第8話 秘めた想い
ある日の夜の事だった。
カチャ
隣人を繋ぐ部屋のドアが開く。
「玲二っ!やっと会えた!」
「志都耶(しづか)は、いっつも突然だから」
「お願いだから、もう一度より戻そうよ!」
「口説いなぁ~。だって志都耶は俺を裏切ったくせに、より戻そうって……」
「玲二しかいないからっ!」
「………………」
カチャ
何も気付かず脱衣場からバスタオルを巻いて出て来る私。
目が合う私達。
私は脱衣場に戻る。
「えっ!? 部屋間違ったとかじゃないよね?多分……優崎君が私の部屋に来てる感じなんだよね…?」
しかも、相手は以前、私と言い合った女の人だ。
≪確かにまた来るって言ってたよね……≫
「本当に来ちゃったんだ…話し合いでもしに来たのかな? ていうか私の部屋で話すのは……」
「ごめん、志都耶。帰ってくれないかな? 話はする事ないし、俺、より戻す気は一切ないから」
「今度は浮気しないから!」
「無理だよ! 俺、裏切られた記憶……その傷は大きいんだから……恋もしたくなくなる位傷ついているんだから……」
トクン……
優崎君の悲痛な想いが込められた言葉が何故か私の胸の奥が小さく痛んだ。
「それに……今、俺…好きな子いるし……」
ズキンと私の胸が痛む中、涙がこぼれ落ちそうになる。
≪好きな子…?≫
「正直、恋もしたくなくなる位だったけど……俺、今、頑張って努力してる所なんだ……だから……これ以上、俺に構わないで欲しい…」
「…そうか……分かった…ごめん……玲二…」
彼女は帰って行った。
コンコン
脱衣場のドアがノックされる。
ビクッ
驚く私。
「ごめん……お騒がせして……」
私は脱衣場のドアをゆっくり開ける。
「……ううん……別に良いけど…」
「さあ、洋服着て。俺は部屋に戻るから」
「うん…」
優崎君は私の部屋を後に出て行った。
「………………」
「……好きな子……失恋しちゃった……ま、まあ、どちらにしろ無理か……だって…美人が大好きな優崎君だから……」
「………………」
「……結局…告白した所でフラレちゃうよね……そう…結局…私は……」
私は涙がこぼれる。
カチャ
再びドアが開く。
「紫原さん」
ドキッ
再び、優崎君の登場に私は慌てて涙を拭った。
「な、何?」
「あれ? まだ洋服着てないの?」
「あ、うん…そうなんだ。それで何?」
「あっ! ケーキの時の皿を返そうと思って」
「そ、そうなんだ。わざわざありがとう」
「ごちそうさまでした♪」
「うん…」
「紫原さん?」
「何? 優崎君…? どうしたの? まだ他に用事…」
歩み寄る優崎君。
そして、私の顔をのぞき込む。
「…どうして泣いてるの?」
ギクッ
「な、泣いてないよ。目にゴミが入っちゃって」
「…そう?」
「うん。だから心配しなくても大丈夫……」
ドキン
キスされた。
「………………」
「元気になるおまじない!」
ドキン
胸が大きく跳ねる。
「な~んて!」
頭をポンポンとする。
ドキン
「早く洋服着ないと駄目だよ。じゃあね!」
ドキン
いつもと変わらない笑顔に
私の胸が大きく跳ねる
だけど……
逆に辛いって……
そう思った瞬間でもあった
そんな中、優崎君は私の部屋を後に出て行った。
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