第498話 日本からもお客さん
「翔人! なんだか凄いことになっちゃってるなあ……」
「こんな規模になってるのねえ!」
「あっ、うちの両親じゃないか。まあ見てくれ。俺がこっちの世界でずっとやって来たことの集大成だ」
「おおおーっ」
両親が唸り、いろいろな店を覗き始める。
好奇心旺盛な二人のことだ。
勝手に散々楽しんでくれるに違いない。
こっちに来る人達には、翻訳魔法が掛かる仕掛けがある。
なので全く問題なく買い物ができるのだ。
ちなみに、こちらの通貨がない場合。
店番をしたり、労務をすることでお金を獲得することができる。
勇者村の小さき人々もかわいいお手伝いをし、お金をゲットしていた。
教育教育……!
「くーださーいな!」
小さい人たちが買い物に来ると、店の人々も思わず笑顔になる。
お料理の値段を伝えたり、熱いから気をつけてね、とか優しい声を掛けている。
小さい人を見ると、みんな優しくなってしまうなあ……。
両親も眉尻を下げて、小さき人々のサポートに徹しているではないか。
さて、日本からのお客様は両親だけではない。
なんかどやどやとたくさんやって来るではないか。
「みなさーん、こっちでーす」
パワースが先導している。
ということは彼らは……!
「あっ、どうもどうも」
パワースと一緒に先頭にいた市郎氏。
「農協の皆さんがこちらに観光に来まして。あちらの生産品と物々交換と言う形で」
「おっ、いいじゃないか。日本の作物は発展しているから、恐ろしく美味いもんな」
案の定、農協から受け取った作物で作られた屋台料理はめちゃくちゃに美味い。
誰もが驚愕する。
「うっま!? なんだこれ!?」
「おいおいおい、こんな野菜が甘いのかよ!?」
「ソースちょっぴりでいいじゃんかこれえ……」
「米の味の豊かなこと!」
「うますぎる……。なんだこれえ……」
次々に、農協が持ってきた日本産の作物に陥落していくこの世界の人々。
この味を覚えて帰って欲しい。
そして、この美味しい作物を再現することに頑張ってほしいのだ!
ワールディアの野菜はもっともっと美味しくなれる!
中には、農協の人たちから野菜の種を買い付けようとするものまでいる。
種から育てるの大変だぞぉ。
こんな動きの中、赤ちゃんを連れた女性がトコトコやって来た。
「おう!」
「やあ、来たよショートくん!」
海乃莉と力人くんだ。
力人くんはぱっちり目を見開いて、周囲の不思議な光景をキョロキョロ見回している。
ベビーカーに収まっているのだが、地面が舗装されていないこの場所でも、ベビーカーは平気で走っている。
サスペンションが内蔵されているのか!
「これね、ブレインさんが何かあったときのためって作ってくれたの」
「ブレインが!? あいつにそんな才能が」
今明らかになる、仲間の意外な能力!
「ばうわー」
力人が俺を指さして何かもちゃもちゃ言っている。
赤ちゃん語だ。
「伯父さんだねー。伯父さんがね、このすっごく賑わってる市場みたいなのを作ったんだよ。凄いよねー」
「ぱうー」
力人はまだ赤ちゃんだし、分かるまい。
「まあ、俺が全部やったわけじゃなくて、みんなが頑張った結果だったり、人と人が繋がってここにでかい収穫祭を開催できたんだけどな」
「それだって……。ここって、もともとはなんにも無かったんでしょ?」
海乃莉が感慨深そうに、行き交う人々や出店の賑わいを眺めている。
「ショートくんから写真が送られてきた時に、思ったんだよね。ショートくんはこっちで、幸せな家庭を築いて、仲間たちをたくさん得たんだなーって。そうしたらさ。想像以上なんだもん」
くすくす笑う。
「そうか……?」
「そうだよ。何もなかったところで、ショートくんは色んなことを始めたの。それで、たくさんの人たちがそこにやって来て、ショートくんと一緒に働くようになった。それで村は大きくなって……。新しい人と人の繋がりができて」
言われて思い返す。
確かに、色々あったなあ。
国をまたいであちこち行ったし、何回か魔王が振ってきたのをけちょんとやっつけたし、海外から作物を仕入れてきたりしたし……。
出会った人も別れた人もそれなりにたくさんいる。
数えてみたら、とても数え切れない気がした。
たった五年だ。
俺が勇者村を作ってから、それくらいしか経ってないのに……。
俺が関わった世界はこんなに広くなり、大きくなった。
「確かに凄いかも知れん……」
「でしょー? じゃあ、私はショートくんが作ったすっごい収穫祭で楽しませてもらおうかなー」
ふんふーん、と鼻歌をうたいながら、海乃莉がベビーカーを押していく。
すぐにパワースが駆けつけてきて、一緒になった。
あいつめえ、いい旦那さんをやってるじゃないか。
両親曰く、本当に仲の良い二人なんで、喧嘩してもすぐに仲直りしちゃうらしい。
なるほどねえ……。
「あれー? ミノリ来てた?」
「おやカトリナさん」
「義理の姉として、色々教えてあげようと思いまして」
年上の義妹にラブラブなカトリナなのだ。
確かに、2児の母として色々教えてあげたいことは多かろう。
そして三人目も時間の問題である。
ちゃんと励んでますからね。
次は男の子がいいな!
「ところでショート! そろそろだよ?」
「そろそろと言いますと」
「主催がみんなに挨拶しなくちゃ! 今日が最終日なんだから」
「ああ、そうだった! 閉会の挨拶だ!」
すっかり忘れていた。
挨拶の言葉を今から考えないと。
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