第495話 勇者村大収穫祭~準備編~
変わった住人が増えた。
いや、住人と言っていいのか分からないが、とりあえず常駐するやつらが増えた。
クリスタルみたいな連中がトコトコ歩き回り、野菜の収穫を手伝ってくれる。
「ありがとうー! 助かるー」
『なんのなんの』
ミーが普通に会話してるな。
これは116号がさっき仕事で出ていって、代わりにやってきた231号。
見た目はトゲトゲのクリスタル人間で、大変禍々しいシルエットだが透き通ったクリスタルだから相殺されてる感じだ。
で、人当たりがよくて野菜の収穫がめちゃくちゃ上手い。
『次元パトロールよりも野菜の収穫のほうが向いているかも知れん』
なんか言ってる。
こんな感じで、次元間生命体同盟があっという間に、勇者村に馴染んだのである。
「頭数も増えたことだし、そろそろ収穫祭をやっていきたい」
ある日、俺は村人を集めてそうぶち上げた。
「いいね、収穫祭! やろうやろう」
「面白そうですな! 久しぶりですし、そういうイベントはぜひやりたい!」
フックとアキムも大賛成だ。
「俺はそうだな……。豪快な猪肉の串焼きなんかをやりたいな」
「あたしらはもう焼き肉で店を出す気満々だからね!」
ブルストとパメラ、やる気だな!
もちろん、小さき人々は何か凄いことが始まるようだぞ、と大興奮。
勇者村は娯楽の種類がそんなに無いので、お祭りは貴重なのだ。
「そうだな、宇宙船村からも人を招くか。向こうの屋台を出してもらってもいいし。だが、貨幣なあ……貨幣……。うちはまだ物々交換で行きたいが」
「村長!」
挙手する人がいた。
おっ、ブレインじゃん。
「村の外に出ていく人もいるでしょう? なら、今から子供たちに貨幣とその使い方を教えておくのもいいんじゃないでしょうか」
「なるほどなあ……」
「人は便利なところに集まるものですけど、便利すぎると便利さに人が使われるようになりますから。そうしたらみんな帰ってくると思いますし」
「確かに確かに。俺の世界だと、都会への流出が止まらんかったんだが、これはあまりにも流出に便利過ぎる交通機関があったせいだしな。で、確かに都会では便利さに使われて疲れちゃうやつが多かった気がする」
うんうんと頷く。
ま、俺は地元から出たことが無かったけどな。
よし、そうなれば話は早い。
村で食うものは収穫して加工して、出し物に使う分は保存するか。
メンタルとタイムの部屋を使うか。
で、宇宙船村までお知らせに行って……と。
こりゃあ忙しくなるぞ。
『広報に行くのですか? 私も行きましょう』
「231号! なんでついてくるの」
『なかなかじっくりと異世界を見ることは無いもので、物味遊山です』
「なんと歯に衣着せぬ言い方をするのか」
だが、こいつは見た目も目立つしありがたい。
「ちょっと派手に飛ぶが、お前の耐久性とか大丈夫?」
『次元間移動にも耐えられるボデーですよ。お任せ下さい』
その言葉を信じて、俺は231号を背負ってバビュンで飛んだ。
『うわああああああ壊れちゃう壊れちゃう』
「壊れそうじゃん!! ちょっと我慢しててな。あと数秒で到着するから。ほい到着!!」
ズザーッと宇宙船村の前に着地。
地面を削りながら滑っていく。
ちょうど入口あたりでピタリと止まった。
『いやあ想像以上でした。次元間移動に耐えられる私のボデーがミシミシ言ってますよ、ハハハハハ』
「笑い事じゃないだろ。だが笑えるなら大丈夫なんだろうな……。では行こう」
宇宙船村に入っていくのである。
「あっ、勇者村の!」
「うむ、村長のショートだ」
俺が入っていくと、入口で一応見張りみたいなことをやってた村人が、ビシッとかしこまった。
隣りにいる、成人したばかりみたいな青年はきょとんとしている。
「なんで他の村の村長相手にそんな緊張してんですか?」
「ばっか! この人はな、勇者村の村長なんだよ! 別格なんだ!」
「どう別格なんすか」
「勇者村の村長って言ったら、五年前に魔王マドレノースを倒して世界に平和ををもたらした、正真正銘の勇者様なんだよ!」
「へ!? え、ええええええーっ!? れ、歴史上の偉人じゃないっすか!! ひいい!」
慌てて若いのもビシッと敬礼みたいなことをした。
だんだん俺を知らない世代も増えてくるんだなあ。
時代の流れを感じる。
これはこれでちょっと面白いな。
俺は宇宙船村の新たな村長とお喋りなどをし、「勇者村で収穫祭をな。そっちからも屋台とか回してくれ。実は一部において貨幣制度を開放することにしたので」
「なんと! 勇者村のネームバリューで稼げるなら、ぜひぜひ!」
生臭い!
目がお金マークになったぞ。
だが、その村長がひと声かけたら、やる気に満ちた若いやつが集まってきた。
「勇者村の野菜で料理できるってマジですか!?」
「屋台やる! やります!!」
「やるぞやるぞやるぞやるぞ!!」
おお、凄いな。
エネルギーをびんびんと感じる!
「頼むぞ……!」
とりあえず彼らと握手して回った。
そして、アコギなことをしたら勇者パワーを決めてやるぞ、と深層心理に働きかけておく。
これでよし。
適切な価格でやってくれよな。
これを横で眺めていた231号が、腕組みしながらうんうん頷いているのだ。
お前、結局何もしなかったな……!!
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