じゃないかな?

喜んでくれたらいいな。


どんな顔して食べてくれるかな?

笑顔だったらいいな。


美味しいって言ってくれるかな?


‥‥美味しいって言ってくれたら嬉しいな。



料理には愛情を込めるって言うけど、どうやって込めたらいいのかな?

愛情たくさん込めたいな。



だって私は青羽君の、か‥かの‥‥か‥彼女だから。


「‥お母さん、愛情ってどう入れたらいいの?」


明日青羽君に作るお弁当の練習がしたいと言ったら、お母さんは隣で監修してくれている。


「そうねぇ‥美麗は今、どんな事を考えながら料理してる?」


「‥青羽君は味付け濃い方が好きかな。薄い方が好きかな。‥喜んでくれるかな。‥笑ってくれるかな。‥美味しいって言ってくれるかなって」


「つまり青羽君を想って、青羽君の事だけを考えながら作ってるわけね。ふふ、それなら大丈夫。これ以上ないくらいに入るわよ、愛情」


「‥良かった」


「好きな食べ物とか、嫌いな食べ物とかは知ってるの?」


大丈夫、それは聞いてる。


「‥好きな食べ物は鯖の塩焼き、嫌いな食べ物はない」


「渋いわね、青羽君。‥だからさっきから鯖を焼いてるのね」


お母さんはお仕事から帰っきて、お茶を飲んで寛いでいるお父さんの方を向いた。


「パパ、今日の夕飯は鯖の塩焼きだから。娘の手作りだから嬉しいでしょ?パパへの愛情は入ってないかもしれないけどね。ふふっ」


「なあ、さっきから名前が出てる青羽君っていうのがその‥」


「そう、この前話した美麗の彼氏」


「‥‥どんなやつなんだ?」


「青羽君ね、私が美麗を宜しくって言ったらすごく真剣な顔で目を逸らさずに『はい、大切にします』って言ったの。とてもいい子よ。あと、すっごいイケメン」


「会いたいような‥会いたくないような‥」


「ふふっ、娘を持つ父親は複雑ね」



お父さんとお母さんの会話を聞きながら完成した。


ちなみに、鯖の塩焼きは好評だった。






翌日、お昼休み。


「じゃあ、俺は購買寄るから。相沢、いつものとこで」


そう言って立ち上がった青羽君を呼び止める。


「‥あの、青羽君。あのね‥‥青羽君に、お弁当‥作ってきた」


「へ?」



青羽君、この前私とお母さんが作ったお菓子を美味しいって笑顔で言ってくれたから、卵焼きを甘くしてみた。


野菜もとった方がいいよね?って思ってプチトマトとブロッコリーも入れたけど大丈夫だったかな?嫌いなものはないって言ってたけど苦手じゃないといいな。


ご飯のところに桜でんぶで作った大きなハートマークは、恥ずかしくて海苔で隠しちゃったけど‥‥気付いてくれるかな。



「えと‥美味しくないかも‥しれないけど、でも美味しいって‥言ってほしくて。喜んでほしくて。‥‥愛情はいっぱい‥たくさん込めたから‥食べてくれると嬉しい」


そう言うと、青羽君は顔を両手で覆ってそのまま喋り出した。


「‥‥なぁ、相沢。抱きしめていいか?」


「‥ここじゃだめ」



恥ずかしい。

クラスのみんなが見てる気がする。




青羽君の友達の沢渡君がブラックコーヒーがどうとか言ってるけど、眠いのかな?






この後、お弁当箱の蓋に海苔が張り付いてしまっていて、現れた大きなハートマークを見た青羽君に抱きしめられました。



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