第7話 優しさ

「おかえり~♪ 紫原さん」



相変わらず


いつもと変わらない笑顔で


迎えてくれる優崎君



そんな私も優崎君に返事をする



「…ただいま…優崎君…相変わらずだね」

「えっ?」

「そこ」



私は隣人に繋がるいつも優崎君が出入りするドアを指差す。



「あー、そうだね。習慣化してきてる」

「…習慣化って……」

「紫原さん、いつも遅いね」

「バイトしてるから」

「無理してない?」

「えっ? してないよ」



スッ


私の前髪に触れると同時に、おでこにキスされた。



ドキン

胸が高鳴る。



「ゆ、優崎君!?」

「…どうかしたの?」

「えっ?」



優しい眼差しで心配するような表情で私を見つめる優崎君。



ドキン



まるで仔犬や仔猫のような愛しい眼差しで見つめる姿に私の胸はざわつく。



「紫原さんらしくないよ」

「や、やだな。普通だよ」




正直精神的に疲れていた私は

彼の優しさに甘えたかった


でも弱い部分を見せるなんて出来なくて

強気な事言って……




「………………」


「本当、平気だよ。大丈夫だから」




グイッと優崎君は抱きしめた。



ドキン

突然の事に胸が大きく跳ねた。




「女の子の…そういう顔…放っておけなくて…」




ドキン

優崎君の言葉に私の胸が大きく跳ねる。




≪…前にも…似たような台詞…≫




言葉は違っても

何処か懐かしく思えるのはどうして?




「…優崎君…」



私は優崎君を抱きしめ返した。





~ 優崎 玲二 side ~




彼女はとても疲れた顔をしていた


今にも泣きそうな顔をしているのを見て


放っておけないと思った




――― まるで ―――



あの時みたいに…………




俺は彼女の傍にいたくて


抱きしめたくて仕方がなかった




抱きしめてあげたいと…………




気付けば俺は


無意識に


彼女を抱きしめていた





それから数か月が過ぎたある日の事だった。



「玲ちゃーーん」

「うわっ! ゆ、裕奈(ゆな)さんっ!」

「ねぇねぇ、Hしよう♪」

「えっ!?」

「お願い♪」


「すみません。俺、もうそういうのは……」

「またまた~」

「いや…本当に!」



カチャ

私は隣人に繋がるドアを開けた。



「あっ!」



目が合う中、どうやらタイミングが悪かったようで私はドアを閉める。



カチャ

ドアが開いた。



グイッと私の肩を抱き寄せる優崎君。



「俺の彼女なんです! 帰ってもらって良いですか?」


「えっ!? 嘘!?美人じゃないじゃん!」

「美人だとか美人じゃないとか、俺、彼女の性格に惚れて。それにフィーリングが合うので」



≪フィーリング?≫



「そうなんだ…分かった…じゃあ帰る…」

「本当、すみません」



女の人は帰って行った。



≪フィーリング??≫



疑問の中、




「良かったの?」

「うん。今、自分の身の回りの整理中なんだ」

「身の回り?」

「そう。俺、今迄色々あったから…一つ一つ片付けてケジメつけてるんだ」

「そう…なんだ…」


「ところで、何か用事あったんでしょう?まあ、聞かなくても両手の腕の中にあるケーキが証拠なんだろうけど」


「あ、うん…甘いの食べれる?」

「うん、大丈夫だよ」

「良かった!」

「紫原さん、お菓子作りとかするんだね? 」


「うん…私、おばちゃんっ子で、小さい時からおばあちゃんの傍から片時も離れなくて、お菓子作りとか料理とか、おばあちゃんのお手伝いして教えてもらってたから。あっ! ごめん……どうでも良い話だよね」


「大丈夫だよ。そうか~おばあちゃんっ子だったんだね? そうなんだ。手作りって良いよね?愛情入ってるから絶対に美味しいよね~いただきま~す♪」



いつもと変わらない笑顔で言われた。




ドキン

私はその笑顔に胸が高鳴る。




そして、部屋を後に出て行った。




「…優崎君…本当…美人な子…好きなんだね……私じゃ…相手にならないよね……」





気付けば私は彼への想いがあり、タイプが正反対だから相手にしてくれないだろうと、いつも考えてしまう。



「……もっと美人が良かったな……もしくは可愛いとか……地味だし……絶対不つりあいだ……」




正直ヘコむ自分がいた。







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