第496話 始まる収穫祭
宇宙船村から若い衆が到着した。
その間にも、俺は各地で宣伝をしている。
とりあえず数日間開催するとして……。
勇者村は僻地にあるから、通常の手段で来てもらうとちょっと大変だろう。
今回は特別に、コルセンターを世界の各地に設けた。
たくさんおらが村に来て欲しい。
久々のお祭りなのだ。
良からぬ輩が来るかどうかは、俺が分身して見張っておく。
これで万全であろう。
今回、このようなイベントをやった意味なのだが……。
「備蓄の保存期間的に、そろそろ使っておかないとな」
という意味もある!
クリスタル生命体連中が多次元から押し寄せてきて、いい感じに労働力になっている。
『いやあ、実はあちこちの次元を股にかけているとですね、様々な資材が手に入るのですが』
『我々は進化してしまったので、そこまで素材が必要ではないのです』
『そうしたら素材が溢れてしまって……』
『捨てるのもエコではない』
「どんどん来るな」
『我々の集合場所はナツドーによって破壊されていますからね』
『なので勇者村が集合場所です』
「それは仕方ない。それに、出し物が増えるのはいいことだ。おーい」
アキムを呼んで、クリスタル生命体への指示をお願いした。
彼はヒゲを撫でながら、
「なんつうか……。砂漠の王国ではただの男だった俺が、勇者村にいるとどんどんともでもねえことに関わっちまうなあ……」
しみじみ呟いている。
そうだなあ。
次元を股にかけてパトロールする、次元警察みたいなクリスタル生命体に出店の指示をするとか、普通経験できないもんな。
こうして、クリスタル生命体統括はアキムに任せた。
コルセンターからは、次々にお客がやって来る。
みんな自国の名物とかを持ってきて、物々交換に応じてくれるのだ。
大いに交流して欲しい。
収穫祭は勇者村を越えて、宇宙船村まで届く範囲全てを会場とした。
これ、地球で言うならば……うーん。
長さ五キロくらい、幅三百メートルくらいの範囲が全部収穫祭会場になるみたいな?
広すぎだろ。
めいめいバラバラに店が大量に立ち並び、俺が把握しきれないほど多種類のものを売っている。
食べ物、作物、家畜、農具、武器、防具、宇宙船から剥ぎ取ったオーパーツに、他次元で使用されているよく分からない道具の数々などなど……。
おっと、万引きが出た。
不届きな奴は、世界の裏側から来たらしい。
別の遠い国なら盗んでもバレないと思ったんだろう。
だが、甘い。
わーっと飛び出してくる、宇宙船村の活きが良い連中。
その先頭に立つのは……。
「許さんぞー!! 待てー! わはは!! ここならトラクタービームの射程じゃーい!! うちに来るヘタクソどもと違って、わしは射的がうまいぞー!!」
「トラクタービーム射的店の主人じゃないか!!」
「おお、勇者村の村長か! 見ておれ! トラクタービーム射的はこうやる!!」
何度もトラクタービームを当てられてきた店主は、見本とばかりにその腕前を見せつけてくれる。
グーンと伸びた、ぐねぐね曲がったビームが……。
「ウグワーッ!!」
見事に万引き犯をキャッチした!
空に持ち上げられ、どんどん引き寄せられる。
「な、な、なんだよこれー!! 田舎に来て一稼ぎと思ったら、見たことも聞いたこともない不思議なものばっかりで、しかもこれ空中に持ち上げられて逃げられねええええ」
うむ、技術レベルで言うとこのファンタジー世界と2000年くらい隔てられたやつだからな。
それを使いこなす射的屋の店主は流石だ。
ついに捕まった万引き犯はボコボコにされた。
仕方あるまい。
悪いことをしてはいかんぞ。
特にこの収穫祭は怖いところだからな!
あっ、向こうでは恐喝しようとしたやつが、クリスタル生命体に囲まれて棒で叩かれている。
棒で叩くんだなあお前ら。
だが、収穫祭はこんな殺伐としたところばかりではない。
「くーださーいなー!」
村のお漬物のビンを持ったマドカがお店に声をかけると、若い兄ちゃんがニコニコしながら現れた。
「おう、おちびちゃん、何が欲しいんだ? うちは乾物屋だぞ。なんでも干して乾かして売ってるからな。そのお漬物と交換かな?」
「はーい! おいしいのください!!」
「美味しいのかあ。よーし、じゃあこれかな! 川魚を干したヤツ! そのお漬物が一瓶なら……三匹だ!」
「おおー!!」
うんうん、いい取引だな。
嵩もかなり増えた。
マドカはほくほく顔で、魚を抱えて走っていった。
よくよく見ると、小さい人たちも親に見守られながら、お使いを楽しんでいる。
これはいい光景だなあ……。
始まって早々だが、あちこちでドラマが起こっているなあ。
これは楽しい。
開いてよかった、収穫祭。
ハジメーノ王国のみならず、世界のあちこちからお客が訪れるのだ。
「コルセンターが空いてると思ったら、勇者村に繋がってるじゃねえか。危うく消しちまうところだったぜ……」
「おや? その声は……」
「僕らです! です!」
「パピュータとサイトじゃん」
サイトはコルセンターを消さないように、ジャンプしてくぐり抜けてきたらしい。
こいつの身体能力ならいけるだろう。
二人に旅の話などを聞きながら、収穫祭を案内してやることにする俺なのだった。
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