12.つなぎ


俺と相沢が恋人になってから1週間が経った。


俺も相沢も恋愛初心者だ。

一緒に登下校したり、一緒に昼飯を食べたりしているだけでめちゃくちゃ幸せではあるんだけど、何というか‥‥恋人としかできない事もある。


しかし、進め方が分からない。


というわけで相沢と話し合った結果、ここ1週間は相沢の持っている初恋系の恋愛小説を読んで、相沢は読み返して勉強している。



今日の体育の時に浩二から聞いた話を思い出す。

朝の登校中に相沢が手を繋ごうとしていたなんて‥‥


普段の俺なら気付けたはずだ。

では、何故そんな相沢の変化に気付けなかったのか?


答えは分かっている。

付き合ってからというもの変に意識しちゃって







相沢を見ると可愛すぎて直視できねぇんだよっ!







何だよこれ。この前読んだ小説の表現だと、目を合わせるだけで胸がキュンキュンしっぱなしでキュン死寸前だよ。


しかし、ここでヘタレてはいられない。

相沢に相応しい男になる。男尊女卑なんてつもりは一切ないが、こういう時は男がリードするものだろう。

だから、



俺は!今日!相沢と!手を繋いで帰る!



そう思ったと同時に授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。


「相沢、帰ろうか」


「‥うん」


相沢が嬉しそうに笑ってくれる。

ああ‥‥幸せだなぁ。



ちなみに相沢の家は学校から徒歩で通える距離で俺は電車で一駅分なので、朝は駅で待ち合わせて、帰りは相沢を家まで送ってから帰っている。


朝に相沢を待たせちゃったから朝も迎えに行くと言ってはみたんだけど、相沢から


『‥待ち合わせで、まだかなって思いながら青羽君の事考えたりすると、胸がポカポカして嬉しくなるの』


なんて言われたら従うしかない。


あの時の相沢は頭がおかしくなりそうなくらい可愛かった。




さて、校舎を出たところで切り出す事にした。


「なあ、相沢。右手を出してくれない?」


相沢は頭に(?)を浮かべながら右手を差し出してくれた。


「あ‥のさ、手を繋いで帰ろう」


「!‥う、うん」




指先をそっと相沢の手に触れ合わせてみる。




相沢が好きで、好きで、好きで、大好きで。

指先からその気持ちが伝わってしまいそうで、それが何だか気恥ずかしくて指を離しそうになったけど思い直した。



伝わってほしいなって。



少しずつ、ゆっくりと手を繋いでゆく。

じわじわと、心が手のひらから伝わる相沢の温もりで満たされてゆく。


ほんの少しだけキュッと力を入れてみた。


小さな手‥‥


少し力を入れてしまうだけで壊れてしまいそうな柔らかで温かい手。


この小さな手で、相沢はいつも独りで頑張っていたんだな。

もう独りになんてさせない。

俺がずっと隣にいるから。


そんな想いが溢れ出して、自然に言葉が口から出た。



「相沢、好きだよ」



相沢は繋いでいない方の手で、しきりに前髪をいじって目元を隠そうとするけど、

手を止めてチラッと俺を見上げた。


顔は真っ赤になっていて、だけど目を見て



「‥私も‥‥大好き」



と、言った。




恋人繋ぎなんてまだできないけど、

俺達はそれでいい。




手を繋ぐように、少しずつ、ゆっくりと




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