第494話 別世界の人と歓談する

 ゆっくりと乾季に切り替わりつつある勇者村。

 雨が少なくなってくると、小さい人たちが外に出る機会も増えるのだ。


「さて……」


 物心付いてきた小さい人々に、俺は向き合った。

 マドカとサーラを先頭に、バインとダリヤとショータがいる。


「今日は、雨季でもりもりと生えた畑の雑草を抜いてみよう。土はばっちいから口に入れたらいけないぞ! こう! こう抜いて……。ここにポイ! いい?」


 実践して見せると、「はーい」といういいお返事があった。

 ショータはこの中でも一番ちびっこだが、獣人の血が混じっているので成長が早い。

 背丈ならダリヤと変わらないくらいだ。


 ということで、きちんと理解してもらえるものと思って草むしりを伝授したのだった。


「いっぱい草むしりしたら、みんなのお母さんがおやつを作ってくれるぞ!」


「おやつたべたいねえ。みんながんばろうね!」


 みんなのお姉ちゃんであるサーラ。

 まとめ役が上手い。

 マドカはその横で、肝っ玉系のお姉ちゃん役である。


 バインがパワフルに草を引っこ抜き、ダリヤは丁寧に根っこから抜き、ショータは草を引きちぎっている。

 うん、精密動作はショータにはまだ早いな!


 いやあ、小さい人たちも千差万別だ。

 この乾季が終わると、シーナとギアもここに加わることになるだろう。


 俺は満足しながらこの光景を眺めていた。

 するとである。


『あのう』


 何も無い空間から俺に呼びかける声が……。

 そう言えば一昨日、別世界からの侵略者を片付けたな。

 ちょっとだけ、この世界と別次元との境界線が脆くなっているかも知れない。


『もしやあなたが、次元侵略者のナツドーを滅ぼした……』


「やつの名前は聞いていなかったが、いかにも……。せっかく乾季に変わって晴れ空が増え、新しい作付けでウキウキになるところに水を差してきそうだったのと、態度がちょっと気に入らなかったので粉砕した」


『おおー、流石です! あの、そちらにちょっと伺っても?』


「いいぞいいぞ。こっちはちびさんたちの草むしりの最中だからな……」


『なんと! 世界の危機から幼き子供たちの指導まで……。どうやらあなたは凄い方らしい』


 勝手に感心したようである。

 すぐに俺の横の空間が扉のようになって開き、角の生えたクリスタル人間みたいなのが出てきた。


「なんかでた!」


 マドカ、大いに驚く。

 サーラがダリヤの手を引いて、サッとマドカの影に隠れた。

 危機管理できてて偉い!


「ああ、大丈夫です大丈夫です。私は平和的な次元間生命体です。実は我々、次元間パトロールを行っていた次元間生命体同盟がですね、ナツドーによって壊滅的打撃を受け、次元犯罪者が次々と世界の壁を超えるような事態に……」


「いきなり複雑な設定の話を放り込んでくるじゃん」


 俺も大変驚いたぞ。


「つまりこのエーテル宇宙とは別の次元のお話?」


「ええ、そうなります。世界とは、人によっては住まう土地、地域、惑星のみを現すものです。ですが我々にとって世界とは、その次元そのものを指します。これを一つの世界とした時、そこに隣り合う複数の世界が存在しているのです」


「規模が大きい話になって来た」


「あなたもその気になれば、次元間移動が可能でしょう」


「うむ。多分そろそろできると思う……」


 思えば最初の頃は、地球に戻ることすらできなかった。

 今の俺なら、別にゲートなど使わなくても地球まで移動できるだろう。


 問題は、俺が移動する余波がでかすぎるので、大気圏内に出現すると大規模な魔力災害を起こしてしまうことだな。

 具体的には地球がファンタジー世界みたいになる。

 なので、今は厳重に自分たちに結界を張り、ゲートのみを使って世界をびっくりさせないように移動しているのだ。


「それでですね、我ら次元間生命体同盟は散り散りなのですが……。ここに、ナツドーを文字通り朝飯前で滅ぼした人がおられた」


「ああ、運動した後の朝飯は美味いんだ」


「豪胆! そこで一つお願いがあるのですが……。我らの新しい本部を、この村の片隅に設置させて頂けると」


「あ、移住のお願いか! いいよいいよ。うちはいつでも移住は歓迎なんだ。ただし、畑仕事はきちんとやってもらう。その条件でいいならやって来てもいいぞ」


「ありがとうございます! では生き残っている全ユニットに連絡を取りましょう! まあ、全員が来ると大混乱ですので、常に三体ほどが常駐する形にさせていただいて……。場合によってはあなたの手を借りたく」


「いいよいいよ。俺はショートだ」


「ショートさん、よろしくお願いします。私は正しい名前は人間の言葉では発音できませんので、116号と呼んでいただければ」


「分かった。よろしくな、116号」


 ということで。


「ほう、これが草むしりですか。いつもは次元間を移動しながら侵略者を次元攻撃で撃退する生活をしているものですが」


「おじちゃん!!」


「私がおじちゃん!?」


「おじちゃん! くさむしりはこうするのよ!」


 マドカが行った!!

 物怖じせず、クリスタル生命体である116号に草むしりを教授している。


「な、なるほど。こうやって」


「こうやるの! つあー!」


「ツアーッ! ウワーッ!」


 自分の勢いでふっ飛ばされる116号。あ、今パリーンとか言ったな!?


「じ、自己修復できますから! 草むしり……なんとエクストリームなワークなのでしょうか……」


 面白いやつがやって来たなあ。

 そして勇者村の草むしり要員がまた増えたのだった。


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