4.おさそい


振られてしまった後は、それはもう落ち込んだ。

家に着いてベッドに寝転がりながらさっきの言葉を思い出す。

相沢は何と言った?



『‥何の罰ゲームですか?からかうのはやめて下さい』



そう、俺の告白は罰ゲームだと勘違いされた。

俺の気持ちを知った上で振られた訳ではない。

せめて知った上で振られたのなら諦めも‥‥‥つくかなぁ‥‥‥振り向いて貰えるまで頑張る気がする。



脳裏に相沢の笑顔がちらつく。



とにかく、考えろ。俺の告白は罰ゲームだと思われた。


それは何故か?

相沢に信用されてないからだ。

それはそうだ。今まで相沢と俺にほとんど接点なんて無かった。

俺の告白は、相沢の事を考えてない独り善がりな好意の押し付けだったんだ。


だったらどうすればいい?

相沢に信用してもらえるように行動で示せばいい。

俺は自分が素晴らしい人間だなんて思ってないけど、俺の事を知ってほしい。俺が本当に相沢の事が好きなんだって信じてほしい。




次の日から、俺は相沢によく話しかけるようにした。

変に目立たないように気をつけてもみたけど、周りは少し奇異の目で見ていたかもしれない。




「相沢、さっきの授業で分からないところがあるんだが、よかったら教えてくれないか?」


「‥先生に聞いて下さい」



にべもなく断られようが



「相沢、何読んでるんだ?」


「‥本です」



躱されようが話続けた。



「相沢、一緒に飯食おうぜ」


「‥私は一人で外で食べますので」


「それ、俺もついてっていいか?」


無視して相沢が歩き出したのでついていった。




着いたのは校舎脇の外れにある人気のないベンチ。

へー、こんな所あったんだな。

辺りを見回している俺に相沢が口を開いた。


「‥いい加減にして下さい。私をからかって楽しいですか?」


「いや、俺本気なんだよ」


「‥信じられません」


「そうだ!今度の休日、一緒に出掛けないか?いつも本読んでるし、本好きだよな?でかい書店とかどうだ?俺、荷物持ちでも何でもするからさ」



一気に捲し立ててみたら、相沢はため息を一つ吐くと


「‥‥では、来週の中間テストで10位以内に入ったら、いいですよ」


と、言った。


本気じゃないなら、勉強なんか頑張らないとか思ったのだろう。


うちの高校では上位10人のみ公表され、その他は公表こそされないものの、各教科の点数と合計点と学年総合順位が書かれた紙を渡される。

俺はだいたい250人中100位くらい。だが!


「よっしゃ!分かった!10位以内だな!やる、やってやる!」


そう相沢に笑顔で返事をした。






そこからはひたすら勉強漬けだった。

休み時間も勉強

昼休みもパンを咥えて勉強

放課後はすぐに帰って勉強



テスト3日前の週末、今日も帰って勉強しようと思いながら靴箱に向かっていると白百合に話しかけられた。


「響君、早いけどこれから何処か行くの?」


「いや、帰って勉強する」


「あれ?響君って赤点さえ取らなければいいってスタンスじゃなかったっけ?」


「あー‥確かにそんな事言ったが‥でも、今回はちょっと頑張りたくてな」


「‥‥ふーん。じゃあさ、一緒に勉強しない?土日も勉強するなら、それも付き合うよ?」


白百合は10位内にたまに入るくらい頭が良かったはず。一緒に勉強すれば多分効率も上がるだろう。


だけど


「悪い、今回は自分の力だけで頑張りたいんだ」


そう言って断った。






休日もずっと勉強していた。


頭が捻じ切れるかと思ったが、その度に相沢の笑顔を思い出してひたすらに勉強した。



そうして臨んだ中間テスト

手応えはあった。今日は上位10人が張り出されるので、張り出し場所へ向かう。

そこには‥


3位 相沢美麗



俺の名前は無かった‥‥




不甲斐ない自分が情けなくて涙が出そうだった。

結果が記されている紙には13位と書かれていて、あと少し‥あと少し俺が頑張っていればと後悔だけが募る。




昼休み、校舎脇のベンチで一人昼飯をとる相沢に近付いて結果が書かれた紙を渡した。


「ダメだった‥‥今回は諦めるよ‥‥」


でも俺は諦めない!次こそ!そう、次はどうすれば一緒に出掛けてくれるか聞こう!

と、俺が決心したところで



「‥いいよ、出掛けるの。本当に頑張ったみたいだから」


「へ?い、いいのか?」


「‥うん、休み時間とかも勉強してたの見てたし」


「やったぁああああっ!!」


やばい、すげー嬉しい。

何より、敬語じゃなくなったのも壁を一つ超えられたようで嬉しかった。



そういえば、ガッツポーズなんてしたのは何年ぶりだろうか。



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