第499話 収穫祭の終わり
「ではここで、収穫祭の代表である勇者村村長……まあ、みんな知っているよな! そう、世界を救った勇者、ショートだ! そして俺の娘婿でもある」
いつの間にか司会を務めていたブルストが、何やら自慢げに言っている。
周りから笑いが漏れた。
ちなみに、ブルストの声は隣でブレインが拡声魔法で会場中に届けている。
「おお、来た来た! ショートの挨拶だ! なにかやりながらでもいいから聞いてくれ!」
ブルストが下がっていった。
そこはステージになっており、なるほど、立てば周囲360度から見えることだろう。
俺が姿を現すと、周囲がワーッと沸いた。
「やあやあみんな。楽しんでる? へえ、そんなでかい芋を買ったの! 美味いぞー! そっちは燻製卵か! どんな料理にでも使えるぞー。おっ、ナイス織物! どんな服作るんだ? あっ、トラクタービーム買ったの? 動力大丈夫……? いやあ、みんな、ありがとう、ありがとう。俺です。ショートです」
ステージの上に立ち、周囲を見回す。
「ちょっと会場が広すぎて、みんなに俺の姿見えないよね。頭上に投影するから待ってて。頭上投影魔法、ホロミエール(俺命名)!!」
俺の頭上に、360度どこから見ても必ず俺の正面が見えるという不思議な幻像を出現させた。
これ、上から見ても下から見ても俺の正面が映る。
不思議だろう……。
会場がどよめいた。
そうか、俺の魔法を初めて見る人間も多いんだな。
「ああみんな、さっきブルストが言った通り、ながらでいい! 俺の話をさらっと聞いてくれ! 主催のショートだ。俺を知ってる人も多いだろうと思う。まあ勇者村の村長で、昔勇者だったこともある」
向こうから、世界を救った勇者ー!とか掛け声が上がった。
うんうん、そうやって素直に褒めてくれるのは珍しい。
世界からすると、最初は厄介者扱いだったもんな。
「ありがとうー! でだな。俺は勇者をやめて、この開拓地に来て、さっきのブルストと今の嫁のカトリナ、三人で開拓を始めた! 小さな小さなところからスタートしたんだ。それが今は、この規模だ!」
ぐるりを周りを指し示す。
どこまでも続くような収穫祭の店並び。
あちこちではキャンプファイヤーのようなものも焚かれ、肉や野菜が焼かれている。
音楽が鳴り響き、劇が行われ、人々が笑ったり叫んだりしながら行き交う。
つい一週間前までは、何も無い場所だった。
そこが今は、世界でも最大規模の人通りを持つ市場となったのだ。
周りから拍手が起こった。
俺は周囲に一礼する。
一回頭を下げたら、周囲全員が頭を下げてもらったように見えるのは、実に便利。
「野菜を育てるため、俺は試行錯誤した! そこで分かったのは、俺は畑を作ったり狩りをしたりの素人だってことだ! つまり、スローライフをしようと思ったら、俺には大して何もできなかったんだ! じゃあどうする? 君たちならどうする?」
周りが、うーん、とか、そうだなー、とか言い始める。
一人、小さい人が立ち上がった。
誰かが連れてきた子どもだろう。
「しってるひとに、きく!!」
「正解!!」
その子の言葉を、会場中に拡散した。
俺はその子を褒め称える。
「その通りだ! 知らない、分からないなら、知っている人に聞けばいい! 俺は様々な、スローライフの師と呼べる人々と出会った! 基礎の基礎をブルスト、そして畑を作り、肥溜めを作っていく生活全ての基盤を、畑の賢者クロロックから!」
ここでクロロックの映像を空に映し出した。
彼はどこかの屋台で、生きたまま売っていた魚をつるりと飲み下しているところだった。
いきなり注目され、彼は目をぎょろぎょろと動かした。
「これは参りました! ワタシ、何も話す準備をしていませんよ。ですが一つだけ言えることはあります。砂漠に住むカエルだって、水がなかったら自分でどうにかしようと思いません。ですけど、空から雨が降る時がある。それに備えて準備しておくんです。ショートさんはちゃんと準備してました。魔王を倒して、平和な世界を作るっていう最高の準備をですね。おや? これではワタシは砂漠に降ってきた雨みたいですね? ですがワタシ、カエルですので好き好んで砂漠に落ちてこないです。干からびちゃいますから」
そう言って、彼は喉を鳴らした。
この状況でカエルジョーク。
大物だなあクロロック。
その場は一瞬戸惑ったようだったが、俺がお受けに受けたので、みんなも笑い出した。
カエルジョークが世界を沸かせたぞ。
大したもんだクロロック。
彼はペコっと一礼した後、また魚を注文してからひとのみにした。
「ということでだ! 世界は広がった! そしてこうやって、世界は繋がりつつある! ま、あんまり便利になるのも困りものだが……この世界、ワールディアは魔王対戦の傷から立ち直りつつある。俺たち人間は、それだけしぶといし強いんだ。俺はおそう思ってるんだ。だよな?」
うおおおおーっとあちこちから返答の雄叫び。
子どもたちが飛び跳ね。男たちが叫び、女たちが歓声をあげる。
収穫祭は今、命を感じさせるたくさんの声に満ち溢れている。
俺は頷きながら、笑いながら彼ら全員の顔を見た。
比喩ではなく、ひとり残さず、みんなを見た。
「収穫祭は今日で終わりだが、今日ってのは次の太陽が昇るまである! だから最後まで楽しんでいってくれ! そして……今度は俺以外も、こんな感じの凄いことをやってくれ! 楽しみにしてる! 以上、勇者村村長のショートだ!」
スピーチ、終わり!
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