5.でーと(ぜんはん)
待ち合わせの1時間前。
俺は待ち合わせ場所である駅前の猫の像の前で落ち着きなくソワソワしていた。
忠猫タマ公前。飼主の死去後も10年に渡り飼主を待ち続けたという猫の逸話が残るここは、この辺りでは定番のデートの待ち合わせ場所‥だと浩二に聞いた。
周りを見てみるとなるほど、確かに時間を気にしている男が多い。
かく言う俺も時間を気にしながら猫の像の周りをぐるぐると回っているわけだが。
相沢と会える時間が刻一刻と近づくにつれて期待と緊張が高まっていき自分の服装を見直す。
‥‥変じゃないよな?
服装は昨日の夜の内に悩むに悩み抜いて決めた。
朝起きて普段1分で終わらせる髪のセットも15分かかった。
母さんにデートでも行くのかと揶揄われたが「俺はそう思ってる」と返すと目を丸くしながらも嬉しそうに見送ってくれた。
30分程して、背の低い女の子がこちらに向かって走ってきた。
相沢‥‥だよな?
顔が隠れるようなつばが広い黒のキャスケットを被り、白いパーカーに黒のロングスカートのモノトーンなコーデだった。
「‥待たせちゃってごめんなさい」
「いや、俺が待たせたくなかったから早く来ただけ。相沢がナンパでもされてたら嫌だしな」
「‥その心配はありえないから」
相沢が可笑しそうに少し笑った。
「いや、相沢の私服初めて見たけど可愛いぞ」
ちゃんと顔を見て言いたかったから、少し屈んで言った。
「‥ありがとう。‥‥今日はどうするの?」
「えっ!?俺が決めていいの?」
「‥うん」
荷物持ちする気満々だったわ
どうしよう‥デートとか経験ないし。漫画とかだとここは‥
「映画とかどうだ?」
「‥うん、いいよ」
「好きなジャンルは?」
「‥れん、‥アクション」
多分今、恋愛物って言いかけたよな?よし!
「悪いけど、俺の趣味に付き合ってもらっていいか?」
「‥うん」
俺と相沢は並んで恋愛映画を見ている。
恋愛小説が原作らしい映画で、客入りはそこそこといったところだろうか。
内容は、大学で中学校の頃に実はお互いに好きだった初恋の人と再会した男女が初々しくも心通わせて恋人となるが女の子が事故にあってしまう。事故で足に障害が残ってしまった女の子は、こんな私に付き合わせたら迷惑がかかると男にもう好きじゃなくなったと突き放すのだが、病室で一人泣く女の子を見た男は俺が一生傍にいると決心してプロポーズをする。
『俺、やっぱりお前が好きだ!俺と結婚してくれ』
『私も‥私も大好き。私をお嫁さんにして下さい』
と言って幕を閉じた。
もう号泣だった。
隣を見ると相沢もボロ泣きだった。
「いやー、最後良かったなー」
「‥うん、良かった。この映画見ようと思ってたから、ありがとう」
「それなら良かった。よし、昼飯でも食おうぜ」
そう言って映画館を出た俺と相沢はパスタの展示が美味そうだった喫茶店に入った。
休日の喫茶店なのでカップルが多いな。
「何にする?」
「‥カルボナーラ」
「それじゃあ俺も同じ‥」
ふと隣を盗み見るとカップルがお互いのパスタを交換し合っているのが見える。
俺もいつかは相沢と‥‥
くっ、消えろ煩悩!今は相沢を楽しませるのが優先だ!
「‥?」
頭を振ると相沢は不思議そうに俺を見ていた。
「いや、何でもない。俺も同じのにしようかな」
喫茶店でパスタを食べて食後のコーヒー、相沢は紅茶を飲んでいるが、相沢は周りをキョロキョロして少し居心地が悪そうな顔をした。
あれ?映画は楽しんでくれた‥よな?パスタ嫌いだったか?それとも俺の世間話がつまらなかったか?
「ごめん、楽しくないか?」
「‥違う、逆」
「逆?」
「‥私といて、楽しい?」
「んー‥‥楽しいとはちょっと違うかも」
「‥やっぱり‥‥」
「嬉しいかな?」
相沢は俯いた顔をあげて驚いたような顔をした。
「俺は相沢と休日を一緒に過ごせて嬉しいよ」
そう言うと相沢は
「‥‥‥そう」
と言って帽子のつばを下げた。
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